7章93話 激戦の狼煙
大変お待たせしました。間がかなり空いてしまっているので、前書きをお借りしてこれまでのあらすじを簡単に纏めます。
彰を筆頭に未だ互角の勝負を見せる日本軍と、残虐な考えを持ってしまった、アーネスト・キングとなって転生した妹友梨佳率いるアメリカ軍との戦いはソロモン諸島のガダルカナル島を再びめぐる戦いへと突入した。
引きつけて叩く。防御戦に特化させた【カウンターキャンペーン】の為に一角も早くソロモンを棄てたい彰と、日本軍の勝利の証でもあるガ島を理由を付けて陥落させたいと目論むキングは、予定を幾分か無理をして繰り上げ攻撃し、見事に彰達ガ島にいる部隊を孤立させた。
これに反攻すべく、五十六発案の【い号作戦】が発動されたが、全くの空振りに終わってしまい、寧ろベテランパイロットを失ってしまう結果となってしまい、彰達の救助は第三、第八、第四艦隊にかかっていた。
第3艦隊への攻撃を目論む第三艦隊だが、偵察戦の結果、初手を打って出たのは第3艦隊の方だった。
攻撃隊を並べている第三艦隊に、影が忍び寄っていた……。
7月7日。
第3艦隊旗艦大鳳の通信室に偵察機からの報告が入る。
「偵察4番機より! 敵艦隊発見、空母4、巡洋艦6、駆逐艦多数からなる輪形陣!」
「続報! 敵艦隊は空母5、戦艦2、巡洋艦6、駆逐艦18。速力20ノット、距離1,200キロ」
「テ連送、接敵中」
ガダルカナル島から発進した残り少ない偵察機から貴重な敵情報が入ってくる。このソロモン海域は最早敵の土俵と化している。味方の基地航空隊は米軍の物量に押されて敗北したのだ。
数という武器を持つ米軍を相手にする時、流石の小沢も覚悟を決めていた。いや、そもそも今までの戦いが互角に進みすぎたのであろう。
これはそのしっぺ返しだ。
少なくとも正面から戦って打ち破れる簡単な敵では無いし常にこちらは数で劣勢。加えてここの制空権は敵が握っていると頭に入れて戦わねばならない。
そうなると奇襲攻撃が妥当だが事前に敵の行動が丸わかりでない限りあり得ないだろう。
小沢も色々な事を考え頭痛に悩まされながら生暖かい南太平洋を進んでいる。
戦艦を中心に編成される第二艦隊はソロモン海域という狭い海域を警戒して今回は投入されず、空母を中心として機動力を重視している。
第二艦隊も投入して火力支援をという声も勿論挙がったが、それらは全て機動力に欠けるとして却下された。
そもそもい号作戦の本当の目的はガダルカナル島からの味方救出であり、敵勢力の排除よりも速度を重視していたのだから真っ当な判断と言えるだろう。
未熟ながらも数々の戦闘を経験しベテランとなった忠一が今回の作戦からは外されている為に、機動部隊運用の専門家の小沢を中心に様々な指揮官が新しく入ってきている。
まずは新鋭第7航空戦隊の大林末雄少将。
彼女は小沢から直接航空戦の教えを習った女性指揮官で、年齢は小沢と同じ20歳。小沢の慎重な性格とは裏腹に、冷静ながらも猛将として積極的な攻撃をドクトリンとして持っている。
飛鷹型で編成される第3航空戦隊には城島高次少将が配属されている。彼女も小沢から航空戦を習った女性指揮官で、無口で大人しい雰囲気である。
現在の空母部隊は女性指揮官が最早定例となっているが、瑞鳳、龍鳳で編成する第4航空戦隊だけは男性指揮官が担当していた。彼の名前は鶴間拓海、階級は少将。
この時まだ誰も知らなかったが、彼の後の活躍が危機的状況に陥ったソロモン戦線を収拾、彰の計画を推し進めるきっかけとなるのだった。
ニューアイルランド島のカビエン沖90キロまで接近した機動部隊は情報通りならば敵が近いと判断し索敵網を形成した。
旗艦大鳳を中心に東120度を中心とし南北に30度の扇状の索敵網を形成。索敵線は8本である。
二式艦偵らが早朝の陽が眩しい空へと敵を求めて飛び立っていく。艦隊ができる事とすれば攻撃機の準備と敵潜水艦への警戒くらいである。
「一は長官と啖呵を切ったと聞くが、あの娘もよくやるもんだよ……」
副官との雑談で小沢は従者が持って来た茶を啜りながら苦笑いする。
「南雲長官は今どうなされているのでしょうか?」
