7章~ソロモンの激戦編~90話 始まった大反攻
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時は進み1943年6月10日。
ジメジメとした梅雨が日本に訪れたが、暫しの間戦争を忘れられるような雨が人々の疲れた心を少しずつ洗い流していた。
ソロモン諸島からの撤収は少しずつ進んでおり、クーデター軍も順調に後ろに下がって行っている。
予想された敵軍の航空作戦は今の所無いものの、警戒しつつソロモン諸島を後にしていた。
今の所ガダルカナル島までのラインで撤収に成功しており、それが敵に気づかれた様子は無さそうだ。
ラバウルには後退してくる味方が一度集結してから後退しており、時には混雑したりと忙しく動き回っている。
航空兵力が減少するに当たって懸念される制空権の問題への対策として、第3航空戦隊(飛鷹、準鷹)と第7航空戦隊(天城、龍驤)をラエへと派遣した。
天城はまだまだ新参者ではあるが、前線での警戒や偵察任務を重ねて少しずつ戦場に慣れさせようという考えからの派遣だ。
同じ戦隊を組む龍驤の搭乗員はベテランが多く残されており、先輩肌を感じさせる編成だ。
他の主力部隊はトラックにて待機しており、万が一ソロモンに敵主力部隊が現れた場合、これを一括投入し迎撃、撃破する事が考えられている。
戦力が少ないのに分散させて敵にぶつけるのは愚策であることを意見一致している為にこのような配置となっている。
ラエに待機している空母部隊は、制空専門として零戦のみを搭載した第7航戦と攻撃専門の第3航戦で役割を分けている。第3航戦の搭載機数は蒼龍型に匹敵する(53機)為、急しのぎにはなる。
何故主力を前に出さないかというと、ソロモン放棄による事情は勿論のこと、大艦隊を収容できる湾が少ないことも挙げられる。
そうした背景事情から限定的な戦力進出にとどめているのだ。
ラバウルから拡張されたラエに進出した台南空は、13日に完全に後方へ撤収する事になっていた。
無論、台南空所属の桜井、岩本、坂井らは南国の風にあたりながらくつろいでいた。
「それにしても彰も大きく出たねぇ。せっかく占領した領土を捨てるなんてさ」
坂井が花札の札をペシンと机に叩きつける。
「彼なりに何か考えがあるのでしょう。少なくとも、今の所互角に戦えているのだから問題は無い」
淡々と話す岩本に桜井も同調する。
「確かにそうね。彰君初めてあった時は子供っぽさがあったのに、もうすっかり上官よ」
どこか寂しそうに話すのは、やはり桜井達現地搭乗員をよく知ってくれている彰を心配しているからなのだろう。
「けれど敵を誘い込むような作戦だねこれ」
坂井は説明の為に全隊員に配給された作戦要項に目を通していた。本来こうした要項は配られないのだが、彰は撤収作戦に重要と、南方の航空部隊にのみ支給をしたものである。
「しっかし本当にうまく行くのかねぇ? 私は馬鹿だからよくわからないけど、どうも……」
坂井の続きを岩本が塞いぐ。
「私達は、彰を信用して作戦を遂行するだけ……成功するかしないかは別で、味方を完全に下がらせるのがこれの目的」
桜井も岩本の考えに賛同のようだ。
「ははっ、岩ちゃんに言われたんじゃ敵わないな! やってやろうじゃないか! 私達の可愛い指揮官のたてた作戦をな!」
その後少しばかり花札を嗜んだ後、戦隊長からの号令で訓練が始まり、3人は大空へと飛び立った。
エスピリットサントからガダルカナルへと後退してきたニミッツ、マッカーサー、ハルゼーの3人の下へ彰が訪れていた。
会話の内容は主に彰の相談事のようだ。
「ふん、お前でも悩み事はするもんなんだな」
ハルゼーがイジるように笑う。
「そりゃあ、この立場にまで来ると色々責任や重圧がのしかかってくるんですよ」
彰は苦笑しながら答えた。
「でも、アキラの悩みはわかるよ。私も敵とはいえ同じアメリカ人だ。規模こそ違うが、君は妹を殺害という手段で止めようと決めているんだ。それに対する気持ちはとてつもなく大きい」
「ニミッツ提督……」
彰の呼び方にニミッツは大笑いして答える。
「アキラ、我々はもう仲間なんだ。敬称はつけずに親しみを持って呼んでほしい」
