私たちは協力するしかないでしょう
四階建てのオフィスビルと同等の体長。下手をしたら動物園のキリンでさえも凌駕すると確信したぐらいだ。豚小屋に放り込まれたぐらいの獣臭。唸り声だけで号砲ぐらいの声量はある。
こいつを討伐する。たちの悪い冗談だと思いたかったが、ステータスはしっかりと「夢魔ドラゴンLV50」と討伐対象の名前を記していた。
「魔法少女が束になったか。こざかしい。ザコが集まっても無意味と教えてやろう」
「驚愕。しゃべった」
ディーンが素直に感嘆する。夢魔が人間の言葉を解すなど、初めての経験だった。
「レベルの高い夢魔は人間の言葉を扱えるんだよ。さあ、与太話はこれくらいにして、戦闘開始といこうじゃないか」
勝手に音頭をとられ、少女たちはネムを睨みつける。しかし、いつまでも恨み言を吐いているわけにはいかなかった。
ドラゴンの出現が確認できた直後、バレットは集中砲火を開始した。胸元に銃撃を受け、ドラゴンの体力が減少する。
バレットの銃弾はレベルが低い夢魔なら一撃必殺できる威力を秘めている。しかし、ハチの巣にされているにも関わらず、ドラゴンの体力は四分の一すら減っていない。それどころか、尻尾を薙ぎ払って反撃に出た。
舌打ちをして回避するバレット。入れ替わるように進み出たのはドルチェだ。扇子を広げ、投扇興でもやろうかという構えを披露している。
「うちの魔法を見せたるで。クリスタルエッジ」
扇子の骨組みが光り、鉱石が生成される。鍾乳洞で垂れ下がっているつららをそのまま写し取ったみたいだ。
槍での刺突よろしく、鉱石は先端の鋭利な部位を向けてドラゴンへと飛来していく。前足で庇われるが、爆砕音とともにダメージ判定が発生する。
「金の魔法少女というからどうやって攻撃するかと思いましたが、鉱石が主力武器なのですね」
「どや、豪勢やろ。キンキラキンの鉱石や」
ユミナが感心していると、ドルチェは調子に乗って胸を反る。時代や世界観によっては鉱石は貴重な資金源となるので、「金の魔法少女」を自称する者が放ったとしても不思議ではない。むしろ、金だらいを落とされるよりは幾分実用的ではある。
しかし、レベル43の魔法少女の攻撃が通用しなかったのだ。レベル10程度では蚊が刺すほどの威力さえも発揮できない。舌打ちするドルチェに入れ替わり、ユミナが弓を引き絞る。
「ソニックアロー」
放たれた弓矢はドラゴンの胸元を標的としている。変哲のない射撃のようであるが、弓矢としてはありえない高速だ。サクヤの魔法のように、武器の威力を高める効果があるようだ。
とはいえ、ドルチェと変わらないレベルの彼女が攻撃したところで、結果が変わるとも思えなかった。あっけなく弾き飛ばされ、それどころかドラゴンは憎悪をむき出しにして威嚇している。大したダメージが無いとはいえ、連続で攻撃されては鬱陶しく思うのは当然だ。
「どないなっとんねん。全然効かへんやないかい」
ドルチェが恨み言を吐く。その後も悪態をつきたいところだったが、ドラゴンの放った炎により強制中断された。
どうにか回避できたものの、コンクリートの道路に焦げ目ができている。レベルからして攻撃力が高いことは覚悟していたが、コンクリートを燃やすとなると、化け物じみた能力を認めざるを得なくなる。
「提案。闇雲に攻撃しても無意味。連携すべき」
「現状、まともにダメージを与えられそうなのはバレットだけみたいですね。ならば、私たちは協力するしかないでしょう」
ディーンの申し出にユミナが同意する。サクヤも時雨丸を抜いて応じる。一方、ドルチェは面白く無さそうに扇で口を隠していた。
サクヤは時雨丸を腰に携えて姿勢を落とす。ドラゴンがあぎとを開いて迫るが、狙うは一点。奴の首元だ。
