私は別に馴れ合いがしたいわけじゃない
口火を切ったのはサクヤだった。小学校低学年の授業のごとく、勢いよく手を挙げている。自己紹介の順番で損得は無いので、素直に彼女に先手を譲ることになった。
「私はサクヤ。三千世界をぶった切る! 剣の魔法少女サクヤよ。この剣が武器なんだ」
腰に携えていた日本刀を抜刀してみせる。真っ先に食いついたのはエルフ耳の少女だった。
「立派な剣ですね。私のフォートレスアローも負けていませんけど」
「その弓矢、フォートレスアローって言うんだ」
「ええ。あなたの愛刀は?」
そう返され、サクヤは言葉に詰まる。実のところ、「剣」だとか「刀」とばかり呼んでいて、特に名称を決めていなかったのである。
なので、小声でドロシーに相談する。
「なあ、武器の名前ってどうしたらいいと思う」
「直感で決めればいいんじゃない。私もシャイニングスターロッドって名付けているよ」
そう言いながら、ドロシーは自前の杖を取り出す。ちなみに、彼女の魔法は掌底から出せるので、杖を使う機会はほとんどない。むしろ、護身用で夢魔を殴りつけるのが主となっていた。
しばし逡巡していたサクヤだったが、柏手を打って宣言した。
「私の愛刀は時雨丸よ。かっこいいでしょ」
「時雨丸。なかなかいい名前ですね」
褒められ、サクヤは後ろ髪を掻く。実のところ、本名をくっつけただけなのだが、その事実はドロシーしか知らない。
サクヤの自己紹介に介入したということで、自然にエルフ耳の少女が名乗ることとなった。
「皆さんは初めましてになると思いますね。私はユミナ。銀河を貫く一縷の矢! 弓の魔法使いユミナと申します」
丁寧に一礼する。名乗り口上や背中の装備から明らかのように、弓矢を主力とする魔法少女のようだ。武道少女という点ではサクヤと被っていたが、遠距離主体というのは複数戦闘においては貴重ではある。
次に名乗るのは誰か。腹の探り合いをしていたが、唐突に扇子を広げたのは例の関西弁令嬢だった。
「誰も名乗らんみたいやから、うちがいかせてもらうで。うちの名はドルチェや。世の中すべて金や金! 金の魔法少女ドルチェいうんや。『かね』の魔法少女やなくて『きん』の魔法少女やからきぃつけてな」
気さくに扇子を扇ぐ。名乗りだけでは能力は推測できなかった。とりあえず会釈は返しておく。ドルチェも腹を探られていると承知しているのか、つまらなさそうに深々と椅子に背を預けた。
滞りなく半数の自己紹介が終了した。そろそろ名乗り出ようか。ドロシーが心づもりをしていると、ドルチェがおもむろに扇子を差し向けた。
「自己紹介ごときでウダウダしとっても埒が明かん。こういうのはさっさと終わらせるんがええ。ってことで、次はあんさんでええやろ」
指名されたのは前髪が長い少女だった。「承知」とだけ返して立ち上がる。
直立してもなお、小柄だという印象は払しょくできなかった。むしろ、全員の中で最も低身長だというのが確定してしまったきらいがある。単調だがよく通る声音で少女は自己紹介を開始する。
「紹介する。私の名はディーン。念力集中不可思議解放! 超常の魔法少女ディーン。以後、よろしく」
「念力ってことは超能力が使えるの」
「肯定。このように」
言うが早いか、質問したサクヤの腰から時雨丸が浮かび上がる。おまけに、ドロシーの杖も同じように空中浮遊している。
手を伸ばしても、指先すら引っかからない。しばらく漂っていた武器だが、過たずして持ち主の元へ降り立った。
「魔法、サイコキネシス。無機物を自由に動かすことができる」
「それ、魔法と言うよりもただの超能力ですよね」
「同意。でも、魔法には違いない。きちんとステータスに表示されている」
ディーンによると、生物やあまりにも重い物体は動かすことはできないが、武器ぐらいなら自在に扱えるという。
残るは二人だけになった。出鼻をくじかれてしまったが、今度こそドロシーは手を挙げる。
「初めまして。えっと、みんなの夢と希望を守る! 星の魔法少女ドロシーです」
「私のダチだから、仲良くしてやってね」
サクヤに割り込まれ、ドロシーはむくれる。すると、ドルチェが扇を振った。
「星の魔法少女ってえらい抽象的やが、自分何ができるねん」
「えっと、星の弾丸を飛ばす、とか」
「ふーん。そう大したこと無さそうやな」
断言されたが、言い返すことはできなかった。実際、ここにいる彼女たちの役に立てるか分からないのである。むきになったサクヤを宥めつつ、ドロシーは大人しく着席する。
残るはバレットだけである。注目される中、彼女は髪をかきわけて立ち上がる。
「銃の魔法少女バレット」
たった一言言い残すと、そそくさと座り直す。一挙動にそつが無さ過ぎて、介在する暇がなかった。
ようやく、ドルチェが荒ぶる。
「待て、待て、待てや! もっとなんかあるやろ。ほら、能力とか」
「別に話す必要はないでしょ」
うるさくわめきたてていたドルチェが一瞬で押し黙る。追撃は許せじとばかりに、バレットは続ける。
「私は別に馴れ合いがしたいわけじゃない。わざわざ手の内を晒す必要性が皆無。だから話さない。それだけのことよ」
「かーっ! 胸糞悪いな。もうちっと愛想よくできへんのか」
非難を浴びてもなお、バレットの達観した態度は崩れることはない。ユミナと同じく、口上や装備から銃撃を得意とした魔法少女だと推測可能だったのが救いか。
全員の自己紹介が終わったところで、待ち伏せていたようにネムが下りてくる。机の上に着地すると、ゆっくりと全員を見渡した。
「挨拶は終わったみたいだね。さっそく夢魔を討伐。と、いきたいところだけど、ターゲットについて予習しておいた方が作戦を立てやすいだろう。まずはこれを見てくれ」
そう言って鼻を持ち上げる。その所作に合わせ、ネムの隣に巨大な爬虫類のような怪物が浮かび上がって来る。トカゲに似ているようだが、赤い「鱗」がある時点でそんじょそこらの爬虫類ではない。二足歩行しており、大鷲もかくやの翼を広げ、前足から伸びる爪をぎらつかせている。
「けったいなもん使うな。ホログラムってやつやろ」
「SFでしか見たことありませんね」
立体映像だということは、ネムの鼻が接触しても透過したことが証明した。実現するにはあと数十年必要な技術を前に少女たちは感心する。
「人間が開発しようとしている立体映像とはまた違うものだけど、それについて言及していても仕方ないだろう。大事なのはこいつについてだ。この夢魔は『夢魔ドラゴン』という。レベルは50だ」
「50!?」
あまりの高レベルに驚愕の声があがる。バレットでさえもじっとホログラムを注視していた。ドロシーたちが相手をしてきた夢魔のレベルは高くても10程度。エカトリーナの命を奪ったコカトリスでさえレベル20である。




