きちんと策は用意してあるわ
すっかり蚊帳の外に置かれたドロシー。参戦しようと力を入れて杖を握ってみるが、相変わらず反応は無い。杖で殴りつけるしか攻撃手段が無いのに参戦できるわけはなかった。
「バレットはともかく、他の魔法少女はてんでバラバラだね。協力する意味がないじゃないか」
すっかり観戦モードのネムがドロシーの隣に並び立つ。意地の悪そうにドロシーを覗き込んだ。
「君も参加したらどうだい。まあ、魔法が使えないのではお荷物にしかならないか」
詰られるものの、言い返すことはできなかった。唇を噛んで、杖をより強く握りしめる。
ドラゴンの攻撃をかいくぐる中、サクヤはマジカルポーションに手を伸ばす。身体能力を強化するパワトリンだ。触発されたのか、ドルチェもまた似たような小瓶をちらつかせた。
「マジカルポーションカタマリン。少しの間やが、防御力を上げることができる。そんで、うちの魔法を使えばある程度は攻撃を防げるはずや」
「こんな時に自慢話?」
「あほぬかせ。不本意やが、うちがデコイになったると言うとるんや。さすがに攻撃の直後なら隙ができるやろ」
「承知。威力の高い近距離魔法を使うチャンス」
ドルチェの意図を把握し、ユミナも再び「ファストセンス」を使用する。彼女に近接用の魔法は無いが、ほぼゼロ距離で弓矢を放てば、無視できないダメージになるだろう。
ドルチェはポーションを服用すると片膝をついた。手首を交差させ、大きく息を吐く。
「クリスタルウォール」
魔法を唱えると、地面から次々に鉱石がせりあがっていく。アトランダムに積み重ねられたそれは不格好な松ぼっくりのように思えた。「ウォール」と称されている通り、敵の攻撃を遮る壁というわけだろう。
「おい、トカゲ。あんさん、炎が自慢みたいやが、うちの魔法は破れんで」
「こざかしい。ならば、試してやろう」
あっさりと挑発に乗ったドラゴンは、ドルチェへと炎を吹きかける。鉱石の壁によって勢いが拡散され、ドルチェ本体には届かない。時折火の粉が降り注ぐが、カタマリンによって防御力を高めた彼女には無意味だ。炎を防いでいることに安心し、サクヤとユミナは同時に駆けだす。
とりあえずは防いでいるが、正直ギリギリだった。炎を受け止めている間、ドルチェの魔力は恐ろしい勢いで消費されていく。一分も堪えられたら上出来だろう。それほどまでにレベルの差は大きいということだ。特攻組が早いところ成果を上げることを願うしかない。
ドラゴンの意識は鉱石の壁に集中している。身体能力が強化された状態の二人が懐にもぐりこむのは容易い。
本来なら、射撃でダメージを与えた首元を狙いたい。しかし、さすがにドラゴンの巨体をよじのぼる余裕はない。ならば、狙うは後ろ足の靭帯だ。相手は鈍重のようだが、機動力を奪っておいて損はない。
「剛切斬」
「ソニックアロー」
走りぬきざま、魔力で増強した日本刀を一閃する。ユミナもまた、流鏑馬の要領で至近距離から弓矢をお見舞いした。
足首に大打撃を受け、ドラゴンは呻く。同時に炎も途切れる。ダメージが発生していることを確認し、サクヤたち三人はガッツポーズを取る。
しかし、敵と至近距離にいるのに油断するとは愚の骨頂だった。突如、サクヤは全身に強い衝撃を受ける。ドラゴンの左足で蹴られた。そう気づいた時には遅かった。ユミナをも巻き込んで吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
身体強化を施していたおかげで、どうにか戦闘不能は免れる。だが、体力値は半分を切っており、次に攻撃を受ければ瀕死は免れない。
ドルチェもまた、短時間に多大な魔力を消費してしまったせいか、肩で息をしていた。再度魔法を使えるようになるには時間を要するだろう。
魔法少女チームの内三人が大打撃を受けてしまう。いや、三人だけではなかった。サクヤとユミナがドラゴンに蹴られた瞬間、ドロシーはけたたましい悲鳴を上げてうずくまった。
