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あんた、魔法を使えないんじゃなかったの

 ドラゴンが完全に消え去ったところでファンファーレ音が相次いで鳴り響く。レベル50の夢魔を討伐したのである。参加した全員に膨大な経験値が付与されたのだ。

 タイミングを計ったかのように、ネムが姿を現す。前足を合わせているのは拍手のつもりだろうか。


「よくやったよ、君たち。夢魔ドラゴンを撃破だ。みんな仲良くレベルアップしたようだね。貢献度が大きかったドロシーは一気にレベル8。バレットが43で、ディーンは10にまで上がったか。他のみんなも1ずつ上昇しているよ」

「あんだけ気張ったのに、レベル11にしかならへんのか。効率悪いな」

 ぶつくさ文句を言いながらドルチェは拳を開閉している。行儀悪く足を投げ出して、天を仰いでいた。


 全員が参戦したとはいえ、経験値の割り振りには差異があるようだ。最後にとどめを刺したドロシーや、それに協力したバレットとディーンにはより多く経験値が割り振られていた。とはいえ、割り当てが少なかったサクヤたちでさえきちんとレベルアップしていることから、討伐対象が有していた経験値がいかに莫大だったかがうかがい知れる。


 それに、ドロシーにとってはレベルが上がった以上の収穫を得ることができた。ようやく、自由自在に魔法を使えるようになったのである。それに、他の魔法少女の助力があったとはいえ、最終的に自分の力で強敵を打ち倒すことができたのだ。底知れぬ達成感に酔いしれ、ほくほく顔になる。


 歓喜に酔いしれる一同。と、いきたいところだが、バレットはつまらなさそうにライフル銃を拾い上げていた。彼女の鉄仮面はこれしきのことでは変化が無い。浮足立つどころか、武器の整備に勤しんでいる。


 そして、不平を漏らし続けているのがドルチェだった。彼女としては、一気にレベル15ぐらいまで成り上がるつもりだったのだろう。先ほどから「けちくさい」と不平を訴える。


 調和を乱す発言を看過できなくなったのか、ユミナはドルチェの眼前に立ちふさがる。上半身を折り、彼女に注意を施そうとする。

 だが、迂闊に近寄ったのが間違いだった。そもそも、彼女は選択を間違えたのだ。下手におせっかいを焼かずに放っておく。そんな選択肢をとれば、彼女はもう少し長く生きていられたのかもしれない。


 おそらく、「いいかげんにしなさいよ」とでもお説教を施したかったのだろう。口を大きく丸く開いたまま、彼女は前のめりに硬直していた。その胸を巨大な鉱石が貫いていた。


 その少女、佐伯由美は過去にも選択を間違えたことがあった。努力家だった彼女は日ごろの鍛錬により、部内での名声を掴みかけていた。誰もが認めるあこがれの先輩。そんな存在になるはずであった。


 彼女の地位を揺るがせたのは、今年入部したばかりの新入部員佳奈だった。弓道はそれほどメジャーな競技とはいえず、中学進学と同時に始めるという者がほとんどだった。事前のリサーチでも、幼少時から習っていたという者はいなかったはず。だから、入ってきたのはずぶの素人のみ。一年以上、みっちりと練習を積んできた自分が負けるはずはない。


 だが、才能というのは時に残酷な結果を突き付ける。素人であったはずの佳奈は、初めての練習試合で優れた成績を叩き出し、部内でも頂点に君臨したのだ。ビギナーズラックと笑い飛ばした由美だったが、その後も彼女を上回る成績を収めることはできなかった。


 佳奈に敵わなかったのは当然と言えば当然だった。彼女はその後、弓道の代表選手として、全国大会に出場するほどの実力を発揮する。残酷なまでの天賦の才というべきものだった。


 強い者と弱い者。この両者のどちらに人間は惹かれるかといえば、答えは自明だろう。加えて、由美に対して曲解した噂が広がってしまったことも向かい風だった。「いくら努力しても新入生に勝てない可哀そうな先輩」という不名誉なレッテル。それが流布されて、黙っていられるはずはなかった。


 地区大会を近くに控えたある日、由美は佳奈に直接勝負を申し込む。先輩としてどちらの実力が上か、はっきりさせようという魂胆だった。二つ返事の佳奈に由美は怒りを禁じえなかった。だが、どうにか思いとどまる。感情を簡単に表に出しては威厳を保つことができない。大人として振る舞うことも大切だ。


 先行の手番は佳奈に譲る。拙い所作ながらも、放たれた弓矢は的の真ん中を射貫いた。チームメイトから拍手が沸き起こる。予定調和のことが起きればさぞ気持ちいいだろう。ならば、どんでん返しを起こしたらどうなるか。悠然と由美は弓を弾き絞る。


 ここで彼女は大きな選択を迫られることになる。的より気持ち上を狙うか。それとも、素直に中心を狙うか。風向きからして、どちらかの軌道で試合を続行できるかどうかが決まる。外せば得点からして、敗北は濃厚だ。上か、下か。目をつぶり、必死に選択肢を考える。


 そして、開眼した由美は力いっぱい左腕を引く。上だ。気流からして、ちょうどいい具合に押し流されるだろう。確信して、上向きに弓矢を放つ。


 直後のことだった。由美は選択を間違えたことを思い知らされた。読みを働かせたほど、矢が下がっていかないのだ。気流が発生するどころかほぼ無風。できることなら、途中で矢を掴んで強引に戻したかった。


 放たれた矢は的のすぐ上に命中した。もう数センチ下を狙っていたら当たりの判定になっていただろう。だが、これで敗北が決定づけられてしまった。


 由美は崩れ落ちる。先輩としての威厳を発揮するどころか、「いくら練習しても新入生にすら勝てない可哀そうな先輩」という不名誉なレッテルが確定してしまったのだ。仲間たちにもてはやされた佳奈が一瞬勝ち誇った笑みを覗かせた。それがどれほど由美の心を抉ったかは想像に難くない。


 だから、魔法少女になれると誘われた時、由美は誓ったのだ。あの勝負で自分が勝つように結末を変更し、生意気な後輩の長鼻を折ってやる。そうして、自分の威厳を取り戻すのだ。


 だが、肝心なところでまたも選択を間違えてしまった。どうしてお節介なんて焼いてしまったのだろう。実際、ドルチェが本来狙っていたのはユミナの背後にいたサクヤだった。傍観していたら結果は違っただろう。なんて、いくら憶測を働かせたところで後の祭りだった。


 ドラゴン戦の直後で大幅に削られていた体力は、ドルチェの凶刃により完全に消え失せた。血反吐を吐き、ユミナは前のめりに倒れる。

「あんた、魔法を使えないんじゃなかったの」

 サクヤが喚く。突然の凶行に、ドロシーとディーンは言葉を失っていた。


 肩を揺らし、ドルチェは顔を歪ませる。果たして、人間にこれほどまでに汚い表情ができるであろうか。底知れぬ嫌悪感にサクヤは口元を手で押さえる。

「ついさっきまでは使えへんかったな。けれども、休んどったおかげで、どうにか数発放つぐらいはできるようになったわ。それに、初歩の魔法でも、ドラゴンと戦った後で疲弊しとるあんさんらにとどめを刺すぐらいはできるやろ」

 荘厳が嘘ではないとの証明に、彼女の手には魔力の光が宿っていた。そして、残り体力からして、一発でも魔法を受けたらアウトだというのは身に染みていた。


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