ニミッツの問い掛けに彰は少し戸惑いながらも呼び方を変える事にする。
「では失礼して。ニミッツ、俺はどうするべきだろう?」
満足したのか、笑みを浮かべながらニミッツが言葉を紡ぐ。
「出来うるならば私は君と妹さんの戦いを止めてあげたい。これは客観論だ。だが現実はそれを許さない為に、どうすれば今後の戦いを日本の有利に持って行けるかが重要になると思われる」
ニミッツの考えとしては、常にアメリカに対して互角の状態を保ちつつアメリカ国内の反戦ムードを何とかして盛り上げ、講話に持ち込むという提案であった。
だが彰はその返答に感謝しつつも否定した。まず大統領がそれを許さないだろう。
「まぁ、小難しい事を考えるくらいなら目の前の戦いに専念すれば良いんじゃないか? 君の危惧する多方面航空作戦とやらも、いつ起こってもおかしくないのだろう?」
マッカーサーこと咲良が口を開く。確かに言っている事は最もであった。
「私もそう思うな。先の事はわからないが、目の前の事案をどうすべきかはすぐに考えられるし対策も出来る。一つ一つの問題をクリアしながらゴールにたどり着けばいいんじゃないか?」
ハルゼーも咲良の意見に同意のようだ。
「一つ一つクリアか……単純な事に気付かないなんて俺もまだまだだなぁ……」
そんな彰の悩みを察してか、咲良が微笑みながら彰を見つめる。彰もそれを察したのか、『大丈夫だよ』とでも言うように視線を返した。
「私も悩みが一つあってな」
不意に、ニミッツが話し始めた。
「我々はクーデターとして祖国に立ち向かうと決めたが、果たしてかつての同胞に向けて我々は引き金を引けるのだろうか。参加してくれた部隊の兵士達にも同期がいるはずだ。そんな友人達に銃弾を撃ち込めるのだろうか? そう考えると指揮官としてどう立ち振る舞うか、とても悩ましい問題だよ……」
確かに、祖国に立ち向かうのは誰でも出来るが、敵はかつての友。そんな友を躊躇無く殺せるのか。正式な軍の指揮下を離れた彼女らにとっては一番の悩みだったようだ。
兵士としての自覚もあるが、人としての良心も残っているのだ。いざ戦うとしたらどうなるか……。
「私もニミッツと同じ悩みは持っている。だが私はニミッツの部下だ、やれというやら私はやるしかない。上が腰を上げたなら私も上げねばならないからな」
ハルゼーもやはりかつての仲間と戦うのには躊躇いがあるようだ。だが彼女はまだ割り切れていると見える。
「でも俺は腹を決めています。悩みが消える事は無いと思いますが、自分で決めた道です。その道を皆に手伝ってもらっています。それを曲げる事はできない、だから俺は戦います」
真っ直ぐに彰は考えをニミッツに伝えた。すると、ニミッツも腹を決めたのか真剣な表情で答えた。
「なら私もウジウジするのはやめよう。相手は敵だ、我々は我々の目的を達成するまで、全力で君達に協力しよう」
「勿論、俺達も全力でサポートします」
彰とニミッツは握手を交わし改めて強い同盟関係を確認した。
ポートモレスビー、哨戒13番機。
橋田上飛曹は後輩二人を乗せていつもの哨戒任務を行っていた。
旧式化した九七艦攻だが、偵察任務くらいには使えると搭乗員たちの要望で残された機体だ。それ程の愛着がある。
開戦以来乗り続けてきた機体なのだ。
「それにしても先輩、この辺に敵はいるんですかねぇ?」
銃座に座る後輩が話しかけてきた。
「そんな事はわからんよ。何にせよ任務を終わらせてさっさと帰ろう」
今日は内地から間宮が来る予定になっている。間宮羊羹は一度食べたらやめられない程の絶品と聞くが、この方一度も巡り合わせたことが無い彼は久し振りに食べる羊羹を楽しみにしていた。
規定距離の半分程に来た所で反転しようとした時、雲の隙間から海上にちらりと小型艦を発見した。
「見に行くぞ、電信用意」
後輩が後ろで電信の用意をする音を聞きつつ、橋田はゆっくりと高度を下げ始める。
1000メートル程高度を下げて十分に全貌を確認出来る距離まで接近すると、目を見張る光景が飛び込んできた。
「これは凄い……武田! 我レ敵機動部隊ヲ発見、空母8、戦艦4、巡洋艦8、駆逐艦多数、後続ニモ同規模ノ艦隊ヲ確認。基地ヨリ距離840キロ、速度24ノット、1042」