「それがわからんのだよ。あの日以来姿を見せなくなったし、家に行っても音沙汰無し。まぁ生活しているようではあるが」
副官もどうしたのでしょうと心配な様子である。
「そういえば、君は真珠湾攻撃に参加していたんだっけ?」
この副官は真珠湾攻撃に参加している経歴があり、その時の上官は草鹿であった。
「えぇ。あの時は大勝利に喜びましたが、今は優勢とはいえ油断できない状況ですからね、正直どちらに勝利が傾くのか分かりません。ただ、全力を尽くすのに変わりはありませんよ」
この副官は前からの日本人将校とは思えぬ発言から周りから浮いていた人物ではあったが、戦場で現実的に物事を見れる彼を小沢は気に入っていた。
「偵察機から入電です。敵艦隊発見、味方カラノ針路340、距離970キロ」
「ん、思ったよりも北に移動しているな。このまま直進するのはあまり好ましくない、艦隊進路変更。左10度転舵」
小沢は判断に迷っている。距離はそこそこ良い距離まで詰めているのだが、日本軍機の足の長さを活かしアウトレンジで行くべきか、敵の制空権内という事を考慮して距離を縮めるか。
「長官、取り敢えず攻撃隊の出撃準備を整えてはどうでしょうか? 良い距離になったらすぐに出せます」
副官が意見具申する。
「うむ、君の言う通り準備をするのも良かろう。だがミッドウェーの二の舞いになるのは避けたい、ここは敵の制空権内だ。奇襲を食らう可能性もある。もう少し慎重に事を進めよう」
そう言って小沢は航空参謀と話し合いを始めるのだった。
一方、米軍第3艦隊第38.2空母打撃群を率いるジョン・マケイン少将はミッチャーの指示のもと攻撃隊を準備させていた。
陣容はF4Uコルセア84機、SBDドームトレス60機。F4Uは現在急ぎ配備中の新型戦闘機までの繋ぎとして搭載されており、1000ポンド爆弾を2発装備している。
旗艦ホーネットの甲板上には出撃はまだかと言わんばかりの数がエンジンをかけて待機しており、ここで日本機動部隊に打撃を与えると言った意志が強く伝わっている。
「こいつらは頼もしいぞ、奴らならジャップ共に一泡吹かせられる。そう思わんか?」
参謀長のカール・ムーア少将にマケインは誇らしげに話す。
「ええ。彼らは厳しい戦いを乗り越えてきたベテランばかりです、きっとやってくれるでしょう。それに我々には新しい仲間がいますしね」
カールはホーネット左手に並走している巡洋艦を微笑みながら見詰めた。
続々と就役しつつあるフレッチャー級駆逐艦と同じ主砲をなんと8基も搭載し、更には40ミリ4連装機銃が4基。20ミリ単装機銃8基を搭載したまさにハリネズミの艦影。
彰もよく知る防空巡洋艦アトランタ級である。
就役が始まり既に4隻がこの第3艦隊に配備されており、無論主砲弾は日本軍機にとっては悪名高いVT信管を取り付けた対空用の砲弾である。
キングはこの場にいないが、このアトランタ級の配備をかなり急かしているらしく、一部建造が始まっている軽巡を改アトランタ級にしようとしているとの噂もある。
ただこれは日本軍の驚異的な魚雷を装備する軽巡に対抗する為に砲撃力を強化した軽巡が必要との反対に会い頓挫している。
少し話が逸れるが、現在の米軍の艦艇建造計画では空母(エセックス級)→戦艦(アイオワ級)→駆逐艦(フレッチャー級)→重巡(ボルチモア級)→軽巡(クリーブランド級)と優先度順的には軽巡が一番低い。
これは実戦での軽巡の喪失数が低い事により十分な数が揃っている事、そもそも艦艇同士が砲撃戦を行う機会が少なくなりつつある事が現状としてあり、それらを考慮して建造の優先度は低い。
対して日本軍は早い段階から旧式軽巡2隻(天龍、龍田)を阿賀野型と同じ様に防空巡洋艦に改造しており、航空機に対する意識の向上が見られる。
更には彰の提案により、妹の残虐な考えが彰の知る歴史通りのあの戦いを起こすのであれば、その戦いの後に北上、大井、木曾の3隻を同じく改造する準備も始まっている。
川内型を改造しないのは性能・艦齢共にまだまだ新しい方で、可能性は低いが水雷戦が起こると想定すると前線で戦い続けてきた歴戦の川内型は残すべきだと言う案があり、そのまま残す事となった。
