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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第2章 南燕編

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17話 鋒矢の陣

 2日目の朝。俺はリュウロウシに呼ばれた。


「一気に突破する為に攻撃的な陣形を取る。先頭はお前だ」


 北府軍は鋒矢の陣を引く。3万の軍はまるで矢のような陣形を取った。鏃と言うべき先頭に、俺の五百人隊が立つ。


 出陣前、リンシが俺のところへ来た。


「昨夜、商会の者を使って城内の将校に連絡を取りました」


「どうやって」


「それは商売のやり方です。教えません」


 リンシが小さな包みを差し出した。


「携帯食です。今日は長くなりそうなので」


「ありがとう」


「武功を立ててください。そうすれば私の商売も続きます」


 飄々とした顔で言った。アイが横でそれを見ていた。何も言わなかったが、包みを一瞥した目が全てを語っていた。


 ◆


「武功を立てる機会だ!敵陣を突破する」


 俺は声を上げた。ドウサイやショカツたちの目の色が変わる。みんなリュウロウシの突撃の指示を待った。


「敵は随分と焦っているな。広陵の兵糧は少ないと見える」


 南燕軍を率いるダンキは、北府軍の陣形を見て呟いた。


「決して突破を許すな!」


 ダンキは檄を飛ばし、軍を密集させた。黄色い兵たちが幾層にもなり分厚くなる。


「あそこに突っ込むのか……」


 ドウキは不安そうな顔をしていた。俺はその背を叩き喝を入れる。


「ただ突っ込むだけでは突破できないぞ」


 ボクシは敵軍を指さし、「見ろ。みんな同じ黄色に見えるが、将校は馬上にいる。あいつらを狙うんだ」と言った。


「ああ。分かっている」


 俺は頷き、馬に跨がり、どこに将校がいるか確認した。慣れない馬上で体が傾きかけた。隣でモウチョウが素早く手を伸ばして支える。


「落ちるなよ。頼むから」


「分かってる」


 戦場に太鼓の音が鳴り響く。


「いくぞ!俺に続け!」


 俺の雄叫びに呼応し、五百人隊が叫ぶ。鋒矢が放たれた。


 俺の後には北府軍の先鋒1万ほどの歩兵が続いた。背後から味方の圧力を感じ息苦しくなる。止まることは出来ない。止まったら味方に踏みつぶされてしまいそうだった。


 黄色い敵の歩兵が槍を構える。カンシュクが走りながら矢を放った。目の前の五百人将を撃ち抜く。わずかではあるが敵陣が揺らいだ。


「ぐおおおおおおー!」


 俺は馬腹を蹴り、揺らいだ場所をめがけて突っ込んだ。馬は加速し俺は落ちそうになるのを必死に堪えながら棍棒を振り上げる。


 棍棒を振り下ろすと、黄色が飛び散った。ドウサイとショカツが飛び込んだ。巨大な斧と大剣が舞う。更に黄色が飛び散り敵陣に穴が開く。


「止まるな!深く抉るぞ!」


 ボクシが俺に向かって叫ぶ。背後から味方の歩兵の圧力が来た。南燕軍が大きく揺らぐ。


「崩れるな!踏み留まれ!」


 ダンキは叫び、太鼓を打ち鳴らす。南燕軍は吹き飛ばされても立ち上がってくる。


「こいつら、やっぱりしつこいぞ!」


 北府軍の脚が止まった。南燕軍が盛り返している。


 そこへ北府軍の第二陣が突っ込んできた。波状攻撃であった。後ろからの圧力に第一陣は前に押し出される。その波が南燕軍に伝わり再び大きく揺らいだ。密集しているだけに揺らぐのは早かった。


 ダンキは咄嗟に本陣を固める方向に動いた。旗が振られる。


「大将首をもらうぞ!」


「違う!ユウ!あっちだ!」


「なんで!?」


「目的は広陵の解放だ!ここを突破して城を包囲している敵を崩すんだ!」


 ボクシの言うことを聞き、俺は方向を変えた。ダンキが本陣に兵を集めたことで、敵軍が薄くなった箇所に狙いを定めた。


 俺の動きに呼応してケイシャンが騎馬隊5千で、回り込むように敵の側面を突いてきた。内と外からの攻撃に南燕軍の端が崩れた。奥に居た広陵を包囲している南燕軍2万が姿を現す。


 俺はそのまま包囲軍に突っ込んだ。ケイシャンも崩しにかかる。


 それを見ていた広陵の守将は門を開けて撃って出てきた。包囲軍は予想外の攻撃に混乱する。


「まずい!包囲が解ける!」


 ダンキは判断を誤った。慌てて本陣を広陵に向ける。だが、ダンキの行く手を北府軍の第三陣が突っ込み遮った。リュウロウシの本隊が南燕軍を立ち割る。


「くそっ!邪魔をするな!」


 ダンキは剣を抜き、リュウロウシに向かった。


「ふん。貴様ごときに負けると思うのか?」


 リュウロウシも剣を抜いた。


 交錯する。


 ダンキは肩を斬られる。落馬しそうになるのを必死に耐えた。そのまま離脱する。


 大将の離脱があっても南燕軍は踏み留まろうとした。彼らにとっては大将よりも信仰なのだ。逃げるという考えが無い。だがそれも全てではなかった。


 ダンキが離脱した瞬間、南燕軍に亀裂が走った。信仰の薄い兵から順に崩れていく。半数近くが潰走を始めた。


 残ったのは1万ほどだった。


 目の色が違った。逃げない。怯まない。倒れても立ち上がる。信仰の厚い者だけが残ったのだ。


「こいつらをどうする」


 ドウキが言った。北府軍にも疲労が見えていた。


「囲め。消耗戦にはしない」


 リュウロウシが命じた。


 北府軍と広陵守備軍が合流し、残存する南燕の1万を包囲した。逃げ場はない。それでも南燕の兵は武器を捨てなかった。穏やかな顔で、ただそこに立っていた。


「信仰というのはいったい何なのだ……」


 俺には理解できなかった。死んで幸せになるとは思えなかった。


 広陵は解放された。だが俺には勝った実感がなかった。おそらく俺以外の人たちもそうであるに違いないと思った。リュウロウシも複雑な顔をしている。


 罪悪感のようなものが襲ってきた。


 ◆


 夕刻、リンシが陣に戻ってきた。


 城内との行き来が再び出来るようになったので、商会の者を走らせていたのだという。


「広陵の中の状況を確認してきました。民は無事です。物資の損耗も想定より少ない」


 淡々と報告した。それからふと俺を見た。


「怪我はありませんか」


「ない」


「そうですか」


 リンシは少し間を置いてから言った。


「……よかった」


 それだけだった。踵を返して歩いていった。


 アイが隣に来た。


「何だあの女は」


「商人だ」


「そんなことは分かっている」


 アイは腕を組んで立ち去るリンシの背中を見ていた。


 それ以上は何も言わなかった。

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