報告すべき内容を電信担当の武田に伝えると素早くモールスを叩く。カタカタと何かを叩く音を聞きながら、後方の艦隊にも接近していく。
「敵機!」
機銃担当の山下が発砲を始める。ズングリととしたシルエットのF4Fであった。
「雲に逃げる!」
橋田は近くの大きな雲の中に逃げ込んだ。燃料は持ちそうだが、このままじっとしているわけにはいかない。
「しかし何故今頃米軍がこの海域に? 珊瑚海の制海権は握られているのは知っているはずでは?」
「来たる大反攻が来たって事だろ?」
武田の問い掛けに山下が茶化すように答える。
「少なくとも良い事ではないな。何とかして逃げ延びなければ……」
言いかけた直後であった。
橋田機は突如として雲から脱出、待ち構えていたF4Fによって撃墜され、珊瑚海へと落下して行った。
3人の報告はラバウルにしっかりと届いたのだが、後方にいるという艦隊が果たして上陸部隊なのか機動部隊なのかは、ラバウルの本部はわからずにいた。
ラバウルでは出撃準備は整えたものの、敵の目標が何処なのか分からず最も近いポートモレスビー含めラエ、ラバウルの三拠点にこの情報を優先的に伝達。
ただしポートモレスビーは戦力が殆ど内容な状態の為緊急退避が命令された。
「このタイミングで来るか、少し不自然だが始まったようだな」
通信室に入って電文を見た塚原二四三は顎を撫でる。
彼こそ、彰の航空作戦に大きな理解を示し、この諸島空域を担当する航空部隊を一括して「第11航空艦隊」として編成し、その指揮を行う人物だ。
「大山君の予想は時期違えど大当たりだな、やはり敵は来たか」
今の所何処の拠点も襲撃を受けたという報告は入って来てないが、敵艦隊発見の報告と同時に偵察機をひっきりなしに出発させている。
彰の予想では7月始め頃と予想されていたが、いつ来てもおかしくない様には準備は進めてきたが、内心早すぎるという思いは隠しきれなかった。
だがきてしまったものは仕方が無い。現戦力で全力で叩くのみだ。
「……以上! カカレ!」
滑走路を見れば優秀な搭乗員達が一斉に乗機に散らばっていくのが見える。塚原は彼らを見てこれ以上無い頼もしさを感じていた。
第3艦隊旗艦に大抜擢されたサラトガの甲板上では発艦準備中のSBDやF4Fがズラリと並べられていた。
米軍の本来のやり方では無いのだが、一括してポートモレスビーとラビ、ラエ、ブナの三拠点を叩く為に時間はかかるが一斉出撃の方針が取られる事となった。
これまでのやり方とは違ったものだが、やり方云々よりもこれまでの苦い負け戦を続けてきた米軍からしたら大量の味方航空機や艦隊が勢揃いしている事に兵士らは歓喜している。
『やっと反撃が出来る』と心から喜んでいるのだ。
TBFの参加も考えられたが、敵飛行場の無力化と制空権確保を優先と定め今回の作戦には1機も搭載していない。
だが万が一の対策として帳簿外戦力として作戦参加する第13空軍の隷下部隊に「第60混成爆撃航空団」を臨時編入、TBFとB−25Hの混成編成で兵力は180機ほど。
ちなみに今回のクライミング作戦の第一段、「ホッピング作戦」に参加する部隊は次の通りである。
「ホッピング作戦」
・海軍
第3艦隊、第5艦隊
空母打撃群2個10隻、護衛空母群3個24隻
艦戦840機、艦爆600機
・陸軍
第21空軍、第20空軍、第13空軍
B−25H/432機、B−24D/144機、A−20/288機、P−38L/216機、P−40F/216機
その後実施される第二段、「アセイラント作戦」では襲撃したポートモレスビーとラビのミルン湾の艦砲射撃による無力化が計画されている。
参加部隊
・第3艦隊 ミルン湾担当
第34任務部隊 ウィリス・リー中将
戦艦5隻、重巡8隻、駆逐艦16隻
・第7艦隊 ポートモレスビー担当
第77.4任務部隊 ジェシー・オルデンドルフ中将
旧式戦艦9隻、重巡6隻、駆逐艦18隻
航空戦力については航空部隊の運用経験のあるカーチス・ルメイ、カール・スパーツらを筆頭に組み込んでいる。
機体の中にはオーストラリア軍やニュージーランド軍、残っていたイギリス軍等の所属機もあり、足りない部隊にそれを割り当て数を揃えた言わば急造部隊だ。
いよいよ始まる反攻作戦、1430をもってハワイの太平洋艦隊司令部から勇ましい内容の電文が入る。