他の軽巡、球磨型の球磨、多摩、長良型の計8隻は対潜装備を拡張し、護衛戦隊の旗艦としての役割を果たす。
ちなみにこれは既に編成が始まっており、対潜装備の充実した松型駆逐艦が8隻と旗艦で一隊を成し、これに海防艦や駆潜艇、護衛空母で戦隊としている。
松型駆逐艦であるが、現在6隻が任務に就いており、続々と就役している。計画では旗艦8隻分、合計64隻の建造が承認された。
船団輸送の結果、石油や鉄等の戦略物資は月毎に備蓄が増えるまで効果が出ており、それに伴い護衛戦力の充実化を図るためにこの計画が採択されたと言っても良い。
話を戻すと、アトランタ級で満足しているという部分が米軍内にはあり、主力となる空母とそれを護衛する戦力の拡大が急務とされていた。
だがその護衛戦力にアトランタ級等を入れなかったのは誤りであろう。
だが現有戦力に満足の行かない日本海軍であるが、いくら船団輸送にシフトチェンジしたとしても量には限りがある。ましてや現在暁天型大型空母と(後に攻撃空母と名称変更)土佐型戦艦を建造しているのだから、あれもこれもと手を出す余裕は無い。
それに比べて資源も人も工場も多い連合軍は怠惰感が出ていると考えてもあながち間違いでは無い。
『こちらの勝利は約束されている……』何人もこれを信じ込んで戦っているのだから。
第38任務部隊は攻撃隊を攻撃範囲内に艦隊が入るまで待機しつつ日本軍機動部隊に向けて接近しつつある。
何故早々に準備を行っているのか……実は日本艦隊の位置を日本よりも30分も早くカタリナ飛行艇により発見していたからであった。
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ガダルカナル島の飛行場(日本側名称第一飛行場)に絶え間なく空爆していく米陸軍航空隊であるが、それに比例するかのように増大していく損害の多さに耐えきれず遂に空爆を夜間のみに変更した。
島の南と東に設置された監視塔によって戦力と高度が筒抜けになる他、クーデター軍(後WPFLF、西太平洋祖国解放戦線に改名)の持ち込んでいたレーダーの活躍により第343、518戦闘航空団は優位な高度から先手をかけ、勇猛果敢にこれを迎撃。
戦力こそ日に日に減りつつあるがここは自軍の領域内、パイロットはほぼ全員救出できている為、戦意は衰えていない。
「敵の戦力がどのくらい存在しているのか分からないが、こうも連日来られると稼働機が無くなってしまうぞ」
司令部ではニミッツの補佐官であり参謀長を兼任しているアリス・クリストファー大佐が源田と作戦会議中であった。
「長田、現在の稼働機は」
「はっ。343空の稼働機は紫電改41機、零戦68機。518空はF4F59機、P−38が24機となっています」
副官の長田が集計結果を報告する。これに加えて修理修復中が両戦闘航空団合計で40機ある。
「当初数百あった戦闘機もここまで来るとヒヤヒヤするものだな……どこまで耐えられるか……」
毎日数百単位で来襲する敵編隊の迎撃も上手くいってるとは言えず、特に中型爆撃機は装甲も堅く落とせないパターンが多く、特に弾を多く消費する518空は弾数規制が入ってしまった程である。
「第4艦隊による強行突入が実施される予定です。現在無線封鎖中の為艦隊の状況はわかりませんが、少なくとも近海にまで来ているものと思われます」
長田が補足する様に報告を加える。
「輸送船団だったかな? 我々の常識からすると強行させるなら充分な護衛戦力はつけるだろう。だとすると日本機動部隊は出てるのだろう?」
「2個艦隊、空母12隻が参加しております」
護衛空母は、と口元まで出かけたがアリスは口を閉ざした。自分の専門外の事にまで口を出すのはお門違いである。
そもそもアリスは前任者が爆撃で戦死した為階級上参謀職に就いているが、経験はない為補佐官をつけてもらっている状態である。自分の専門である【砲術】に復帰するのは日本で建造中の戦艦部隊が配備されてからとなる。
「正規空母群全力出撃か……戦闘機は期待出来るだろうな」
