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仕えるもの語  作者: マッド
中章 第一節 明けない夜はない
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第八十六話 オルカ家の医務室にて

 キュウク達と時を同じくして――


 オルカ家の医務室にあるふわふわなベットにアクセルは深く座っていた。

 ただ腹部や頭の肌を隠すように包帯で巻いている。


「これおいしいな!」


 本人が特に痛がっている様子はなくそれこそ片隅の籠の中にある果実を軽々手に取り満足そうに食えるほどには元気な様子だった。


 そんなアクセルに驚いている者が二名ほどいた。

 一人はセリア。

 彼女はアクセルの元気さに口をぽかんっと開け呆気に取られながら自分も果実を小さい口で一歩ずつ食べ進めている。


 もう一人は……


「頭部の負傷に肋骨にあばらが合わせて三本にヒビが逝ってたのによくもまぁ食うね」


 椅子に浅く腰かけ気だるそうな雰囲気を漂わせる細身な男性だった。

 彼の名はニグロス・ニック、オルカ家の医療関係を締める人物である。とはいってもこの医務室にはニグルスただ一人しか勤務していない。

 だから実質、ここは二グルスの自室である。


「押忍っ! この程度なら気合です!」


 果実を食べきったアクセルは気合の籠った声を張り上げる。


「そうはいっても……まぁ君がいいならいいか。もっと食べるかい?」


「あざすっ!」


 ニグルスはため息をつきつつもそんなアクセルを気に入り更に果実を渡す。


「セリアくんもいるかい?」


「い、いえ私はこれで十分です!」


「そう? なら良いけど」


 アクセルの隣にいるセリアに渡そうとするがセリア本人は今食べているので満足らしく仕方なく手に取った分の果実はニグルス自身でかぶりついた。


「しっかしアクセルくんだっけ? 見た感じこのくらいの怪我結構負ってるでしょ」


「はい! 月に二から三回程度は!」


 二グルスからの質問に何のためらいも一切の淀みもなくアクセルは答えた。

 その回答を聞いて隣のセリアの表情が青ざめて驚愕していた。


「それでよく回復するよまったく」


 何の変哲もない会話を交わしていると割って入るように医務室の出入り口となる扉がガラッ!と壁を壊す勢いにも見える音を出しながら開いた。


「二グルスはここか?」


 そこにはセロナが立っていた。そのセロナは先程の扉を開いた音など聞こえていないかのように医務室に入っていく。


「久々だな二グルス」


 近づいたセロナは慣れているタメ口で二グルスに話しかける。そのセロナは柄にもなくわずかながら口角を上げている。


「あのねぇセロナくん、久々だから忘れてるかもだけど扉は強く開かない。それと二グルスさん、ね」


「そうか、二グルス。善処する」


「する気ある?」


 セロナの変わらない態度に二グルスはため息をついた。


「お前に一つ聞きたいことが……っセリア?」


 ふとセロナがアクセルの方に視線をずらすとセロナの視界にセリアが写った。


「大きくなったな、ガラ(あいつ)の成長にも驚いたがお前も……!」


 生き生きとした感じでセリアに近づくセロナの声色は喜びに輝きが灯るような明るさだった。


「? えっとどこかで……会いましたか?」


 その反対、セリアの声は小さく震えておりひどく怯えているようだった。


「! ……いや、すまない。そうだったな、お前は…悪い忘れてくれ」


「そう、ですか?」


 セリアの様子に一転セロナの表情も声も共に靄がかかったように暗く閉ざされた。掴んでいた手を離した。


「なぁ二グルス……」


「二グルスさん、ね。何?」


「病気の進行度はどのくらいだ? あの頃からどう変わった?」


 そのまま真剣な声で二グルスに聞いた。


「……セリアくんにアクセルくん一回外に出ててもらえるかい? ほらこれ持って食べてていいから」


 何か察したのかニグルスは色とりどりな果実がいっぱいに入った籠をアクセルに手渡した。


「? …はい! ありがとございますっ! 行こうぜセリア!」


「ん? は、はい…! じゃあ、えっとニグルスさんまた」


 アクセルとセリアどちらも疑問を浮かべるもニグルスの言う通り医務室を出ていくことにした。

 扉の前でセリアはぺこりとお辞儀しアクセルは果実を食べながら医務室を出ていき、部屋の中にはセロナとニグルスの二人だけとなった。


「さて、ほら席について。飲み物は水でいい?」


「あぁなんでも構わない」


「りょーかいっと」


「ありがとう」


 セロナはコップに注がれた水を前に出され一口唇にほんのりとかすり潤す程度飲んだ。

 そして、そのコップを耳を澄まさないと聞こえないほどに静かに置いた。


「…前に比べて優しいじゃん」


「御託はいい。教えろあいつの……セリアの【忘却病】はあとどの位、時間がある?」


 キリッと鋭い目つきでセロナはニグルスに問いかける。

 医務室の中は静寂に包まれ、窓の奥から小鳥がピッピッピッと心地の良い手拍子のリズムを刻むようにさえずるだけであった。

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