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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第9章 落日の長安

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103話 窮地

 フコウシは焦りを感じていた。敵はおよそ八人。いずれも手練れだ。


 最初は歩兵として北府の軍に入った。リュウユウの部隊に配属されたが、思ったほど活躍できなかった。ドウサイやショカツが活躍するなか、出世に取り残された。だが、なぜだかギエイと気が合い、諜報部隊に属するようになった。


(まさかこんな事になるとは...)


 諜報部隊となって初めて才能が開花した。足が速く、持久力もあり走るのは苦になるどころか楽しかった。この長安攻略戦でも荊州と前線を繋ぐ連絡役として活躍した。もう前線で剣を振るうことは無いと思っていた。


 新野で後方支援をしていたアイが襲われた。フコウシが駆け付けた時には、アイは瀕死の重傷を負い、治癒士が四人がかりで治療をしていた。


 ここには戦線離脱したシュクユウをはじめ、多くの怪我人がいた。シュクユウは応戦しようとしたが、アイが止め、自ら剣を持ち戦った。だが、しばらく剣を使っていないアイは八人の刺客に太刀打ちできず、腹を斬られ倒れた。


「フコウシか....わたしが食い止める間に、アイを逃がせ....」


 シュクユウが怪我を押して剣を構えていた。だが、痛みをこらえているのか汗をかき、苦しそうであった。


「ぐおおおおお!」


 フコウシは雄たけびをあげ、剣を振った。刺客はフコウシが近づいているのに気づいておらず、反応が遅れた。一人斬り上げ、返す刀でもう一人斬った。刺客は一斉にフコウシの方を振り返り、斬りかかってきた。


「...捌ききれない」


 フコウシは避けることを考えず、むしろ前に出て刺客の剣を受けた。腹に激痛が来る。


「ぐぬううう」


 だが、腹に力をこめると刺客は剣を抜けず焦っていた。フコウシはその首を刎ね、がっくりと膝をつく。


 残り五人だ。

 シュクユウが剣を振るい、一人を斬った。呼吸が荒く今にも倒れそうであった。刺客がシュクユウの首目掛けて剣を振り上げる。フコウシは立ち上がり、背後から抱きついて引き倒した。


 振りほどこうとするところに、別の刺客が仲間ごとフコウシの胸を剣で貫いた。


「ごふ!」


「フコウシ!」


 フコウシは力を振り絞り、剣で突いた刺客を締め上げた。みるみる生気を失い、刺客は泡をふいて気を失った。


 残った二人は、アイの様子をみて後退した。あの様子では助からないと思ったのであろう。


 フコウシにもシュクユウにも追いかける力は残っていなかった。


「フコウシ!しっかりしろ!」


 シュクユウの声が遠く聞こえる。そして静寂に包まれた。


 ◆


 俺は軍をエンに預け、単身で新野に向けて駆けた。将軍が戦場を捨てて戻るのは許される行為では無いが、そんなことよりもアイの方が大事であった。


「アイ!アイ!」


 俺は泣いていた。死なないでくれと必死に願った。視界が曇り、よく見えなかったが、馬は新野に向けて、俺の意思が伝わったかのように駆けてくれた。


 ショカツがいた。アイの様子を見て呆然としていた。


「お前!何してるんだよ!」


 俺はショカツを殴った。何のためにショカツを残したのか分からないのかと思った。後方の警備もショカツの任務なのだ。


「お、俺もいま来たところなんだ.....」


 俺は震える手をおさめ、アイのところに走った。


 アイは眠っていた。その手を握りアイの名を叫んだ。


「峠は脱しています。今は静かに眠ることです」


 俺は治癒士がそう言っても、気が狂いそうであった。必死に手を握る。


 すると、わずかに握り返す力を感じた。俺はハッとし、「アイ」と再び叫んだ。治癒士の手が俺の肩に置かれ、俺はそっと手を離した。今は見守っているしかなかった。


 ◆


 何日経ったか分からなかった。アイは幾日も目を覚まさなかった。このまま目覚めないのかと思うと俺は悲嘆にくれた。


 その間に、フコウシが死んだことも聞いた。俺は愕然とした。


「なぜ、あいつが死ななければならないのだ...」


 諜報部隊の連絡役だ。戦地にいる限り、危険は皆無ではないが、真っ先に死ぬべき人間ではなかった。ショカツは護衛の任にありながら、何食わぬ顔をしている。


「将軍.....最後の手段です。あなたの魔力を流し込むのです....」


 いつまでも目を覚まさないアイに、治癒士は口移しで魔力を与えよと言った。治癒士はすでに試していたが、俺の魔力の方が相性がいいだろうと言った。


 俺は口移しで魔力を与えるなど初めてのことであったが、治癒士は何も考えずアイの事だけに集中しろと言った。


「......アイ」


 口から魔力が流れていくのを感じた。どれだけの間、唇を重ねていたであろうか。やがて、アイは突然、ビクンと動き跳ね起きた。


「ユウ......?」


 俺はアイを抱きしめた。涙が止まらなかった。


 ◆


 アイはしばらく京口にある実家で静養することになった。子供と一緒に過ごせば元気になるだろうと思った。


 俺は弘農に戻るべく、準備をはじめた。シュクユウも復帰できそうで一緒に戦場に行くつもりであった。だが、前線から伝令が届いた。


 俺が不在の間に、東晋・夏の連合軍と魏との間で開戦したのだ。


 

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