アリスの言っている戦闘機とは話に聞いている大山戦術転換案の事であろう。
空母に搭載される戦闘機の数が異常に少ない(米軍に比べて)事に危惧していた彰はその搭載内容を改善。
対空火力はどうしようもないとしても敵迎撃機の段階で数を減らすのは攻撃隊にとって許し難い難関である。
かつ、艦隊直掩機を減らす訳にもいかない為、戦闘機の数を増やし犠牲に攻撃機を若干減らしている。
しかし攻撃機の数は一時的なもので、技術提供されて現在研究開発中の折りたたみ主翼が採用されれば結果的に戦闘機が増えるので攻撃機の搭載数も戻る。
「最も、私は専門分野である戦艦に乗り込みたいところだ……旧式戦艦はキンケードの方が上手く扱えるだろう」
だがアリスは旧式戦艦に乗り込む彼らを欲しいと考えていた。何しろ開戦前より日本軍との砲撃戦を想定して訓練され、砲撃戦なら今配備が進められている高速戦艦の乗員よりも練度は高い。
「まぁそれよりも、眼前の敵をどうするかだね……アリス、何か案は無いか?」
アリスは砲術専門、源田は航空専門なのだが意外と気が合うらしくお互い違う専門ながらも第三者視点での意見交換を行う事が多い。源田に聞かれればアリスが答え、アリスに聞かれれば源田が答えるという新しい視点に立っての見方が学べるらしい。
「こればっかりは私にもわからないな……戦力が枯渇してきている以上、最善の選択は考えつかない。済まないなミノル」
当初日本を嫌っていたアリスも、源田が一役買ってここまで信頼関係を築いてきた。その成果として、互いを名前で呼び会えるまでになったのであろう。
「しょうがないさ。アリスも、早く姉に会えるといいね」
「きっとこの腕を見たら驚くかもしれないけどね」
アリスはそう言いながら失った左腕を自嘲するように眺めた。
第6爆撃戦闘航空隊を率いるライズ大尉は青く光り輝く海を睨みつける様に索敵を行っていた。
「カタード、カタリナの情報だとこの辺りだったよな?」
「はい大尉。もうすぐジャップの艦隊が見えても良い頃合いですよ」
開戦以来戦い続けて来ているサラトガの最古参として彼は何としても日本艦隊に痛撃を与えたいと願っており、今回の作戦でも地上施設に重大な損害を与えた事だけでは満足いっていなかった。
(地上基地を破壊してもジャップのキャリアーが生きてたら無駄だ……奴らを潰さないと意味が無い……)
母艦を飛び立ってからそろそろ40分近くになる。重い爆弾はエンジンに負荷をかけ、その分消費する燃料も増えてしまうのだ。
「大尉。気のせいかも知れませんが、4時方向で何か光りました」
「そいつを確認しよう、位置的にはジャップの可能性が高い」
ライズは機首を大きく傾け、ゆっくりと旋回を始める。
「……でかしたぞカタード!! ジャップの艦隊だ!」
『全攻撃隊、ジャップの艦隊だ! ミーティング通り攻撃態勢に移れ!』
無線で呼び掛けるとSBDは高度を上げ、爆装していないF4Uは現在の高度よりも機首を下げ始める。
『キャプテン! 耳寄りな情報ですぜ!』
『何かあったか?』
3番機のトーマス少尉からの無線である。
『ジャップの連中、甲板に航空機をズラリと並べてますぜ! ミッドウェーの再現が出来ます!』
『そいつぁ幸運だ……全機アタック!』
高度をとったSBDから随時急降下を始める。60度の角度を保ち、エアブレーキを展開させながらゆっくりと広い甲板に狙いを定めていく。
(オーライ……ジャップは気付いてないぞ……)
ライズの照準器には展覧会のように綺麗に並べられた零戦が移る。その後ろには一回り大きい二座席の艦爆(彗星)、そしてその後ろには更に大きい三座席の攻撃機だ(天山)。
800……700……。
「600!」
「GOーー! GOーー!」
気合を込めた投弾。投下レバーを力いっぱい引き、ほぼ同時にフワリと浮遊感を感じる。
海面スレスレで退避を開始し、カタードは敵機を警戒しつつも爆弾の行方を見守る。
「!! 命中! 命中です、やりましたね!」
「よし! ジャップに一発叩きつけてやったぞ!!」
運命の先制攻撃。見事、ライズはその一弾を命中させたのだった。
fin




