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仕えるもの語  作者: マッド
中章 第一節 明けない夜はない
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第八十七話 忘却病

海賊の手記より一部抜粋


追記――


全てを忘れてしまう病があった。


それは徐々に、徐々に忘れていく


初めはなんでもないことから忘れていく。物の場所や今日の朝ごはんだったり

それを見た誰もが、『おちょこちょいだな』と受け流す。本人も大した違和感を感じずに何も変わらない日常を生きる。


だが、その間その『病』は悪化していく


次は、知っている人を一人、また一人と忘れていく。

抗う方法は『―■―〇×△……』【※黒く塗りつぶされ解読不可能】


そしていくつか段階を一気に飛ぶ。これは仮定になるが恐らく最後は……『全てを忘れる』


捕った宝物を、大切な仲間(みんな)を、自分すらも、何もかも、一から百まですべて、全て


そして……そして、そのあと『✕◯■■……』【※解読不可能】


嫌だ


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ


もう短くない、あと数週間で全てを忘れる。そんなのは嫌だ、抗う、抗って抗って抗って!


続ける。私たちの旅を


絶対に終わりになんかさせない。


……だから、今日もこれを書いた。以上ッ!


明日は何が起こるかな♪


 ◇◇◇__医務室にて


「さて、と。まずセリアちゃんの進行度なんだけど……」


 ニグルスはペンと紙を引き出しから器用に取り出しながら机に置き手慣れた動きでその紙になにかを書き始める。


「ベルくんからの忘却病についての情報に照らし合わせると四つある進行のうち、今は大体フェーズ3と4の間ってところかな」


「……そうか」


「驚かないんだね」


 あっさりとした回答に半ば驚きながらもニグルスは説明の口を止めない。


「で、まぁ結論を先にいうとセリアくんに残ってる時間を推測するとおよそ一週間ってところ。これでも結構進行を遅くしたりしたんだけどそれももうきついかな。その証拠にガラくんのこともわずかながら忘れるようになってきたし」


「そう、なのか。随分と変わったな」


「……もしかしてそれ驚いてる反応だったりする?」


「そうだが、それ以外にあるのか?」


 セロナから返ってきた言葉に内心「えぇー」と顔を引き攣らせる。


「相変わらず淡白だよねセロナくんは。友達にも同じ態度?」


「バカが。そんな態度はお前にだけだ。友達にはちゃんと接してる」


「わーひっどーい。……ま、今に始まっことじゃないしいいけど。つうかガラくんやセリアくん以外にも友達できたんだ。せいt……なんでもない」


「?」


 成長したね、などとありきたりな声を追加しようともしたが一発頭にげんこつができる程度に殴られそうな気配を二グルスは咄嗟に察知し言葉に靄をかけた。

 それでも心のなかでは今のセロナを褒めてあげている。


(あの暴君とも言える子がここまでになるなんて。少しだけ誇らしいね)


 変わってない所の方が多いようにも見える、だがそれでもセロナが成長していることにほんの少しだけ嬉しく、そして誇らしく思っている。


(口にしたら殴られそうだけど)


「で、なんだけど。さっきのセリアくんの反応を見てもらった通り君のことは当然忘れてるし、僕のことも一日経つごとに忘れるから毎度毎度説明しないといけない。ベルくんやガラくんはまだ大丈夫だけど……やはりもう限界だ」


「なにかあたしにできることはあるか? なんでもいい、協力する」


 ひゅと今にでも霞んでしまうような低いトーンでセロナは言葉を口から出す。


「残念ながら。これでも最善は尽くした結果なんだ、元々数年前に終わるはずだったセリアくんの命をこうして今も繋げている。これは奇跡に近い」


「そう、か。いやすまない。そうだよな、分かっていたことだ」


(すまないと言いたいのこっちだよ)


 重く重い空気が医務室に流れる。それを和らげるように窓の外から鳥のさえずりも聞こえるが今は無意味なことである。


「まー……なんだ。あまりセリアくんを困らせないようにしてくれ。こっちもまだまだ最善は尽くす予定だ。終わりにはさせないさ」


「……ありがとう、二グルス」


「二グルスさん、ね。……ってもう行くのかい? まだ別のことでも話してみたいことあるんだけど……」


 セロナはニグルスの静止も無視しゆっくりと椅子から離れドアノブに手をかける。


「またあとでな。……なにかあったらいってくれ協力する」


 それだけ言い残してセロナは医務室から出ていった。


「ふぅー……まったく子供の成長は早いね」


 一人ぼっちになったニグルスは取り出した紙とペンをしまいだらっと背もたれにもたれかかった。


「どうしますかー医者として病の完治はしてあげたいけどなぁ」


 ふと窓の方を見ると小鳥たちが息があったかのように首を傾げている。その様子にニグルスは思わず微笑んだ。


「君たちはどうすればいいと思う?」


 小鳥たちに問いかけても返答など返ってくるはずもなくどこかに翼を広げて飛んでいってしまった。

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