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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第1章 北府入軍編

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12話 ポリエステル

 北府の軍はソンオンを追い、句章へ進軍した。城壁はさほど高くない中堅都市である。ソンオンの軍は原野の戦いで散々に打ち破られ、句章に籠るのは3千人ほどであった。


 3万の兵で城を囲む。


「10倍の兵力だからと言って油断するな」


 リュウロウシは将校を集めて作戦を伝えた。城壁に梯子をかけて中に侵入し、門を開ける。正攻法の城攻めである。


 俺にとっては初めての城攻めである。城壁を見上げる。ソンオンの弓兵が待ち構えている。


「普通に登って行ったら射貫かれるぞ」


「何を当たり前のことを言っている。弓矢に耐えながら登るんだよ」


 ボクシは事もなげにさらりと言う。


「ここは身体強化が出来るユウの出番だぞ。先頭で矢を受けてくれ」


「いやいや、そう簡単に言うなよ」


「問題ない。お前は頑丈だ」


 攻城戦が始まった。何か所も梯子が掛かる。城壁の上から矢が雨のように降り注いだ。他の歩兵隊は矢に射られ、梯子から落下する者が相次いだ。追い詰められたソンオンの兵たちは必死に防戦した。


「敵は少ない。こちらの攻撃に全て対処できるわけがない。手を緩めるな」


 リュウロウシは太鼓を鳴らし続ける。城壁に掛かる梯子の数が増えていく。


「ユウ、行くぞ。俺たちの番だ」


「仕方ない。俺の後に続け」


 俺は全身に力をこめると、体が鉄のように硬くなっていった。先頭で梯子を登る。


 矢が来た。


 弾き返す。


「化け物だ!登ってくるぞ!」


 城壁のソンオンの兵たちは慌てた。ただでさえ防戦一方なのに、矢が通らない巨漢が登ってくるのだ。矢だけでなく煉瓦や石など投げつけたが、びくともしなかった。


「よし!登りきったぞ!」


 難なく城壁の上に登り、棍棒を振り回した。弓兵が吹き飛ばされる。ユウに続いて、ドウサイやボクシ、シャカイと登ってくる。そして百人隊が登りきる。


 城壁の上に拠点が出来た。門に向けて走り出す。


「門に近づけるな!」


 だが、百人隊は止まらなかった。棍棒で突き倒す。火球で弾き飛ばす。ついに門の上へ辿り着く。


「よし!ユウ、飛び降りて門を裏から開けろ」


 ボクシはそう言うと、ユウの背中を押した。


「おい!待て!うああああああ!」


 城壁の上から落とされた。ドシーンと地面に着地する。ちょうど門の裏であった。


「門の裏にある岩を投げ飛ばせ!」


 ボクシは縄で城壁を降りながら俺に向かって叫んだ。


「分かっている!人使いが荒いぞ!」


 俺は門を守る兵を弾き飛ばし、巨大な岩を抱きかかえた。


「ぐおおおおおおおお!」


 岩を持ち上げ、投げ飛ばす。それを見てソンオンの兵たちは驚愕した。


「なんだあいつ!本当に人間か!」


 重りが無くなった門が開いた。ケイシャンの騎馬隊が突入してくる。城壁の上も北府の軍が完全に掌握していた。


「ユウ!急ぐぞ!ソンオンを捕えるのだ!」


 ドウサイは俺を促した。句章はもう落ちたも同然だ。後はソンオンを捕えるか討つだけだ。俺もソンオンがなぜ俺に怯えたのか気になっていた。


「いたぞ!ソンオンだ!」


 ソンオンは信徒たちに守られ、開門した方と違う門から逃げようとしていた。俺と目が合う。


「ひぃいいいいい」


 ソンオンはまたもや悲鳴をあげる。


「おい!まて!話を聞かせろ!」


 追いかけた。味方もソンオンに向かって殺到している。


「ソンオン様!お逃げください!」


 近衛兵たちがソンオンを逃がそうと踏み留まる。乱戦となった。近衛兵たちは寡勢であったが、北府の軍相手に奮闘した。


 門が開きソンオンが城外に飛び出す。


「ユウ!こいつらは俺たちに任せて追え!」


 ボクシはドウサイ、シャカイと共にその場に残り、俺を先に行かせようとした。ドウサイは少し不満そうな顔をしている。


「大将首の手柄はみんなで山分けだ!」


 俺が叫ぶとドウサイも納得した様子であった。



 ソンオンの逃げ足は早く、離される一方である。俺の他にも別の隊が追いかけていたが、誰も追いつけない。


