第八十二話 約束する男二人
「思い出、……」
「え?」
真っ暗な視界に一つ機械的だが耳を透き通って響く声が聞こえた。
どこだ、ここ……?
疑問に思いながら身体を動かす。
身体に問題はなく足もちゃんと動く。
「水、か…?」
一歩踏み出すごとにチャポンという音が下から聞こえ視線をずらす。
水で地面は覆い尽くされており歩くと連鎖するように水紋が揺れては消えていく。
「それよりさっきの声……」
「必要なのは……」
「また!」
声がした方に僕は走る。
ただ愚直にまっすぐ走る。
「あなたは…?」
一人の少女に出会った。顔を見せないためなのかぐったりと下に向けている儚さすら覚える灰髪の少女。
「必要なのは、思い出すこと、あめ、そして……」
「一体なんのことですか…!」
機械的な声を前にすると不気味に思い背筋が凍る。
けど、少女の肩をつかみ前を向けさせようとした、その時だった。
「っ!? …ガハッ、げほっ」
衝撃波かなにかで後ろに派手に吹き飛ばされた。
突然のことでほんの一瞬頭の中が真っ白になった。
「っ!?」
透明なバリアでも張ってあるのか少女に近づこうとしても身体ごと遠くに弾かれる。
「必要なのは、思い出すこと、あめ、そして……」
繰り返し反復する少女の言葉、だが最後だけどうしても聞き取れない。いや聞き取らせてもらえない。
「あなたの役目は、この町を守れ。そして繋げ」
「だから、一体全体どういうこ、と!?」
視界の先端から徐々に白く霞んでいく。
「答えはその先にある」
少女は最後にそういっていた。
◇◇◇
「…リート」
◇
「ん、こ、ここは……」
見知らぬ天井が真っ先に目に映った。
ふかふかの地面、いやこれベットか。
それにしてもさっきのはなんだ、っていうか内容ほぼ覚えて、ない…?
吹き飛ばされたのは覚えてる、あとこの町を守れそして『繋げ』と言われていたような。
町ってのはここ【サーペント】のことか?
けど繋げって…なんだ、何も思い浮かばない。
「おっようやく起きたか」
声がした方にふと振り向くとそこには眠たげな様子のガラが椅子に座り本を嗜んでいた。
本とか読むタイプなんだ。
「いやあここまで運ぶの大変だったぞ。いきなりカリって奴と一緒に倒れたんだから」
「……あー、そういう」
若干思い出してきた、確かあのあと雑談で殴り合い寸前まで行く辺りでガラを見つけて駆け寄って……で意識を失って倒れたんだろうな。
気絶したことに思い当たることがあるとしたら…多分『破壊』の副作用か?
あれ、使うとざっと五分の三の確率で時折気絶する事あるからなぁ。
「つうか、あのカリって黒髪だったか? 青だったような」
「あはは、聞きたいです?」
「あぁ、聞かせろ」
ガラはぐいっと興味満々な様子で僕に顔を寄せた。
「黒髪の方はハザードっていってカリのもう一つの人格なんですよ」
「ほう、なるほどなるほど」
顔を離し腕を組んでガラは考えていた。
「ハザードのときにいたずらとかするなら最悪骨ごと消えますよ。こう指の先端からてっぺんまで」
「まじ、か。分かった、黒髪の時は注意しとくか」
「そうしてください」
まぁセロナと仲良さそうだから下手は打たないだろう。
「思ったんですけどここは、どこですか?」
今さらながらここはどこだ?
部屋は結構綺麗に手入れされている。
「ここはオルカ家。この部屋自体は客室、まぁ今日から少しの間暮らすであろう部屋とでも覚えとけ」
「そうですか……」
ベットは二つ、多分アクセルの分だろう。分からないけど一番その可能性が高い気がする。
「もう動けるか? 無理なら無理で……」
「大丈夫です。問題なく動けます」
『破壊』による気絶はいわば急に眠ってしまうようなものだから身体そのものに問題はない。
「そうか。ならちょっとついてきてくれ話したいことがある」
「…分かりました」
なんだろうか、そんなことを思いながら先に歩いて行くガラの後ろについていく。
「あっそうだ、敬語やめてくれ。同年代の敬語は虫唾が走る」
「…? そうでs…そうか、ならそうしようガラ」
その途中、一つ思ったことがある。ガラはセロナに似ている気配がする。
だからこそあんな仲なのかもしれない。
類は友を呼ぶ、的な…?
「実際、ガラはセロナとどういう関係なんだ?」
「ん? あぁそれか、会ったときも言ったろ? ライバルだ。…あいつとは約束があるんだ。本人はあの調子だし覚えてないだろうがな」
約束、か。まぁなんとなくだが昔のセロナなら軽く流して忘れてはいるんだろうな。
あいや、そこは今も大して変わらないか。
「所でカリやアクセルはどこに?」
死んでいるということはないと思うが心配はする。
特にアクセルのバカは無闇やたらに突っ込んでは怪我してくるからなぁ。
「これから行くところにいるとは思うがお前、クーガとかセロナの心配はしてないのか?」
「ガラがその様子なら問題ないんだろ」
「はっは、ばれてるか」
大切な者が危ない状況なら怒りや悲しみが溢れている。
それはどんな手段で表に出さないようにしてもどこかしらでボロが出る。
その様子が少なくとも見られないためクー達は無事だと判断する。
あとはそうだな、ミストからその手の連絡が来てないということも理由の一つ。
「あっそうだ、キュウク。嫌いな食い物あるか?」
「甘いものが全般的に苦手だが、いきなりどうした?」
「俺、あんまし同年代の男が近くにいなくてな。ちょっとだけ二人で遊びてぇって思ったりしてな。見た感じお前もそういうのいないだろ」
「否定は、できない」
ガラの言う通り確かにそういう男友達はいない。というかできなかったという方が正しいか。
クーに出会う前は言わずもがな出会ったあともあとで接する機会がなかったし。
「じゃあ、まっあとで男二人で語り合おうな」
「了解」
そんな会話を交わしながら僕たち二人は廊下を歩いていく。




