お互いに自己紹介をするといいよ
長い鼻を器用にくねらせると、大通りの途中にゆがみが生じた。空間がねじれるなど、映像作品でしかお目にかかれない光景だ。それが眼前で繰り広げられているのである。目をこすってみても、渦巻く謎の空間は健在だった。
「警戒しなくてもいい。今回の作戦にあたってミーティングルームを用意したんだ。すでに、参加を表明した他の魔法少女が待っている。さあ、進むがいい」
ネムに促され、ドロシーは生唾を飲む。一歩は踏み出したものの、足取りは重い。足首に鉛が括りつけられているかのようである。
「どうしたんだい。ここに来て臆病風に吹かれたのかな」
意地悪くドロシーの周りを飛来する。鬱陶しいハエみたいな珍獣を払いのけようとしたものの、腕が動いてくれなかった。
正直、参戦したところで活躍できるわけではない。そもそも、魔法が使えないのだ。お荷物になりに行くだけなんてご免被りたい。
一気に踵を返して逃げ出してしまおう。そんな算段をしていたが、ふと背中に激しい衝撃が走った。
ネムに背中を押された。そう把握した時にはもう手遅れだった。たたらを踏みながらも、不本意的に空間のねじれへと接近していく。ねじれはブラックホールのごとくドロシーを引き寄せ、あっという間に別の空間へと誘っていくのだった。
ミーティングルームというのは言いえて妙だった。現に、室内だったからだ。照明が落とされているのか薄暗く、整然と机が並べられている。会社の会議室というべきか。あるいは、漫画で謎の組織が秘密の会合を行う時の部屋ともいえた。
既に椅子に座っている魔法少女のうち、見知った顔が手を振った。すぐにサクヤだと分かる。対面にいる初顔の魔法少女が頬杖をついていた。貴族令嬢のような豪奢なドレスを身に着けており、金髪を巻き髪にしている。つまらなさそうに扇子を開閉しているのが、いかにもお嬢様といった印象を与えた。
「ドロシーも誘われたんだ」
「うん。サクヤもネムから聞いたの」
「強大な夢魔とか聞いたら、協力しないわけにはいかないと思ってね」
腕まくりをして鼻息を鳴らす。二人の馴れ初めを令嬢の魔法少女は横目で観察していた。
ドロシーと遥から最も遠い対角線上にいるのはバレットだ。椅子に背中を預けて瞑目している。その隣にいたのはサクヤと似通った格好の少女だった。サクヤは巫女服に近いが、少女はより武道の道着に近い恰好をしている。背中には大筒と弓矢を背負っていた。
服装以上に特徴的なのは耳だろうか。細長くとんがっており、伝説上の種族であるエルフを想起させる。
残る一人はドロシーよりも小柄な少女だった。前髪で両目を隠しており、無言のままうつむいている。オーソドックスな魔法少女のドレスを身に着けており、ドロシーが青紫を基調にしているのに対し、彼女は黄色だった。
現在のところ、謎のミーティングルームに集結しているのは六人のようだ。ドロシーが全員の様子を観察していると、部屋の中央にネムが降り立った。
「とりあえず、ボクが声をかけた魔法少女は全員揃ったようだね。まずは、協力を受けてくれたことを感謝するよ」
「御託はええんや。さっさと詳しいことをはなしい」
意外な人物から意外な声があがり、衆目を集める。
表舞台に晒され。憮然と扇子を折りたたむ。ふてくされたように少女は吐き捨てた。
「なんや。おかしいことでもあるんか。文句があるなら言うてみい」
「いや、その恰好で関西弁なんだなと思った」
「別にええやろ。この恰好も好きでやっとるわけやし」
別に貴族令嬢が関西弁で話してはいけないという法はないが、なんというかミスマッチだった。ネムはここらの魔法少女を集めたと言ったが、「ここら」の範囲は意外と広いのだろうか。少なくとも、真帆の住む鹿岡市は関西地方ではない。
「さっそく説明してもいいけど、普段交流が無い魔法少女が集まったんだ。しばらく時間をあげるから、お互いに自己紹介をするといいよ」
随分と気の利いた言葉を残し、ネムは上空へと飛び去って行く。天井があったはずだが、いつの間にか消え失せている。それについて追及する者は皆無だった。この程度の超常現象を追及していては、この世界ではやっていけない。