『全力ヲモッテ攻撃スベシ。作戦開始、繰リ返ス、作戦開始』
旗艦サラトガからF4Fが走り出す。甲板作業員は腕を大きく振り回し後ろに控えているF4Fを誘導していく。
「ヤンキー魂を見せてやれ!」
第3艦隊の指揮官マーク・ミッチャー中将も思わず叫んでしまう。それほどにまでアメリカ軍は苦汁を飲まされていたのだ。
「提督、後方より友軍機です。距離2000、高度1500で接近中です」
「ほう、もう合流するのか」
段取りとしては第3艦隊と第5艦隊の航空戦力を持って敵対空火器の無力化が中心。その後陸軍航空隊によって基地施設の破壊(重油タンク、司令部基地等)を実施する段取りとなっている。
数百機もの味方爆撃機や戦闘機が艦隊上空に接近してくる姿が目視出来るようになると、甲板のあちらこちらから歓声が鳴り響く。
「頼もしい援軍だな」
ミッチャーは双眼鏡で彼らを確認しつつ、カタパルトで発進されていく艦載機の音を聞いていた。
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監視所から敵大編隊接近の報告が入った頃には全戦闘機隊が上空4000で待機していた。
無論、その中には精鋭ラバウル航空隊の台南空もあり、3人のベテランパイロットの彼女らもいた。
彼女らは紫電改に乗っているわけだが、一部の機体は少し改造が加えられたものだった。
武装面でのちょっとした改造だが、紫電改乙型と呼ばれ、主翼4挺の20ミリ機銃に加えて機首に12.7ミリ機銃が追加されている。
元々ラバウルには陸軍8個、海軍22個の航空隊が進駐していたが、彰の方針が固まってからは順番に後退が始まっていた。
現在では海軍9個が残るのみであり、その戦力はお世辞にも大規模とは言えない。
紫電改を中心とした台南空、201空、204空の180機と零戦二二型の276機、水上偵察機16機と各航空隊の偵察機48機。
これだけの戦力で大規模な敵部隊を迎え撃たねばならないのだ。
しかも、ラバウル航空隊とは言っているが、実はこの航空隊が第11航空艦隊唯一の航空隊群であり、これらが各拠点に分散配置されているのである。
ラバウルに集結しているわけではなく、例えばポートモレスビーに配備されているのはラバウル航空隊隷下の253空なのである。
ラバウルに集結しているのは台南空、201空だけであり、あとはそれぞれに分散という形になっている。
前話での『彰が最も恐れていた事』を覚えているだろうか? 実はもうこの時点でその内の一つが行われてしまっているのだ。
単純明快、兵力の分散配置である。
確かに現地兵団からすればポートモレスビーは甘んじて譲り渡したとしても、他の三拠点は譲れない拠点であり、そこを防衛するのは当たり前という空気があった。
いかに大きい影響力を持つ彰と言えどまだ信頼は完全なものではなく、権限も強くない為に分散配置が押し通されてしまった形になる。
ただでさえ少なくなっていく航空戦力を分散させる為、その防衛力は薄くなって突破される可能性がグンと高くなる。
それだったらもっと重要な拠点に厚く配置して、守れる算段を高くした方が効率的ではないか、と彰は嘆いたのだった。
まだカウンターキャンペーンを発案したばかりではあるが、一時的な計画としてもソロモン周辺の防衛計画を立て、それに則った作戦を行使すべきであり、ここが彰の失点となってしまった。
とは言え来てしまったのは仕方が無く、彰は現地指揮官としてラバウルに合流するつもりであった。
無線に怒鳴り声が響き渡る。
『敵大編隊は分散! 甲群は依然としてポートモレスビーに接近中、乙群ラビ、丙群ブナ、丁群ラエに向かっている!』
『甲群は高度1500に移動、十分に警戒されたし!』
これは旧式ながらも状態の良いレーダーを使って編成された『管制所』からの指示であった。
兵力分散が決まってしまった以上、最大限防衛戦闘が円滑に進むようにと彰が努力を惜しまず注ぎ込んだ知識の集大成である。
レーダーを設置したりとは簡単であるが、指示の仕方やそれを行う人員の育成はそうは行かない。
よって、彰が現代の知識を使って急いで編成を行った部隊である。
『聞いたな、高度2500まで降下。全周警戒怠るな!』