 なんとか視界の端には捉えることが出来ている。次第にソンオンの速度が落ちてきた。札で足を速くするのも限界がある。ソンオンの肉体は悲鳴をあげていた。


 海が見えてくる。俺はただ一人、ソンオンに追いついた。


「追い詰めたぞ!」


 ソンオンの背後は断崖であった。


「く、来るな!化け物!」


 ソンオンは俺が近づくと腰を抜かし座り込んだ。脚はガクガク震え、綺麗な顔は恐怖で歪んでいる。


「お前は何者だ……その膨大な魔力はなんだ……」


 俺は答えに窮した。ソンオンは何かを感じ取っている。自分では膨大な魔力など感じていない。


「ソンオン。俺の何を知っているのだ」


「お前はこの世の者ではない……」


 俺はソンオンの言葉にハッとした。転生したことをソンオンは気が付いているのであろうか。


「俺は先の世から来たと言えば信じるか」


 言ってしまった。俺自身もその言葉が正確なのかも分からないままだ。だが、ソンオンはそれを聞き表情が和らいだ。


「そうか……天に選ばれたというわけか」


「どういうことだ?」


 俺が一歩踏み込むとソンオンは身を翻し崖から身を投げた。一瞬、微笑んだような気がした。


「あっ!」


 咄嗟に伸ばした手でソンオンの道着を掴む。ビリビリと裂け、ソンオンの体は落ちていく。俺は何とか捕えようとソンオンの腰のあたりを掴もうとした。


 だが、ソンオンを捕えることは出来なかった。悲鳴もなかった。やがて海に落ちる音が聞こえる。


 この高さから落ちたら助からないであろうと思った。手には布地を握っていた。


「……」


 北府の兵の一団が向かってくる。ソンオンを捕えることも、首を取ることも出来なかった。



 リュウロウシの前に立った。


「ソンオンはどうした」


「取り逃がしました。崖から身を投げ……首を取ることが出来ませんでした」


 リュウロウシの眉が動いた。


「……それだけか」


「あの……これを」


 俺は手に持っていた布地を差し出した。


 リュウロウシが絶句した。周りの将校たちも固まった。


「ソンオンの……首の代わりに……その……下着を」


 沈黙が続いた。


 リュウロウシがゆっくりと口を開いた。


「……よし。手柄として認める」


「え?本当ですか?」


「ソンオンを追い詰め、みずから身を投げさせた。それは事実だ。首は取れなくとも、乱を終わらせた功績は本物だ」


 リュウロウシはそれ以上何も言わなかった。だが、その目が微かに笑っていた気がした。



 アイが近づいてきた。


「お前の手柄は下着か」


「うるさい」


「ふふ……」


 アイが珍しく笑った。


 だがアイは俺の手の中の布地をじっと見た。


「……随分と変わった形だな。この素材は何だ」


 俺も改めて見た。確かに変だ。薄くて、滑らかで、この世界では見たことのない素材だ。だが俺には見覚えがあった。転生前の世界のものだ。そしてよく見ると小さなタグがついていた。


 文字が書かれている。


「ボクシ。これ何て書いてある」


 ボクシが覗き込んだ。


「……読めない。見たことのない文字だ」


 俺が覗き込んだ。


 読めた。


 カタカナだった。


「ポリエステル……」


 俺はまさかと思って固まった。


「そういえば……アイのとは全然違うな」


 口から出てしまった。


 アイの動きが止まった。


「……今、何と言った」


「いや、その……」


「お前、今……何と言ったのだ」


 アイの目が細くなった。次の瞬間、俺は吹き飛ばされていた。


「この変態!」


 足音荒く立ち去るアイ。


 ボクシが呆れた顔で見下ろした。


「お前は本当に馬鹿だな」


「分かってる……」


 地面に転がりながら、俺は考えていた。


 ポリエステル。現代の素材だ。この時代にあるはずがない。


 つまりソンオンは——


(俺と同じだ。転生者だ)


 崖の上でのソンオンの言葉が蘇った。


「天に選ばれたもの」


 ソンオンも転生していた。だから俺の魔力を感じ取れた。だから怯えた。同じ種類の存在だと分かったから。


 俺は空を見上げた。


 天に選ばれた、とはどういうことだ。俺が?


 まったく見当がつかなかった。


 だがソンオンの言葉だけが、頭の中でぐるぐると回り続けた。

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