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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第2章 南燕編

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16話 広陵の戦い

 平原が黄色い。

 地平線まで、黄色い頭巾を被った兵が埋め尽くしている。風が吹くたびに旗がはためき、黄色の波が揺れる。北府軍3万は南燕軍4万と対峙した。


「……圧巻だな」


 ボクシが静かに言った。感心でも恐怖でもない、純粋に事実を述べる声だった。


 広陵の城壁が遠くに見える。城を取り囲む南燕の別働隊2万が、蟻のように張り付いている。城内の守備軍2万は身動きが取れない状態だ。


 俺たちと城内との間に、4万の黄色い壁がある。


「リュウロウシ様」


 ケイシャンが馬を寄せた。


「広陵との連絡はどうしますか」


「追って考える。まず陣を張れ」


 リュウロウシが短く答えた。その目はすでに地形を読んでいた。



 本陣の幕が張られたばかりの頃だった。


 商人の一団がリュウロウシを訪ねてきた。率いているのは女である。


 年はアイと同じくらいか、少し上か。落ち着いた色の絹の上衣を着ており、商人らしい実用的な身なりだ。だが立ち居振る舞いに隙がなかった。値踏みされているような目が、本陣を見渡す。


「広陵の商会、チン家のチンリンシと申します」


 澄んだ声だった。


「リュウロウシ将軍にお目にかかりたい」


 兵が制止しようとした。だがリュウロウシが手を上げて止めた。


「通せ」


 リンシはリュウロウシの前に立ち、深く礼をした。それから顔を上げ、真っ直ぐ目を合わせた。


「南燕の包囲が始まって半月になります。城内への物資の搬入が止まり、城外の在庫が滞っています。チン家の商会は矢、食料、薬の在庫を持っています。北府軍の補給にお使いください」


「条件は」


「南燕が退いた後、広陵での商いの優先権をいただければ」


 リュウロウシはしばらくリンシを見ていた。


「いいだろう。話を続けろ」



 打ち合わせが続く中、俺はその場に同席していた。


 リンシが物資の種類と数量を読み上げる声を聞きながら、どこかで見たような気がしていた。会ったことはない。だが何かが引っかかる。


 打ち合わせが一段落した頃、リンシがふとこちらを見た。


 じっと俺の顔を見る。それからゆっくりと口を開いた。


「あなたが、あのリュウユウですか」


「そうだが、会ったことはないぞ」


「広陵の賭場の話は聞いています。イカサマを暴いて大騒ぎにした男だと」


「荒らしてはいない。暴いただけだ」


 リンシが笑った。声に出さない、口の端だけで笑う笑い方だった。


「噂通りですね」


「どんな噂だ」


「大きくて、馬鹿正直で、妙に度胸がある男だと」


「馬鹿正直は余計だ。ところで何と呼べばよい?」


「ではリンちゃんとでも」


 俺は特に深く考えずに言った。


「リンちゃん。よろしく頼む」


 隣でアイの気配が変わった。振り向くと、アイが無言でこちらを見ていた。目が細い。何も言っていないのに、全部言っているような目だった。



 翌朝、南燕軍が動いた。


 太鼓の音が平原に響く。黄色い頭巾の波が前進を始める。


「来るぞ」


 リュウロウシが静かに言った。北府の陣が構える。


 距離が縮まる。俺は棍棒を握った。


 最初の衝突は凄まじかった。


 南燕の兵は陣形など気にしなかった。ただ真っ直ぐに向かってくる。矢を受けても止まらない。槍で突かれても倒れない。倒れても立ち上がる。


「なんだこいつら」


 ドウキが叫んだ。


「急所を狙え。それ以外で止まらない」


 ボクシが怒鳴り返す。


 俺は棍棒を振った。腕に魔力を流す。一振りで数人が吹き飛ぶ。それでも次が来る。また振る。また来る。


 ドウサイが地面を突き揺らす。シャカイが風を巻き起こし一帯を薙ぐ。カンシュクが的確に急所を射抜く。


 それでも南燕軍は削れなかった。


 ソンオンの親衛隊より強かった。


 日が傾いた頃、南燕が引いた。第一波が終わった。北府軍には千人以上の犠牲が出ていた。南燕軍も同じくらい討ったが、北府軍の疲労は著しかった。


 北府の陣に静寂が戻る。あちこちで傷の手当てが始まった。アイの治癒部隊が走り回っている。


 俺は肩で息をしながら、戦場に残された南燕兵の骸を見た。どの顔も、苦しんでいなかった。むしろ穏やかだった。死ぬことを恐れていなかった。


(ソンオンの兵は恐怖を消されていた。こいつらは……恐怖を信仰に変えている)


 質が違う。


 リンシが近づいてきた。戦場を見渡し、それから俺を見た。


「初日の消耗、想定より大きいですね」


「ああ」


「この調子だと長引くと不利です」


 俺は黙っていた。


「補給は私が何とかします。このままでは3日と持ちません」


「分かっている」


 リンシは少し間を置いてから言った。


「早く終わらせてください。お願いします」


 商人の言葉だったが、その目は真剣だった。広陵で商いを続けてきた女の目だった。


 俺は頷いた。


「終わらせる」


 根拠はなかった。だがそう言うしかなかった。

リンシも史実にいる人物をモデルにしてます。物語では商人になってますが、史実ではそうではありません。誰をモデルにしているか分かったらかなりの歴史通ですね。

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