第八十四話 血は嫌いです
かつてその少女__ベル・オルカはある海賊団に拾われた。
その日はとても暑かった。
あたりに散らばる死体の匂いやしつこい熱気が嫌と言うほど鼻腔に広がる。
足音が聞こえる。
嗚呼また来た、次こそは殺される。
さっきは運が良かっただけ、今度は助からない。
ドンッ!
少女が音がした方に視線を移すと大男が剣を片手に立っていた。
やっぱりここで……死という絶望が心を埋め尽くす。
「ガッ……」
「!?」
その大男は血反吐を吐き地面に倒れた。
「あれ、生存者?」
「!」
その後ろからサイズの合ってないローブを上から羽織っている少女が現れた。
「あなた、名前は?」
「ベル……オルカ」
「お母さんやお父さんは……?」
「殺された……」
淡々と近づいてきた少女に答える。
「そう……友達とかは?」
「そんなのいない」
「おぉ……なら私達のところに来ない?」
「! どうして?」
なぜ、殺さない? どうして? こんなぽっくり死んでもいいような私を殺さない?
「どうして、ねぇ。……そうだなー今は確かに苦しくてもこれからぜっっったいに楽しいことがあるから、かな?」
「そんなことない…」
この人生、生きてて良かったことなんてなかった。
窃盗、暴力、殺人が当たり前の街に生まれ生き延びてその果てが今この瞬間だ。
「ありえないなんて、それこそありえない。あなたはまだ知らないだけ、楽しいことなんて腐る程私と私の仲間たちは持ってる。だからさ、私についてきて! 安心して、私達との旅は最っ高に楽しいから!」
「! …分かった」
ベル・オルカはその少女についていった。
それが私とあいつの出会い。
そこから共に旅をし苦難を生き、そして……そして……私は生き残った。
いや…………
生き残ってしまった。
だから私は今を生きる。
また、いつの日か会うために
◇◇◇
◇◇◇
「はっ!」
「はぁっ!」
「同時か。初めての割にはよく出来てるなっ!」
僕とガラが同時に斬りかかるも先程みたいに防がれた。
「あんたの強さはよく分かってる! だが、物は試しのとっておき激流泡!」
ガラの手のひらに魔方陣が浮かびそこから水の渦が勢いよく飛び出しベルを襲う。
「なかなかのものだな」
「!?」
「すまんキュウク!」
それは軽くいなされ逆に僕を襲ってきた。
間一髪、ぎりぎり頬にかすり傷がつく程度に収まった。
後ろに振り向くと激流が通った道筋にあるものすべてがえぐられていた。
「ハザードのあれと同じで当たったらヤバい奴か……」
そんなものを放つなんてガラ、末恐ろしい。
「油断、か?」
「っ!」
「ほお、なかなか」
ベルに後ろに回れるもこちらもまたぎりぎりで防いだ。
「らぁっ!」
「!」
瞬間、『加速』を使い勢いを増してぶつかっている剣を弾く。
驚いたのかほんのわずか虚を突かれたような表情を浮かべたのを見逃さない!
「ガラ!」
「あぁ!」
再度同時に峰打ちを狙う。
「「はぁっ!」」
「実にいい…!」
土埃が視界を埋め尽くすように広がる。
当たった感触はある。仕留めた。
「キュウク様! 上です! 上!」
ミストの方に視線をずらす、ミストの指と声は上空を指していた。
まさか、そう思いながら重空を見るとそこにはベルがいた。
「終わりだ」
刃をこちらに向け急降下、まずいこれは避けきれな……!
「キュウク!」
「ッ!」
トンッと軽く横から押された。それはガラが伸ばした剣先であった。
身体がよろけ身体を更に横に倒す。
「あっぶな!?」
次の瞬間には僕が立っていた場所にドンッ!という大きな音を出しながらベル様は着地しており水刃は根本まで地面に刺さっていた。
あんなのかすっただけでもまずいと直感的に悟ることが出来た。
「隙あり!」
ベルや僕が動き出すより一歩早くガラは動き始め縄をベルの両手足に向けて投げ伸ばした。
「っ随分と強くなったがまだまだだ。縄の使い方は私が教えたものだぞ?」
「弾かっ!?」
縄をどこからか取り出した縄で弾き返した。
「少しおとなしくしてろ」
「うっ鉄縄!?」
逆に縄でガラは縛られてしまった。
「ガラ!」
「隙をさらすな」
「しまっ!?」
ガラの心配をしたその瞬間に一気に距離を詰められ持っている剣を弾かれ壁に蹴り飛ばされる。
「今度こそ」
「逃げろキュウク!」
ベルに再び距離を詰められ刃が振り落とされる。
ガラの声が聞こえるが、ベルの眼光のせいなのか逃げようにも身体が固まる。
どうする? 『加速』は間に合わない、『天候』だって……
「やめてください! っっっ!?」
「!」
「ミスト!?」
刃が身体を届いた……のはミストであった。
僕の前に立ったミストは刀を肩にうけ血を流していた。
「血は嫌いですが、キュウク様はやらせません!」
「離せ、お前は傷つけたくない」
「知りません! 残念ながらあなたのことは私、知りませんし。もっともっと生きたいんでキュウク様に死なれたりするのは血より嫌です!」
こちらから顔は見えないは必死であるがよく分かる。
「……そう、か。すまなかった」
そういってベルがとった行動は驚きだった。
ベルは刀を鞘に戻しローブを羽織り直した。
「えっこっから私が大活躍してキュウク様からどちゃくそ褒められるって展開は?」
「ないということだろうけど。どっちにしても褒めはするぞ。ありがとう助かった」
まだ痺れてる身体を立ち上がらせミストの頭を優しくなでながら感謝を述べる。
ついでに飴玉を十個くらいをあげる。
「! っし!」
肩の傷なんて気にしていないのか飴玉をあげたら笑顔でガッツポーズをしていた。
「少しくらい傷を心配しろ。回復」
「あっ! 傷負うの久々で色々忘れてました」
……アホ
そう心の中でぼそりとつぶやいた。
「……私の柔肌じろじろ見てるんですか!?」
「そんなことするわけねぇだろ!?」
こいつ、ホントに何があってもブレないな。呆れるのも疲れてきた。
「悪かったなガラ」
「い、いえ。もうやらないなら結構ですが……」
ガラの方もベルに縄をほどいてもらい解放されていた。
「それでベル様、キュウクの奴にどうしてあんなことを……!」
それは僕も詳しく聞きたい。
「分かった。ではこれから話すとしよう」
指を鳴らしここの庭を包むように結界を張られた。
見た感じに外部との念話や音を遮断する結界、か?
ベルが腰を下ろし、それにつれるように僕たち三人も腰を下ろし地面に座った。
「どこから話すべきか……まずは……」
ベルはそうして口を開いてく。