「飛翔斬」
斬撃を飛ばすと、ユミナが口笛を吹く。
「あなた、遠方攻撃も使えたのね。ならば、好都合だわ。ソニックアロー」
サクヤの攻撃に追随するように弓矢が放たれた。双方の攻撃は一直線にドラゴンの首元へ向かう。
そう思われたのだが、彼女らは戦闘に関しては素人だ。いきなり狙い通りの個所を射貫けるほど卓越した射撃の腕前は有していない。空気抵抗の影響か、途中で予想外の方向へ軌道が曲がっていく。
しかし、強制的に軌道修正させられ、同時にドラゴンの首元へと命中した。カラクリを仕掛けたのは、両手を広げている黄色の魔法少女だった。
「サイコキネシス。攻撃の軌道を操らせてもらった」
「攻撃を必ず命中させるなんて、便利な魔法ね」
「能動的に攻撃できないのが玉に瑕」
どうやら、ディーンは他の魔法少女のサポートが得意らしい。団体戦においては要にすらなりうる存在であった。
攻撃一辺倒のチームと、攻撃力を補正できる者が存在するチーム。両者がぶつかり合った場合、長期的な視線からして有利になるのは後者だ。とはいえ、両者の実力が拮抗しているという前提があるのだが。
いずれにせよ、連携攻撃であればある程度ダメージが入ると分かっただけでも一歩前進だ。バレットには及ばないものの、まともに戦えるようになったのである。
「攻撃を必ず命中させられる魔法とは便利やな。ほな、うちにも協力してもらいまひょか」
「私たちにも協力してもらいますからね」
さすがに巨体相手に近距離戦闘を挑むのは無謀。遠距離魔法をディーンの魔法で補正して、ドラゴンに命中させる。その繰り返しで体力を減らす作戦に落ち着いた。
ドルチェの鉱石、ユミナの弓、サクヤの斬撃。三者三葉の攻撃が放たれ、それらは悉くドラゴンの胴体にぶち当たる。確かに攻撃自体は当てることができる。だが、決定打とはなりえない。なぜならば、
「あんさんら、タイミングが遅いやろ」
「そっちこそ早すぎるのよ」
「あなたたち、息を合わせなさい」
魔法を放つたびに喧々諤々する三人。ディーンは軌道補正で手一杯だ。即席で組まれたチームでいきなり息を合わせろなど土台無理な話である。
ドラゴンに決定打を与えられたのは、複数の魔法が同時に命中した時の暴発がそのままダメージになったからである。てんでばらばらに攻撃を加え続けたところで、蚊の一刺し程度にしかならない。
バレットの弾丸が塩梅になっているおかげで、ドラゴンの反撃の機会を奪えてはいる。しかし、魔力切れを起こした時が最後だ。絶え間なく魔法に晒されているせいで、ドラゴンのフラストレーションは溜まりに溜まっている。
「こざかしいハエどもめ。いつまでもうろちょろしおって」
大きく息を吸い込むや、ドラゴンは炎を吐き出す。射程に入ったのはユミナだ。舌打ちすると、耳に手を当てる。
「ファストセンス」
魔法を呟くと、彼女の体が仄かに発行する。炎が放たれると同時にユミナは地面を蹴る。軽く一跳びするだけの所作だったのに、ビルの看板の上へと飛び乗った。
「一時的だけど自分の身体能力を上げる魔法よ」
解説を加えると、看板から飛び降りてサクヤたちに合流する。
一息ついたのもつかの間。ドラゴンは更に炎を吐き出す。不意に接近しようものなら、前足や尻尾が迫る。一発でも受ければ致命傷になると把握しているだけに、魔法少女たちは回避に専念するしかなくなる。唯一、バレットだけは攻撃の間隙を縫って弾丸を飛ばしていた。
「あなたたち、飛び回っているだけでは勝てないわよ」
「ぬかせ。あんなん、避けるだけで精いっぱいや」
バレットの皮肉に、ドルチェは大声を浴びせる。もはや、連携攻撃をするどころではなかった。




