考えなしに卵を割るからですよ
能動的に夢魔を探すとなると、なかなか発見できないものである。あまり会いたくない時には逆にうじゃうじゃ沸いてくるのだが。宛もなく歩き続けているせいで無駄に疲労が蓄積されていく。諦めかけて、ショーウィンドウに背中を預ける。
そうしていると、ドロシーはあるものを発見した。通りの真ん中に不自然に転がる白い卵。ダチョウのものだろうか。ゆで卵にしたら、それだけでお腹が膨れそうである。
ドロップアイテムの一種と思われた。しかし、そうではないことは卵の近くに表示されているバーが物語っていた。
「夢魔エッグ。敵だよ、サクヤ」
「やっと出て来たか。って、LV1じゃん」
張り切るサクヤだったが、敵の強さにがっかりする。もはやLV1では相手にならない。ドロシーとて、片手間に倒せる自信がある。
夢魔エッグはじっと留まっているばかりで、攻撃してくる様子はない。そのまま無視しても実害は無さそうだ。小馬鹿にするサクヤだったが、エカトリーナは至って慎重だった。
「注意してください。こちらから攻撃したら反撃してくる敵かもしれません」
「いるよね、そんなタイプの敵」
普段RPGを嗜んでいるため、事前知識は兼ね備えている。とはいえ、
「所詮はLV1でしょ。反撃されたとしてもどうってことないって」
「そ、そうだよね」
ドロシーも一抹の不安を抱えるが、あくまでも気楽なサクヤに同調する。
言うが早いか、サクヤは愛刀を取り出す。そのまま切りつけても倒せそうだ。だが、やるならば一思いに一発で仕留めた方が卵にとっても報われるというものだ。切っ先を卵へと合わせ、ゆっくりと息を吐く。
「飛翔斬」
使用したのは先ほど習得したばかりの魔法だ。振り下ろされた刀から真空の刃が飛ばされる。
攻撃されているにも関わらず、回避しようという意思が感じられない。卵ゆえに当たり前だが、じっと斬撃を待ち受けているのが不気味だった。
あっけなくサクヤの魔法を受け、体力ゲージは一気にゼロとなる。いくらLV1とはいえ、手ごたえがなさすぎる幕切れだった。
「まあ、こんなもんでしょ。準備運動にもならなかったわ」
鞘に刀を仕舞い、サクヤは伸びをする。ただのこけおどしだったのだろうか。ひび割れた卵を残し、三人は次なる獲物を探そうとする。
しかし、突如として割れた殻の隙間から光が立ち上った。勝手にひびが広がっていき、メキメキと音を立てている。
あまりに異様な変化に足を止めざるを得ない。とんでもないトラップを発動させてしまったのか。後悔したところで後の祭りだった。
怪物めいた叫びを発し、ドロシーたちの二倍はあろうかという体長の怪鳥が顕現する。雛にしては猛々しかった。むしろ、既に成長した個体が卵を隠れ蓑にしていたというほうが似つかわしい。クジャクのようなカラフルな体毛だったが、立派なトサカと顎髭を有しており、鶏というべきだろう。
ダチョウの卵から超巨大鶏が生まれたという理不尽に腰を抜かすばかりだ。だが、驚くべきことは別にある。夢魔だというのは間違いないが、そいつのステータスを確認するや声を失うのだった。
表示されたステータス。そこには「夢魔コカトリスLV20」と記されていた。
三人で協力すれば、苦戦を強いられるもののLV10の夢魔も討伐できるようになった。だが、すぐそばで威嚇している相手はその二倍もの強さを誇っている。わざわざレベルを確認せずとも、勝てる相手ではないことは本能が察していた。
「時雨ちゃん、どうしよう」
「考えなしに卵を割るからですよ」
「私のせい!? って、言い争っている場合じゃないでしょ」
喚き散らすものの、逃亡することで総意した。だが、夢魔コカトリスが羽根を広げるや、激しい暴風が三人を襲う。
夢魔が魔法を使ってきたこと自体初めての経験だった。とはいえ、驚いている場合ではない。風の勢いに負け、三人は一様に転倒する。すかさず、コカトリスは前足で踏みつけようとしてくる。
最も身体能力に優れたサクヤが狙われたのが不幸中の幸いだった。とっさの判断で体を転がし、コカトリスの強襲を回避する。だが、コカトリスは執拗に攻撃を仕掛けてくる。
間合いを取ろうとしても風の魔法で阻まれるのがオチだ。ドロシーの「スターシールド」なら凌げるかもしれないが、彼女を犠牲にして逃亡するという苦肉の策を取るしかなくなる。
もはや、真っ向から挑むしか方法は残されていない。サクヤとドロシーはそれぞれ武器を構える。
「あんなのを直接殴っても無意味。魔法で行くわよ」
「う、うん、そうだね」
おっかなびっくりになりながらもサクヤに続こうとする。サクヤの刀身に光が宿り、続けざまドロシーの杖にも光が灯った。
「飛翔斬」
「シューティングスター」
真空波と星形の魔法弾がコカトリスへと炸裂する。図体が大きい分、機動力は高く無さそうだ。
反面、耐久力は並ではない。レベル差があるにせよ、コカトリスの体力はろくに減ってはいなかった。
第二撃を放とうとするが、それより前に風の魔法が襲い掛かる。一度は屈するが、再度使用して来た時は「スターシールド」でやりすごした。
今のところはどうにか攻撃に対処できているが、いずれじり貧になるのは明確だった。ドロシーたちの攻撃力が足りておらず、コカトリスに有効打を与えられないのが大きい。
「みなさんは攻撃に集中してください。私が魔法で後押しします」
「助かる、エカ!」
エカトリーナは相槌をうつと、「エンハンス」の魔法をドロシーたちに使用した。得物を構えると、溢れんばかりの光が迸る。
「シューティングスター」
強化された魔法弾を発射する。大したことないと踏んでいるのか、コカトリスは真っ向から受け止めるつもりだ。
強靭な前足で鷲掴みにする。一瞬、喚くような声を漏らしたが、減少した体力は痛手ではない。魔力を強化したところで、単独攻撃ではたかが知れている。
もちろん、そんな単調な攻撃を仕掛けるつもりはない。
「剛切斬」
いつの間にかコカトリスの足元へサクヤは接近していた。左脚の靭帯を切りつけられ、コカトリスは苦悶の声をあげる。
ドロシーの魔法は陽動。攻撃力で優るサクヤがより威力の高い魔法をお見舞いするために、コカトリスの注意を逸らせていたのだ。
魔法を立て続けに受け、体力もほとんど尽きている。そう思いたかった。
だが、コカトリスの体力ゲージは半分以上を保っている。これまでだったら、相手を虫の息にしてきた連携攻撃だ。それですら致命傷に至らないなんて。
しかも、下手に強力な攻撃を仕掛けてしまったせいで、コカトリスは興奮してしまう。
「危ない!」
ドロシーからの警告を受け、サクヤは飛び去ろうとする。だが、彼女の挙動よりも先にコカトリスのかぎ爪が胸に叩きつけられた。




