第八十三話 渡せない
「ついたぞ」
「ここは?」
ガラに案内され一つの扉の前にたどり着いた。
応接室書かれた看板が飾っており木製の磨きがかかった扉…なのだがその奥から否が応でも感じ取れる獰猛な獣のような覇気を発している。
「ベル様がお待ちだ。…流石に知ってるよな?」
「そりゃ七名家の当主が一人だから知ってるは知ってるが…怖いんだけど」
部屋の奥にいるのはベル・オルカ様らしい。最低限知ってはいるがだがこの奥から漏れ出ている気配は一体なんだ。
「そこは同意する。…よし、開けるぞ」
「あぁ……」
ガラが扉を開こうとするとき唾を飲み覚悟を決める。
「少し遅刻だぞガラ」
「あはは、すいません。…とりま連れてきました」
部屋の奥には机に両腕を起き怪しげな瞳を浮かべているベル・オルカ様が佇んでいた。
開いている窓から一風の風が差し込みとその妖しげや美しさを皿に際立たせている。
「初めましてベル・オルカ様、僕はキュウク・スチラーと言います」
まずは挨拶。お辞儀をし挨拶を発しながらベル様の方を伺う。
「あぁ初めましてクマラさんの息子くん。…気を楽にして座ってくれ。ガラもな」
「はい」
「押忍っ」
僕とガラはソファにゆっくりと腰を下ろす。
「あ、あのー……」
「ミスッ!?」
横からにゅと出てきたミストに変な声が出てしまった。
「(なんでお前ここにいんの?)」
「(知りませんよ!? もう、…もうずっと一人で怖かったんですよ!)」
「(おぉ……どんまい)」
「(それだけですか!?)」
だってそれ以外なくね?
ミストが軽口叩けるってことはまだ全然動けるってことだし。
「仲がいいようだな」
「あっすみません」
「いや、大丈夫だ」
ミストに意識を割いて今目の前にいるベル様のことを忘れていた。
本人は柔らかな微笑みを浮かべているがそれだけでも背筋が凍る。
「さて、だらだら話すのもなんだ。ということで単刀直入に言おう」
ベル様は立ち上がりカツンッカツンッと音を鳴らしながら近寄ってきた。
「その子をこちらに渡してもらえないか?」
「は?」
「わ、私?」
ベル様の口から飛び出した言葉と共にあげられた指先はミストの方を向いていた。
あまりの衝撃に呆気に取られ困惑する。
隣にいるミストも突然のことに驚いている。
「ベル様、俺はそんなことなにも……!」
「あぁこれは私の独断のようなものだからな」
ガラがいち早く口を開いた問いにベル様は異質とも言えるようにただただ淡々に答えていた。
「ただで、とは言わん。当然それなりの礼も払う。そうだな、例えば……」
「いや……いや! そういうことじゃない! ミストは僕の仲間だ! そんな簡単にはいそうですかって渡せるものじゃ……ッ!?」
一瞬のまばたき、次に目を開いた瞬間に視界に広がったのは外の青い青い空だった。
「キュウク様! 地面!」
「くっ……」
呆気にとられるもミストの掛け声で我に戻り地面に衝突するスレスレで身体を逸らして着地のダメージを軽減する。
「ほお、当然といったところか」
ベル様は刀を持ちローブをはためかせながら窓から優雅に降りてきた。
急いで僕も剣を空間鞄から取り出し構える。
「一体、なんのつもりですか……!!」
「なんのつもりも何も、さっき言ったはずだ。ミストを渡せ、とな」
「ッ!?」
突きの一撃を防ごうにもあまりの力に後ろに飛ばされる。
剣を地面に突き刺し勢いを殺しまっすぐベル様の出方を伺う。
「どうした、来ないのか」
「そっちがその気なら…!」
『幻影』で分身を生み出し両脇から斬りかかる。
「ほお、悪くはない。…水刃」
「ッ!? ゴホッ!」
刀と逆の手に水で出来た刀を生み出し僕の同時攻撃を横に受け流し隙が生まれた腹に蹴りを加えられ再び後ろに弾き飛ばされた。
分身は霧散し本体である僕も血反吐を吐いた。
「待ってくれベル様」
「ガラ、邪魔するな」
ぼやける視界、僕の前に立ったのはガラだった。
「ベル様、あんたはどんなに欲しいものがあったとしてもこんなことはしない人のはずだ! どうしてこんなことを……!!」
「ガラ丁度いいお前に言ってなかったことをついでに話してやろう」
??
僕がかろうじて痺れている身体を立ち上がらせている中、ベル様は刀を地面に刺し着ているローブを腰に巻き鯱が渦を回っているような模様の腕章を左腕につけていた。
「私はオルカ家当主であると共に霧鯱海賊団、最後の戦闘員だ」
「「!?」」
ベル様は自らをそう名乗った。
「あの子は君にとって渡せないものだろうが…私だって同じだ。この気持ちだけは渡せない」
地面に刺した刀を抜き水の刃を発生させながらベル様はこちらを鋭い目つきで見ていた。
恐怖、はするがそんなこと思ってる場合じゃない。
「キュウク、俺も手伝う。一緒にベル様を止める」
! ガラから申し出、それはこちらとしても嬉しい限り。
「あぁありがたい! ベル様、…いやベル・オルカ! ミストは何があろうと渡さない!」
僕は決意を持って剣の先端をベルに向ける。
ベル関係はまぁなんとなく分かってた人もいるかもですがはてさて一体どうなるか……ふふふ、次回をお楽しみに。
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