ドロシー、行け!
炎がサクヤたちに接触しようとする。まさにそのタイミングでドロシーの弾丸が割り込んだ。
爆砕音とともに、四方八方に火の粉が飛び散った。降り注ぐ炎の雨。すべてを回避するのはさすがに無理であった。だが、なんら介入が無かったら、サクヤたちはまとめて炎に晒されていただろう。
いきなり星形魔弾で炎が防御されたというのも驚くべきことであった。だが、最も驚愕したのはドロシーだろう。
「魔法が、出せた」
じっと掌に視線を落とす。未だ指先には熱が籠り、燻っている。自分でも信じられないぐらいだった。同時に底知れぬ高揚感が湧き上がる。
ただ、戦場でぬか喜びなど禁物だった。せっかくの獲物を狩る機会を阻害され、ドラゴンが黙っているわけがない。
「おのれ、小娘が。まずは貴様から食ってやろう」
怒気を顕わに、標的をドロシーへと変更させる。うろたえるドロシーだったが、バレットのライフル銃を抱きかかえると、地面へと掌を広げた。
「ライドスター」
魔法を発動させるのに四苦八苦していたのが嘘のように、星形のサーフボードが浮かび上がる。歓喜する暇もなく、ドロシーはボードに飛び乗る。
上空へ浮上するや、眼下に火炎が通り過ぎる。そのまま、大きくドラゴンの周りを旋回する。
バレットの提示した作戦通り、ドラゴンの胸元へと接近したい。だが、断続的に炎をまき散らされ、下手に近寄ろうものなら鋭利な爪で切り払われる。ドラゴンの攻撃を躱すのに精いっぱいで、反撃などままならなかった。
一旦、ドラゴンから距離を置く。そして、どうやって近寄ろうか思案していたところ、足元に違和感を覚えた。
これまでは意識的に動かそうとしないと、ボードはうんともすんとも反応しなかった。ところが、ドロシーが意図していないのに、勝手に上昇を始めたのだ。おまけに、ドラゴンをかく乱しようと、大仰に飛び回っている。
魔力が暴走しているのだろうか。それにしては、どうにかボードに乗り続けられている。本当に暴走しているのなら、とっくの昔に足を踏み外して転落しているはずだ。
どうにか落ち着きを取り戻して自由飛行していると、眼下でとある光景が目についた。ディーンが首をあげながら、精いっぱい両手を広げている。指先には光が宿っており、何らかの魔法を発動していることは明らかだ。
ドロシーが注視していることに気が付いたのか、サーフボードはディーンの元へと接近していく。声が届く距離まで達すると、ディーンは姿勢を保ったまま語り掛けた。
「私の魔法でボードを操作させてもらった。ドロシーは相手に攻撃するのに集中するといい」
「分かったわ、ありがとう」
意図せぬ急速展開はディーンの仕業だったようだ。とはいえ、ボードを操作しながらドラゴンを狙うのは難易度が高すぎる。射撃だけを念頭に入れればいいのならめっけものだ。
ドラゴンは断続的に炎でドロシーを狙撃する。しかし、右へ左へと飛空し、すべて不発に終わらせる。運転の手腕に感心するばかりだが、安堵してばかりはいられなかった。
最初は余裕で回避できていたのだが、時間が経つにつれ、ボードの動きが鈍くなっていく。持続的に魔法を放出しているのだ。魔力切れまでのスピードも速まっているのだろう。
いずれにせよ、短期決着を臨まなくては勝機がなくなる。ドロシーはしっかりとライフル銃を握りしめる。
「ちょこざいな、焼き払ってやる」
ドラゴンの炎は絶えることは無い。魔力は無尽蔵だとでも言うのか。不敵な爬虫類の顔面を真正面に捉えるたび、ドロシーはその場から逃亡したくなる。
もはや、ライフル銃に充填されている一発の弾丸だけが頼りだった。そして、ついに運命の時が訪れる。速度を緩めながらも、ボードはドラゴンの首元へと接近していく。少し体を伸ばせば、銃口が鱗へと接触しそうだ。射的に例えるなら、インチキして景品を取ろうとしている状態である。これを逃したら討伐する機会は無い。
「ドロシー、行け!」
サクヤの応援の声が響く。ドロシーは大きく頷くと、引き金を引き絞った。
銃撃音がひときわ大きく轟く。耳鳴りがひどく、発射の反動でボードから転げ落ちそうになる。どうにか転落を免れようとしがみついていたせいで、弾丸の行方がどうなったかは確認できずにいた。
ディーンの魔力が尽きたのもその少し後だった。地表近くまで下ろされ、半ば転がり落されるようにドロシーは投げ出される。全身の力が抜け、立ち上がることすらままならない。放り出されたライフル銃は効力が切れたのか拳銃へと戻っていく。
まさに、すべての魔法少女が精魂尽きたという呈だった。誰もゲームオーバーになっていないというのが奇跡である。
そして、着目すべきはドラゴンがどうなったかである。巨体は直立したまま微動だにしない。モニュメントだと説明されれば信用してしまいそうだ。反撃を恐れ、少女たちは自然と寄り集まっていく。
ようやく安堵できたのは、ゆっくりとドラゴンの肉体が粒子に還元されていったからだ。倒すことができたのか。すぐには現実を受け入れることはできなかった。敵を討伐したというのは、ステータスがしかと知らせていた。夢魔ドラゴンという名前の下の体力ゲージはすべて消え去っていたのだ。




