113話 手記
シバキュウシの最後はもっとあっけなかった。城外に出て埠頭の攻撃を命じたが、誰も従うものはいなかった。江陵の軍はシバキュウシの名声だけで集めたわけではない。たまたま声を掛けた部隊は、純粋な東晋の軍であった。
「お前、誰だ偉そうに。なんで俺たちに命令してるのだ」
「おい、この男......見たことあるぞ。反乱を起こしたシバキュウシじゃないか」
シバキュウシは「しまった」と思う間もなく、兵たちに取り押さえられていった。
俺が江陵に到着した頃には、ほとんど片付いていた。リュウキはエンによって捕らえられ、シバキュウシも兵たちに縛り上げられていた。
「リュウキは反逆者のシバキュウシと結託し、東晋に対して反旗を翻そうとした!よってその罪により斬首にする!」
俺がそう叫ぶと、江陵の兵たちの間に動揺が走った。一部、シバキュウシが集めた流れ者たちが騒ぎ立てたが、ケイシャンとモウチョウは容赦なく叩き斬っていった。
「建康に護送しなくてよいのか」
「ああ。ここで落とし前を付けよう」
そう言うとケイシャンは、リュウキとシバキュウシを江陵の地下牢に引き立てていった。
◆
それでもすぐには斬首しなかった。建康にいるフリョウを通じて、ジョセンシやトウリョウに事情を説明した。ジョセンシは初めは信じていなかったようだが、リュウキがシバキュウシの脱獄を手引きし、仲間に引き入れたことが分かると、リュウキを処断すると言い出した。
「江陵で刑を執行します。荊州の統治の為には現地でやるのが一番です」
フリョウの進言により、リュウキたちの身柄は建康には護送されず、江陵で死刑を執行することになった。
◆
「何か言い残すことはあるか」
地下牢で俺はリュウキと向き合った。リュウキは何故か俺に対して敵意をむき出しにしていた。その理由を知りたかった。
「今は二人しかいない。なぜ俺をそんなに嫌うのだ」
「......聞いてどうする。さっさと殺せ」
「殺すのは簡単だ。なあ、お前は何故、漢王室再興と言っていたのだ」
「お前にはリュウビの血が流れているだろう......」
「リュウビの子孫だからな」
「違う。お前からはもっと濃くリュウビの気配を感じる」
俺はドキっとした。リュウビの子なのだ。それをリュウキが感じ取っていることに驚いた。
「リュウビは偽物だ。漢王室再興と言いながら、己の欲望の為に皇帝になった男だ」
「......」
「俺を利用し、荊州の民を盾にして逃げ、ソンケンを騙し、益州を奪い取った偽善者だ」
「......お前を利用した?何を言っているのだ」
「いいか、よく聞け!おれはリュウキではない。二百年前に無念の死を遂げたリュウヒョウの生まれ変わりだ!」
「二百年前!生まれ変わりだと!転生者なのか!?」
「そうだ!漢王室再興の為に、今の世に転生したのだ!」
「......そうだったのか」
俺は驚いた。転生者はこれまでも会っている。だが、ビャクレンもソンオンも俺と同じ時代からの転生者であり、リュウキのような転生者と会うのは初めてであった。
「驚いたか!」
「ああ......驚いたよ。なあ、ところでリュウヒョウって誰だ?」
「なっ!?」
リュウキは愕然とした顔を浮かべると、そのまま白目を剥いて倒れてしまった。
「おい!リュウキ!リュウキ!」
俺は肩を揺すり呼びかけたが、リュウキはこと切れていた。リュウヒョウを知らないのが、よほど衝撃であったのであろう。白目を剥いたまま息を引き取ったリュウキを見下ろし、「お前は何のために転生したのだ」と問いかけた。
シバキュウシは、江陵の広場で斬首となり、首はそのまま晒された。
リュウキ、そしてショカツ。東晋を揺るがした反乱は、こうして粛清という形で幕を閉じた。
◆
俺はリュウキの屋敷にいた。セキカが反乱の証拠となるものを捜索していた。結局、書簡といった証拠らしいものは出てこなかった。シバキュウシを引き入れたという事実だけでも十分である。
「ユウ。これを......」
セキカが恐る恐る差し出す冊子を俺は受け取った。
「これは?」
「......口に出しては言えないわ。覚悟して読んで」
俺は冊子をめくっていった。書きなぐりの字は、俺の識字力では読めたものではなかった。だが、それでもコハンという名が書かれているのが分かった。
「なんて書いてあるのだ。読んでくれないか」
「わたしにこれを読めというの?」
セキカは顔を赤らめていた。俺は意味が分からず、ただ読んでくれとだけ言った。
そこには、リュウキとコハンの関係が書いてあった。セキカはかなり慎重に言葉を選んで読み上げたようだ。時折、読むのを躊躇い、表現を変えながら読んでいるようであった。
読み終えた時、俺は愕然とした。
コハンはリュウキに利用されていた。俺を腑抜けにするために、コハンを送り込んだと書いてある。そして、コハンとの夜の情事も赤裸々に書かれていた。セキカは言葉を選んだが、それでも、コハンがどこを触られると感じるのかなど詳細に綴られていた。
俺は怒りに震えた。リュウキはこんなことを書いて何を考えていたのか想像できてしまった。コハンをそのような目で見ていたのだ。
セキカは俺の反応を見て、黙っていた。読んだのを後悔しているようであった。
俺はコハンを問い詰める気でいた。だが、思いもよらぬ知らせが届き、それどころではなくなった。
長安がカクレンによって落とされた。




