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毎日、緑のエプロン  作者: Garden


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第5話後編 バックヤードの物流王決定戦

 金曜日の20時。ARX PLAZA白神店のバックヤードは、フォークリフトの油圧ホースから漏れ出た黒いオイルの臭いと、冷たい絶望に包まれていた。

目の前には、搬入口を完全に塞ぐようにして山積みになった、資材館の「コンクリートブロック」と、園芸館の「20kgの肥料・200袋(4パレット分)」。

「……やるしかないみたいだな、谷田部」

猪狩マネージャーが、おでこにびっしょりと汗をかきながら同期のライバルを見つめた。

「フッ、望むところだ猪狩。ウチの資材館の肉体労働を見くびるなよ」

谷田部マネージャーが不敵に笑い、スタッフたちに号令をかける。

「おい資材館、台車をかき集めろ! 21時の売り場完成までにブロックをすべて売り場へ運び込むぞ!」

「「「うおぉぉぉ!!」」」

DIY資材館の面々が、手押し台車をガラガラと響かせながら猛烈な勢いでブロックを積み込み始めた。趣味で鍛えた佐藤拓海も、無駄のない動きで手際よくブロックを台車へ移していく。

一方の園芸館チーム。

「大宮くん……どうしよう。20kgが200袋だよ!? 21時のタイムリミットまであと3時間しかない! 人間の力で運んだら僕の腰が木っ端微塵だよぉ……」

猪狩が早くも涙目で大宮の作業着の袖を掴む。

蓮は、綺麗にセットされたアップバングの髪を一度だけガシガシとかきむしると、死んだ魚の目をギラリと尖らせた。

「猪狩さん、往復走する前に頭を使ってください。資材館は全員でローラー作戦をやってますが、ウチにはフォークリフトより馬力があって燃費の悪い『重戦車』がいるでしょ」

大宮の視線の先で、エプロンを泥だらけにした大学2年生の駄犬、犬飼陸が、腕の筋肉をピキピキと鳴らしながらウズウズしていた。

「犬飼。お前、進級したんだろ」

「ウッス!! 奇跡的に2年生になりました!!」

「じゃあその留年の哀愁をすべて力に変えろ。21時までにこの肥料が片付かなきゃ、俺の明日のサボり時間が消滅して、お前を24時間ノンストップで除草剤の品出しに処す。逆に終わったら、明日の午前中、倉庫のマルチシートの陰で3時間寝ていいぞ」

「寝ますッ!! 俺は絶対に寝ますッ!! 蓮さんのサボり時間は、俺の筋肉で死守します!!」

「よし、行け! 10倍の速さで!」

大宮の冷徹な号令と共に、園芸館の奇跡の人間物流が始動した。

普通なら台車に5〜6袋載せて運ぶところを、犬飼は「ウッスァァァ!!」と雄叫びをあげながら、ハンドフォークで直接パレットごと引きずり、計50袋(1t)売り場へと猛ダッシュし始めた。

「佐藤! 園芸に負けるな! ピッチ上げろ!」

谷田部マネージャーの怒号が響く。資材館チームも、台車に山積みにしたコンクリートブロックを息を合わせて次々と運び出していく。佐藤の手際の良さとスタッフたちのチームワークは流石の一言で、ブロックの山がみるみるうちに削れていった。

「犬飼、スピードが落ちてるぞ! 資材館の台車に追いつかれるぞ!」

「ウッス! まだ、まだいけますッ!!」

バックヤードと売り場を往復する犬飼の背中に、大宮の非情なゲキが飛ぶ。ナビなどない。ただひたすらに、大宮の「サボりたい一心での超効率的な指示」と、それに応える犬飼の狂気的な筋肉だけの戦いだった。

そして20時50分。タイムリミットの10分前。

犬飼が最後の1パレット同時に引きずり回し、地鳴りのような足音を立てて売り場へと運びきった。

「はぁ、はぁ……、お、終わり……!!」

バックヤードに滑り込み、床に大の字にひっくり返った犬飼。その数秒後、資材館の佐藤たちも最後のブロックを運び終え、全員が搬入口のコンクリートにへたり込んだ。

結果は、わずか数秒差で園芸館チームの勝利だった。

猪狩マネージャーが「勝ったぁぁ!」とおでこを光らせて喜び、谷田部マネージャーは「チッ、あの駄犬、人間の体力じゃねぇな……」と悔しそうに肩を落とした。

21時ちょうど。

プラザ広場には、大宮の完璧なロジックと5万円のインパクトで組み上げられた『悪魔の野菜苗タワー』と、佐藤のスタイリッシュな木材ブースが、何事もなかったかのように美しく完成していた。

一同はボロ雑巾のようになりながら、その日の夜は解散となった。



翌朝――土曜日の営業。

GW初日の大混雑は、ARX PLAZA白神店の歴史に残るレベルの大盛況となった。

昨日、命がけで設営したプラザ広場では、緑川四天王がオカルトトークを炸裂させた野菜苗が怒涛の売上を記録。同時に、佐藤の作ったDIY木材ブースも、プロからアマチュアまでを巻き込んで大ヒットしていた。

「ふぅ……」

21時、すべての営業が終わり、いつもの狭い喫煙所。

大宮はコンクリートの壁に背中を預け、心地よい疲労感の中でタバコに火をつけた。携帯灰皿を開けると、カランと音がして、いつの間にか横に冷えた微糖の缶コーヒーが置かれた。

「おい、サボり魔。昨日は悪かったな」

作業着を木屑だらけにした佐藤拓海が、少しバツが悪そうに隣に座り込んできた。

「お前、指一本動かしてなかったけど、あの売り場の動線の組み方と、バックヤードの指示出しは……まぁ、ちょっとだけ認めてやるよ」

大宮は缶コーヒーを一口飲み、紫煙を吐き出した。

「お前のおかげで、昨日から体がバキバキだよ、ネジ頭。おかげで今日のサボり計画が半分ゲシュタルト崩壊を起こした」

「あはは、次は負けねぇからな」

佐藤がニヤリと笑う。そこへ、「大宮くぅん! 佐藤くん! お疲れ様ぁ!」と、猪狩と金子の同期マネージャーコンビが仲良く湿布を持って現れ、結衣も「私も混ぜてー!」とスッポン(新品)を片手に乱入してきた。

ボロボロになった同期と上司たちの笑い声が、オレンジ色に染まる埼玉の夕空へと溶けていく。

お互いの意地を認め合ったARX PLAZA白神店の日常は、GWの喧騒と共に、また一歩、騒がしくも心地よい絆を深めていくのだった。

(第7話・完)


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