私たちの正体を言い当てるなんて
サクヤの顔が驚愕で歪む。エカトリーナも口もとを覆っていた。ドロシー自身もまさかと思った。確証はないが、サクヤという名の魔法少女は既知の友人と酷似していたのだ。
強気でお調子者な態度といい、独特な笑い声といい、ドロシー、いや真帆の記憶の中にある友人の像と合致する。極めつけは、脳裏に浮かんだ文字列。魔法を使おうと意識したわけではない。けれども、なぜだか彼女が時雨であると直感が告げているのだ。
「どうして、私の変身前の名を知っているわけ」
サクヤが不信感をあらわにして、日本刀を突き付けてくる。ドロシーは腰を抜かしたまま後ずさる。すぐにでも変身を解除したかった。しかし、この世界で元の姿に戻ることはできないらしい。と、いうよりも、変身を解除する方法自体が分からなかった。
緊迫した状況下、腹の探り合いが繰り広げられる。ドロシーは尻を地面につけたまま、ゆっくりと後退していく。そのうちにエカトリーナと視線が合わさる。瞬間、今度は別の少女の名前が思い浮かんだ。またも聞き覚えのある名前に眉を潜める。じっと凝視してしまったためか、エカトリーナにそっぽを向かれた。
これこそ確証が持てなかったのだが、ドロシーは生唾を飲み込むとエカトリーナに語り掛ける。
「もしかして、綾小路文さんですか」
エカトリーナは口元を押さえる。反応からして図星のようだ。だとすると、妙なことになる。クラスの秀才として名を馳せている女生徒、綾小路文。彼女がなぜ、真帆の友人である時雨と手を結んでいるのか。
「おいおい、マジかよ。エカの正体って綾小路さんだったのか」
「私とて、あなたが霧崎さんなんて知りませんでした。ドロシーでしたか。あなた、一体どんな能力を持っているのです。私たちの正体を言い当てるなんて」
「分からない。いきなり頭の中に文字が浮かんだの。まさか、時雨ちゃんや綾小路さんとこんなところで会えるなんて」
コボルトとの戦闘の件といい、ドロシーの処理能力はとっくにオーバーフロウしている。とりあえず、このまま留まっていては夢魔たちの格好の的だ。三人は身を寄せ合い、路地裏へと避難していくのだった。
夢魔は主として大通りに出現する。裏路地に迷い込んでくる個体もいるが、そちらは稀だ。なので、細道は魔法少女たちの休息の場と化していた。
周囲に夢魔の接近が無いことを確認し、三人は腰を下ろす。典型的な魔女に巫女剣士と修道女。異色の組み合わせで、コスプレイベントでもまずお目にかかれまい。おまけに、全員が同じ中学の同じクラスに通う級友であるのだ。偶然にしてはできすぎている。
「ネム、ネムはいるか」
サクヤが空に向かって話しかける。ややあって、バクの妖精が姿を現した。
「やあ、サクヤ。調子はどうだい。知らぬ間に仲間を増やしたんだね」
「サクヤさんもネムとお知り合いなのですか」
サクヤが時雨であると確証が持てないため、とりあえず「さん付け」で呼びかける。それよりも、彼女がネムと内通していたというのが驚きだった。
「ボクは魔法少女全員の味方さ。必要とあれば誰の問いかけにも応じる。でも、特定個人だけの味方ではないから勘違いしないでくれたまえ」
えばるように鼻を伸ばす。ある特定世代なら、パソコンの隅に現れるイルカみたいな奴かと納得しただろう。とはいえ、今はネムがどのような存在かは問題じゃない。
「こいつ、さっき知り合ったドロシーって言うんだけど、私の正体をずばりと言い当てたんだ。特別な力を持つ魔法少女だったりしないか」
「変身前の正体を言い当てる魔法少女か。聞いたことが無いな。そんな魔法が発現するとしても、LV3程度じゃ不相応だし」
ネムも苦悩している。演技をしている様子も無さそうだ。「魔法少女全員の味方」と豪語する彼が知らないのでは、真相は闇の中といったところか。
そうなると、疑念は別の話題へと移行する。
「私たちの正体を言い当てましたが、あなたは一体何者ですか」
エカトリーナが単刀直入に尋ねる。ドロシーは迷った。否定する様子もないことから、サクヤが時雨、エカトリーナが文というのはほぼ確定である。ならば、自ら「同じクラスの夢咲真帆だ」と明かすべきか。それとも、慎重になるべきか。
顎をさすっていると、突如人差し指が迫る。存在を認めた時には額にデコピンがかまされていた。
「へぶっ!」
あやうく後頭部から地面に激突するところだった。「キシシ」と笑い声をあげるサクヤの頭部をエカトリーナはチョップする。
「あなたは何をしているのですか。いきなり小学生みたいな真似をして」
「いいや。なんとなく知り合いに似ているなと思ったからさ。なあ、当てずっぽうで言っていい? あんた、真帆でしょ」
「どうして分かったの、時雨ちゃん」
攻撃を受けた額を庇いながらドロシーは驚愕する。サクヤは腰に手を当てた。
「勘よ、勘。なーんかどんくさかったからさ。それに、その姿はマジカル☆ドリーミィに似せて作ったんでしょ。そうなら、間違いなく真帆だわ」
核心を突かれ、ドロシーはぐうの音も出せなかった。修道服のフードを被っているエカトリーナは別として、サクヤは元の姿とは乖離していた。それというのも、
「時雨ちゃんだって、全然分からなかった。だって、髪が違うし。もっと短いはずでしょ」
普段は短髪の彼女が肩までかかる長髪になっているのだ。顔つきもさることながら、髪のせいで印象が大きく異なっている。
「普段もこのくらい伸ばしたいけど、スポーツするのに邪魔だからさ。それよりも、あんたが真帆ということで間違いないのね」
確かめられ、ドロシーはべこ人形の如く首を縦に振る。エカトリーナは先ほどからじっと考え込んでいた。
「本当に妙ですわね。同じクラスの三人が夢の世界で集結するなんて。意図でもあるのでしょうか」
「偶然なんじゃないの。こういうのは深く考えても仕方ないって」
「そういうものでしょうか」
あくまで気楽なサクヤに対し、エカトリーナは釈然としないようだった。確かに、偶然としては出来過ぎている。裏があると言われても仕方なかったが、突き詰めるにはあまりに確証が乏しかった。




