魔法少女同士による殺し合いよ
凄惨な現場とは不似合いなファンファーレ音が鳴り響く。途端、ドルチェは歓喜の雄たけびをあげた。それはドラゴンの咆哮よりも不気味で邪悪だった。
「見や。あんだけ苦労してドラゴンを倒してもレベルが1しか上がらんかった。けれども、レベル14や。一気に3レベルも上がっとるやないかい。なあ、あんさんを倒したら、次はどんくらいレベルが上がるんやろな」
サクヤは身震いする。臍を噛みつつ、ディーンは彼女に問いかけた。
「質問。あなたは最初からこうするつもりだったの。ドラゴン退治はブラフ」
「こうしようと思っとったのは確かやな。まさか、おあつらえ向きに隙を見せてくれたんは嬉しい計算違いやった。強力な夢魔と戦った後に疲弊するのは道理。そこを突けば簡単に倒せるってわけや」
大手を広げて演説する。皮肉にも、この場で最も体力を温存しているのはドルチェだった。炎を浴びたとはいえ、防御魔法を駆使してダメージを最小限に抑えたのが功を奏したのである。
「ネム。こんなの規約違反だよね。早く止めないと」
ネムにすがりつくドロシー。しかし、ネムは大きく首を振った。
「規約? おかしなことを言うね。ボクは一言も言っていないよ。魔法少女同士で戦ってはいけない、なんて」
悩む素振りもなく突っぱねられ、ドロシーは愕然とする。助長されたドルチェは豪快に笑い飛ばした。そして、ドロシーに両手を向ける。
「まずは一番弱い、あんさんから片づけたる。レベル8でも次のレベルに上がるぐらいの経験値は稼げるやろ。順番に片づけて、最後はあんさんや、バレット」
調子に乗ったドルチェはバレットにも敵意を向ける。彼女にしては珍しく、明らかな動揺を覗かせていた。じっと拳銃を握りしめている。
「レベル43のあんさんを倒したら、一体どれくらいレベルアップできるやろな。もしかしたら、一気にレベル50ぐらいになれるかもしれん。たった一日で目標の半分にまでレベルアップできるんや。こんなチャンス、逃す方がアホやろ」
ひとしきり笑い飛ばすと、手のひらから鉱石を出現させる。狙われている。頭では分かっているのに足が言うことを聞いてくれない。
スターシールドでの防御を選択したが、口すらも震えて呪文を紡いでくれなかった。早口言葉を言えと強制されているわけでもないのに、唇がまごついてしまう。反撃ができずにいるまま、ドルチェの魔法の発動準備は進む。そして、彼女の両手から凶弾が放たれる。
「モノブラスト」
だが、鉱石より先に一発の銃弾が彼女の足の付け根を撃ち抜いた。激痛に喘いでいる隙に、矢継ぎ早に弾丸が撃ち込まれる。
やがて、うずくまったまま微動だにしなくなった。まさか、ゲームオーバーを迎えてしまったか。そうではないことは体力が健在だということが知らせていた。
最悪の事態を回避させた功労者は肩で息をしていた。拳銃を握る手がこころなしか震えている。
呆然としていたサクヤだが、ようやく我に返るとバレットに吠え掛かった。
「どういうこと。あんたまでプレイヤーキルをしようというの」
「殺してはいない、みねうちよ。激痛でしばらくは動けないはず。ただ、これで温存していた魔力は尽きた。次にあいつが暴れだしたら、今度こそ対抗手段は無いわ」
魔法数発分を放つだけの魔力を残していたのもあるが、ドロシーに最終決着を託したのも大きかった。わずかな時間とは休息をとることができ、よどみなく魔法を放つことができたのだ。
「やはり、こうなってしまうのね。このゲームの宿命というやつかしら」
嘆息してホルスターに拳銃を収める。力が抜けたのか、ビルの壁に背中を預けている。急転直下で進む命のやり取りに、介入できる者はいなかった。
ようやく口を開いたのはドロシーだった。恐る恐るバレットへと問いかける。
「やはりって、こうなることを知っていたのですか」
「そうね。ここで変に気取ると厄介なことになりかねない。だから、ついでに話しておくわ。私がこのゲームに参加している目的を」
そう言ってバレットは拳銃をネムへと差し向ける。いきなり武器と対面し、ネムは面食らっていた。
「あのバカがいつ目を覚ますか分からない。私たちを安全なところまで運びなさい。討伐対象が倒されたのだから、この空間には用はないはずよ」
「ハハハ、君には敵わないな。まあ、おしゃべりしたいというのなら、そのための空間を用意するぐらいお安い御用さ」
前足を合わせると、空間にねじれが生じる。ワープポイントだというのは説明するまでもなかろう。
無言のまま空間を潜り抜けていくバレット。逡巡していたサクヤとディーンだが、やがて同じようにゲートを潜る。ドロシーはしばし足を止めていたが、目を閉じると一気に歪みの穴へと猛進していった。
たどり着いたのは、魔法少女たちが集まっていた会議室めいた室内だった。バレットを中心に他の三人が取り囲む形になっている。
椅子はあるものの、誰も座ろうとはしなかった。衝撃の光景が焼き付いており、激しい胸やけがする。
「質問。あの少女、ユミナはどうなったのだ」
おずおずとディーンが問う。ドロシーとサクヤは返答することができなかった。果たして、真実を告げていいものか。
懊悩していると、バレットが机を椅子代わりにして口を開いた。
「下手にごまかす必要はないわね。だから、単刀直入に言っておく。あの子は死んだわ」
「死んだ?」
「ちょっと、そんな言い方ないでしょ」
サクヤは肩を掴むが、鉄仮面のごとき表情に逆に委縮させられてしまう。しぶしぶ距離を置くと、バレットは話をつづけた。
「このゲームに参加するのなら頭に叩き込んでおきなさい。ネムからは夢魔を倒して経験値を獲得してレベルアップするだけと説明されたと思うけど、実際はそんなに単純ではない。
このゲームにおいて、夢魔から得られる経験値はそんなに多くないの。最初の頃は順当にレベルアップできるでしょうが、次第に1レベル上げるだけでも苦労するようになる。理論上は夢魔だけを倒し続けてもレベル99に到達できるでしょうね。でも、そうなるまでにどれほどの時間がかかるか。下手をしなくても、現実世界では老婆になっているかもしれない」
それ以前に、五十年以上も毎晩命のやり取りをするなどもってのほかだった。それに、莫大な経験値がもらえるはずの夢魔ドラゴン戦で大してレベルアップしなかったことを鑑みれば、決して嘘を言っているのではないと分かるはずだ。
「加えて、ゲームの中としか思えないような世界。そこで毎日のようにモンスターを倒し続ける。次第にこれはゲームだと錯覚し、生殺与奪をしているという感覚が希薄になっていく。そうして辿る末路はただ一つ」
それ以上は聞きたくなかった。だが、バレットは心の奥底に刻み込もうと、はっきりと断言するのだった。
「このゲームの本質。それは魔法少女同士による殺し合いよ」




