あいつしか残っとらんのか
矢継ぎ早に弾丸が命中するたび、ドラゴンの体力は着実に削られていく。それも、サクヤたちが連携攻撃を仕掛けた時よりもダメージ量は大きい。
ドラゴンとしても黙ってやられているわけにはいかない。尻尾で薙ぎ払ったり、火炎放射を放ったりするが、バレットは俊敏に回避していく。このまま本当に一人で倒しかねない。そんな希望的観測が開けて来た。
格上だと思われていた相手が想像よりも大したことがなかった。あまりに順調にダメージを与えているので、そんな慢心が生じていたのだろう。だが、わざわざ集団での討伐を勧めるような相手だ。そう簡単には倒させてくれない。
ドラゴンは尻尾をうねらせると、バレットの足元を払おうとする。攻撃中とはいえ、単調な打撃に反応できないわけではない。難なく跳びあがって尻尾を往なす。
しかし、地表から離れた瞬間、さきほどの一撃は陽動だと悟る。首を上げた途端、炎が急接近してきたのだ。
尻尾に注意を逸らさせたすきに、本命の炎を当てる。防ぎきれない攻撃ではないが、ドラゴンを速攻で倒そうと敵の動向を軽視していたのは失策だった。
まともに炎を浴び、バレットは悲鳴をあげる。ほぼ無傷だった彼女の体力が恐ろしい勢いで減っていく。直撃を受けてからもなお減少を続けている辺り、やけどによるダメージも反映されているようだ。
「バレット」
炎にまかれる彼女を前にドロシーは悲鳴をあげる。とはいえ、消火する手段など有していなかった。サクヤたちもまた、惨状を眺めているしかできない。唯一、ドラゴンだけがほくそ笑んでいた。
このまま脱落してしまう。誰しも諦めかけていたのだが、突如水しぶきがあがった。燃え盛っていた炎が一瞬にして白煙へと変わる。大量の煙の中から、すすで汚れたバレットが右腕を庇いながら抜け出してきた。
「あの炎から生還するなんて、やはり君は只者ではないね」
「マジカルポーションが無ければ危なかったわ」
ネムがねぎらうと、バレットは空になった小瓶を揺らした。全身がびしょぬれになっており、つややかな黒髪からは水滴が垂れていた。
一体、どうやって攻撃をかわしたか。答えはライフル銃が物語っていた。ドラゴンの炎を受けた瞬間、「ハイグレイドブラスト・アクア」を発動。自分自身に大量の水を浴びせることで、炎を消し去ったのだ。
とりあえず、脱落は免れた。だが、代償は大きかった。せっかくの獲物を倒す機会を逃したことで、いきりたったドラゴンは再度炎を吹きかける。バレットは飛び去ると、「モノブラスト」で反撃しようとする。
炎はかわせたものの、弾丸は不発に終わる。その後も引き金を引くが、ガス欠したように空気が抜けた音しか出ない。舌打ちしてドラゴンから距離を置く。
「どうしたんや、あんさん。さっきから魔法が使えてへんやんけ」
「あんたと同じ症状よ」
皮肉をぶつけるドルチェにバレットは皮肉で返す。
「嫌な予感はしていたけど、炎を消し去るために魔力を使い過ぎたわ。しばらく魔法は使えそうにないわね」
すんなり白状したものの、事態は最悪と言っても過言ではなかった。
ドルチェとバレットが魔力切れでまともに魔法が使えず、サクヤとユミナは大けがを負っている。まともに戦えるのはディーンとドロシーだけ。
ディーンにしても、主力魔法は他の魔法少女の協力があってこそ真価を発揮する。彼女単独では路傍の石をぶつけるのが関の山だ。低レベルの魔獣であればそれでも戦えていたが、ドラゴンに通用するとは思えない。
そうなると、一同の期待はドロシーに集まることになる。当人は未だに距離を置いて体を抱き寄せていた。
「よりによって、あいつしか残っとらんのか。レベル5やと、うちらの中じゃ最弱やないかい。勝てる見込みなんてあらへんやん」
「ちょっと、いくらあんたでも、ドロシーの悪口は許さないからね」
サクヤが吠え掛かるが、ドルチェはどこ吹く風だ。それに、戦力になれないのはドロシーも自覚していた。なにしろ、魔法がまともに発動できないのだ。
さきほどから小声で「シューティングスター」と呟いてはみるが、何らかの魔法が放たれる兆候はない。それどころか、魔法を口にするだけでも精いっぱいだった。敵が視界に入るたびに全身がすくみあがってしまう。
「どうやら、手詰まりのようだな。煩わせおって、小娘が。ゆっくりと馳走を貪ろうではないか」
勝ちを確信したドラゴンがあぎとを開く。近しい場面がフラッシュバックし、ドロシーは悲鳴を上げる。まただ。また、自分は何もできないのか。
昔からそうだった。真帆はここぞという場面で成果を上げたことがない。いくら頑張って勉強しても、いざテストとなると頭の中が真っ白になってしまう。むしろ、授業のテストならまだマシだ。失敗しても、自分一人が先生に叱られるだけで済むのだから。
自分がどんくさいせいで、これまでどれだけ周りに迷惑をかけてきたか。学芸会の時だってそうだ。演目の進行にはさほど影響がない、たった一言「王子さまはあちらへ行きましたよ」と主人公に告げるだけの簡単な役割だった。なのに、登場早々転倒したうえ、セリフを噛みまくったせいで、シリアスなはずだった物語を喜劇に変えてしまった。「これはこれでよかった」と時雨からフォローされたものの、級友たちからの冷たい目線は忘れられるものではない。
大舞台に限らず、グループでの行動の際におのれのどんくささでどれだけ厄介者扱いされてきただろうか。母親ですらも疎んじるのは当然。最近は真奈への嫉妬心すら芽生えなくなってきた。
だからこそ、憧れたのかもしれない。みんなが倒せない怪物を颯爽と退治し、どんな難問でもずばりと解決する。そんな魔法少女の姿に。幼少時にテレビの中で活躍したマジカル☆ドリーミィはまさに理想像だった。
そんな魔法少女に変身できたものの、現実が変えられるなど浅はかな妄想だった。現状がすべてを物語っているだろう。活躍するどころか、ただの荷物にしかなっていないではないか。
もはや、ドラゴンによって一方的に蹂躙されるのを待つしかない。またも自分は救うことができないのか。みんなの夢と希望を守るなんて、詭弁もいいところだ。ドロシーの頬に一粒の涙が流れる。