あの一撃で、トラウマとなっている場面がよぎってしまったのだ。一撃必殺されなかったのはまさに幸運だっただろう。脱落者が出ていないという事実が、どうにか彼女の危うい精神を繋いでいた。
しかし、ドロシーもまた綱渡りをしているに変わりない。できることならすぐにでも逃げ出したかった。だが、自在に空間移動できるネムが許可を下すとは思えない。それに、現実世界の肉体が目覚めるまでまだ数時間を要する。なにより、サクヤたちを差し置いて自分だけ逃げるなんて真似ができるはずがなかった。
「他愛ない。我が炎で焼き尽くしてくれよう」
満身創痍の魔法少女たちを卑下し、ドラゴンは鼻息荒く意気込む。もはや全滅は必至か。
だが、ドラゴンの頬に一発の弾丸が命中した。ポニーテールを揺らし、バレットが拳銃を構える。
「私の存在を無視するとはいい度胸ね。それとも、私に勝つ自信が無いのかしら」
「ほざけ、小娘が。レベルが下の分際で生意気なことを言う」
「あら、トカゲのくせに数字が理解できるの。意外だったわ」
おちょくられて、ドラゴンは標的を変更する。タイマンするしかないにも関わらず、バレットに憂いの色はない。
「提案。助けは必要か」
「平気よ。こうなることは覚悟していたの。きちんと策は用意してあるわ」
ディーンの申し出を棄却する。まるで、役立たずになるのを見越していたとの口ぶりに、サクヤとドルチェはむかっ腹を立てる。とはいえ、体力と魔力を充填しなくては喧嘩のしようがなかった。
バレットが取り出したのは青い液体が入った小瓶だった。まずは拳銃に指を添える。途端、指先から光が伝い、武器の形状が変化していく。
「ハードライフル」
魔法を唱えると、拳銃だったものが一回り大きいライフル銃へと変貌した。
「マジカルポーション、アクマリン」
銃弾を込めると同時に、マジカルポーションを垂らす。仄かに黄色い光が纏わりついていたが、それが青色へと移り変わる。
淡々と作業を終えたバレットは、銃口をドラゴンへと合わせた。ドラゴンは鼻で笑い飛ばすと、爪を差し向けた。
「おもちゃを変えたところで通用せんぞ」
「それはどうかしら」
引き金に指をかける。ライフル全体を光らせていた魔力が銃口へと集結していった。肩幅に足を広げ、腕をまっすぐに伸ばす。
「ハイグレイドブラスト・アクア」
放たれた弾丸が一直線にドラゴンの首元を撃ち抜く。ほんの数秒、青い閃光が視認できただけだ。元来、飛んでいる銃弾は肉眼で確認できるものではないが、通常の弾丸よりも加速度がけた外れであった。
命中した途端、ドラゴンは苦悶の雄たけびをあげる。体力値もサクヤたちが連携攻撃を仕掛けた時以上のゲージを削り取っていた。
予想外の痛手にドラゴンはくぐもった声を発する。歓喜に沸くことなく、バレットはライフル銃を構え続ける。
「小娘、貴様」
「ハイグレイドブラスト・アクア」
恨み言に応じることなく、バレットは第二撃を発射する。先ほどと同じ個所に命中し、またも苦悶の声を上げさせた。
いくらレベルが近しいとはいえ、単独で有効打を与え続けるなど異常だった。黙々と攻撃を加え続けるバレットに代わり、ネムが解説を加える。
「彼女の魔法『ハードライフル』は自前の武器をより高性能なライフル銃へと変化させる魔法なんだ。そいつを使ったうえ、高威力の魔法『ハイグレイドブラスト』を唱えているってところかな」
「それで、魔法の後につけている『アクア』は何ですか」
「いいところに気が付いたね」
ユミナが質問すると、ネムは前足をあげる。どうやら、バレットが握っている小瓶を示しているようだ。
「彼女が使っているマジカルポーションは、魔法に水の力を付与させることができるんだ。ドラゴンは炎を操るから水が苦手だと推測したんだろうね」
「炎には水が有効って、まんまゲームじゃん」
サクヤが足を投げ出す。とはいえ、バレットの目論見はあながち間違っていなかったようである。




