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「謝罪の言葉に飾りはいらない」

「ただいま」

玄関に入ると、母の靴と一つ、見知らぬ靴があった。まさかと思ってリビングのドアを開けると。

「碧玄くん、おかえりなさい。お邪魔してます」

学級担任の大空夜深大空夜深(おおぞらよるみ)がいた。

「なんでいるんですか。というか何の用ですか」

「碧玄くん自身が一番わかってること」

この人は正論で返してくるからやり辛い。その上綺麗事をあまり言わないから切り出しも難しい。碧玄の一番苦手なタイプだ。

「お母さんとの話が終わったから、今度は碧玄くんと一対一で話したい。部屋に案内してくれる?」

「嫌です」

碧玄がそう返すと、夜深は驚いたように肩を揺らす。ここまではっきりと意見を言ったのは初めてだったからかもしれない。

「それは…なぜ?」

「理由はありません。今日はもう誰とも話したくないんです」

その様子を見て悟ったのか。

「もしかして、出掛けた先でなにかあった?」

自分の気持ちを知られたくないときに限って、他人に自分の心配をされる。逆に誰かに相談したいときには、誰も気づいてくれない。

「放っといてください。一人になりたいんです」

いつの間にか母は外出し、家の中は夜深と碧玄の二人きりだった。

「でも一人になったらまた抱え込んじゃう。無理矢理にでも吐かせないと」

考えはもっともだった。正しいし、理にかなってる。でも、当人が望む形ではない。

「心のケアも、大人の仕事だよ」

その瞬間、碧玄の脇を風が駆け抜けた。

「……わかりました」

そう言いながら立ち上がる。階段の方へ二、三歩歩いて足を止め、振り返る。

「話、聞いてもらえますか」

そう問うと、夜深は満面の笑みを浮かべ。

「もちろん!」

大きく首を縦に振る。これが夜深ではなかったら、きっと拒絶は続いていただろう。彼女の人柄、性格が起こした奇跡と言える。


碧玄の自室にて、出来事を聞き終えた夜深は不思議そうな顔のまま小首を傾げる。

「話を聞いてる限りさ。自分が悪い、自分に責任がある、と思っている、という感じがしたんだけど違う?」

「…確かに自分が悪いと思っています。でも、どう相手に言えばいいのかが分からないんです」

不器用な碧玄の切実な願いだった。

「え?それは自分が考えるべきだし、といっても素直に謝るしかないんじゃないの?」

返ってきた言葉は至極真っ当で非常に簡潔なものだった。分かっていることに、改めて理解を促すようなその声は、不思議な力を纏っていた。

「……それだけでもいいんですか」

「いいに決まってるでしょ?謝罪に飾りはいらないし、程度も必要ない。全力で反省しています、という意思を謝罪で伝えるんだよ。気持ちを込めれば謝罪は成り立つからね」

「……そう、ですか」

碧玄は自分の中で考えてみる。その思考を邪魔しないように、静かに夜深は退出した。


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