ゲームをやっているだけでそのうち願いが叶うのだから
ともあれ、新しく魔法を使えるのなら、試してみたくなるのが筋というもの。ドロシーが獲得したのは「ライドスター」という魔法だった。
「どこかのゲームで見た覚えがある魔法ですわね」
エカトリーナが不穏なことを口走る。とにかく使ってみようということで、ドロシーは勢いよく杖を掲げる。
「ライドスター!」
すると、地面スレスレの位置に星形のサーフボードが浮かび上がる。魔法を唱えて出て来たのはそれだけだ。
攻撃や防御とはまた別の魔法であることは確かだ。まさか、微動だにしない空中浮遊するサーフボードを出して終わりのわけはあるまい。
「ネム、これってどうやって使うの」
「魔法少女の魔法なんて個々に覚えているわけがない。色々試してみるしかないさ」
投げやりに言われ、ドロシーは腕を組む。考えてみたところで、正答が導き出せるわけもなかった。
「ライドというからには乗ってみたらどうでしょう。英語で『ride』は『~に乗る』という意味がありますし」
魔法の名前から効果を推察するという優等生らしい答えを突き付ける。乗ってみればと提案されたが、得体のしれない物の上に乗るのは勇気が要る。
サーフィンなど初めての経験だが、ドロシーは思いのままに飛び乗った。
すると、星形サーフィンボートはドロシーを乗せたまま上空へと急発進していった。バランスを崩して転倒するが、かろうじてボートの淵を掴む。
本来、サーフボートは直立して乗るものだが、ドロシーはしがみついたまま空中を飛び回っている。しかも、全く制御できずに壊れたラジコンのごとく旋回し続けていた。
「だーれーかーとーめーて!」
かろうじて空中からドロシーの声が届く。不謹慎にもサクヤは「楽しそう」と目を輝かせていた。
「なるほど。星形のサーフボードで自在に高速移動ができる。おまけに空も飛べるのですね。さながらアラジンと魔法のランプでしょうか」
「いや、どう見ても任天堂のアレでしょう」
「感心していないで助けてよ!」
「大丈夫か、ドロシー。パンツ見えてるぞ」
「見ないでー!」
ネムの性別は不明だったが、鼻の下を伸ばしていることからして、容易に察することができた。とりあえず、いつまでも仲間が空中散歩をしているのを傍観している場合ではない。
「サクヤが新しく習得した魔法を使ったらどうでしょうか」
「この魔法? 飛翔斬とか嫌な予感しかしないのだけれど」
ドロシーの惨状を鑑みるに、背中に羽が生えて飛んでいく未来が想像できてしまう。二人して空中散歩されたら、エカトリーナに止める術は無かった。
だからといって、使用をやめるほどサクヤは慎重ではない。愛刀を構えるとゆっくりと振り上げる。
「飛翔斬!」
掛け声とともに袈裟懸けに振りぬいた。
すると、太刀筋に合わせて空気の刃が放たれた。真空波は空中散歩しているドロシーへと飛んでいき、見事サーフボードへと命中した。
空中浮遊からは解放されたが、真っ逆さまに落下していき、「へぶっ」という悲鳴とともに地面に激突した。それで全身が痺れるだけで済んだのは、未来少年も驚きの耐久力だった。ただし、体力がそれなりに削られたので、エカトリーナから「ヒーリング」の魔法をかけてもらった。
「どうやら飛翔斬は剣の太刀筋を飛ばす遠距離魔法のようだね」
「へえ、便利じゃん。遠くから攻撃できるなんて願ったり叶ったりだし」
愛刀を撫でるサクヤをよそに、ドロシーは地面でへばっていた。尤も、ライドスターも乗りこなせれば空中戦を可能にする有用な魔法ではある。
レベルアップを果たしたことで、三人は小休止とあいなった。ビルの合間からは雲一つない青空が覗く。互いに足を投げ合い、コンクリートの地面に尻をつける。
「やはりチームはいいですね。レベルアップの効率が違います」
「だよな。レベルが高い夢魔でも倒すことができるし」
実際のところは、一体の夢魔を倒すと、その経験値は三人に分配される。しかし、レベルが高い夢魔はそれだけ取得経験値が大きくなる。一人でLV1の夢魔を倒し続けるよりも協力してLV10の夢魔を倒したほうが効率としては上なのだ。
「でもさ、二人はすごいよね。しぐ、サクヤは運動神経抜群だし、エカトリーナだって頭がいいじゃん。私はどっちもダメだし」
ドロシーがため息をついていると、サクヤが首に腕を絡ませてきた。
「そう落ち込むなって。ドロシーにはドロシーのいいとこがあるじゃん」
「私のいいところって、どこ」
「え、えっと、元気なとことか」
無理しているのがモロバレだった。エカトリーナも同情したように肩に手を乗せる。ドロシーは沈痛な面持ちで体育すわりをするのだった。
「ま、まあ、気にするなって。それにしてもこのゲームってすごいよな。ゲームをやっているだけでそのうち願いが叶うのだから」
「極論だとそうなりますわね。いつになるか分かりませんが」
サクヤの言う通り、VRMMOっぽいゲームを楽しみながら願いも叶えられるというとんでもない好待遇に恵まれているとも取れる。だからこそのドリームワールドともいえるか。
「でも、このゲームでゲームオーバーになったらどうなるんだろ」
「所持金が半分になってセーブポイントまで戻されるんじゃないの。知らないけど」
「この世界でお金は流通していませんよね」
心配そうに尋ねるドロシーにサクヤは投げやりに答えた。マジカルポーションを手に入れるガチャを無料で回したことはあるが、再度回すにしても金銭の類を手に入れた形跡はない。
そして、ゲームオーバーになったらどうなるかの克明な説明もなかった。ネムに確認してみても、「大変なことになる」とお茶を濁すばかりだ。
「ゲームなんだから、倒されたとしても救済処置はあるでしょ。そうじゃなかったらとんでもないクソゲーよ」
言い知れぬ不安が湧き上がってきたが、無理に払しょくするようにサクヤは立ち上がる。ドロシーとエカトリーナもつられて立ち上がった。
「うだうだ悩んでも仕方ないし、もう一狩り行くわよ」
勝どきを上げ、一人で先導していく。ドロシーとエカトリーナは顔を見合わせたが、彼女に付き従っていくのだった。