253空指揮官の金館中尉は愛機の二一型に乗り込み部隊を率いてポートモレスビーの上空にいた。
通常、航空隊長クラスの指揮官になると地上勤務での指揮が多くなるのだが、彼は海軍伝統の『指揮官先頭主義』に則って常に先頭に立って戦ってきた叩き上げの実力者である。
かつかなりの人格者で、部下からの信頼も厚く人望に長ける人物だ。
既に旧式扱いになっている二一型だが、金館はこっちの方が乗りやすいと言う理由で乗り続けており、機体後部には金館機を表す青い稲妻の模様が入れられていた。
装備も少し改造したもので、機首7.7魅力、主翼20ミリに加えて12.7ミリも2丁追加されている。
(そろそろ会敵だろう……)
金館は少なくとも時間稼ぎにはなればと考えていた。ラバウルにいる主力部隊がこの空域近辺に到着するのは早くて1時間程。
それまでの時間稼ぎに迎撃戦闘が行なえればと考えていた。
『敵機視認。11時方向、高度1500』
敵を発見したらしく、部下から無線を通じて連絡が入る。見つけた方向を見た金館は驚きのあまり目を見開いた。
(冗談だろ、何機いやがるんだ……)
ポートモレスビーに接近中なのはミッチャーが直々に指揮を取る第38.1空母打撃群と第58.1護衛空母群「タフィ1」の第一次攻撃隊150機、そして第497爆撃群のB−25H/144機、第8戦闘航空団のP−38L/108機の合計402機である。
それに対して迎撃を行う253空は稼働47機。全く釣り合いの取れない兵力である。
無線封鎖のお達しであったが、流石の金館も形勢不利と見分けるやいなや無線に向かって指示を飛ばした。
『全機! 敵の数が多過ぎるから、この後連絡はとれんと思え』
『良いか、一度しか言わんぞ! 目標は敵ドーントレス、その後爆撃機を狙え。敵の攻撃能力を少しでも剥げ! 戦闘機がおっつけて来たら何とか振り切るんだぞ!』
『被弾した機は無許可離脱を許可する、何としても飛行場に滑り込め。ただし帰れないと判断した奴は体当りしてでも敵を止めろ! 以上、健闘を祈る!』
無線を閉じた金館は不意に、ここが死に場所であると考えた。何故ならば敵は400機。死ななければ儲けものであろう。
『253空、全機カカレ!』
上空待機であったため増槽を装着していた零戦であるが、全機が一斉に増槽を落とし敵大編隊に食らいついていった。
空母ヨークタウンⅡ、SBD4番機
アレックス一等兵が乗り込む4番機は小隊ではカモ番機として配置されており、操縦員のヘンリー上等兵共々出撃の度に緊張していた。
「なぁアレックス。今回の出撃はかなり本気だ、これだけ数が揃っていればきっと平気さ」
「でもヘンリー、それでもカモなのに変わりは無いんだぜ? 俺はやっぱり不安だよ」
7.62ミリ連装機銃を握り締めながらアレックスは上空に敵がいないか確かめる為に睨みつける。
南国特有の照りつける太陽以外今の所は何も見えないが、直後彼の視界には大量の弾丸が見え始める。
「え?」
瞬間、アレックスの乗る後部座席に数十発の銃弾が殺意を持って衝突してくる。その弾丸は機首の方に移るとボッと炎を吹き出して、珊瑚海へと降下して行った。
『オーバーロードより各ウィングリーダー! ジャップの迎撃だ、気を付けろ! 編隊を崩すな!』
指揮官機から無線が入るのと同時に迎撃の機銃弾が撃ち上げられる。300機程の攻撃機からの弾幕射撃は恐ろしいものだろう。
それでも金館率いる253空は突っ込み続けた。中には火炎を吹き、キリキリと舞いながら落下するものや落下せず近くの機に体当りしたりとあった。
『こちら497マルチリーダー。目標地点まで残り50キロ、全機高度を上げる。2000まで上昇しろ』
第497爆撃群の指揮官機から無線が入ると米軍機は一斉に上昇機動に入る。253空はしつこく食らいつき続けたが、最後まで空戦を続けていた零戦がP−38に撃墜された。
253空は撃墜32機を記録したが、その結果は全滅であった。
第497爆撃群第3中隊
マイルズ曹長の乗り込むB−25は北アフリカ戦線から異動してきた歴戦のであり、全員の息が合う中隊の中でも優秀なチームである。
マイルズ曹長は照準手を努め、腹に抱えた500ポンド爆弾6発を投下する役目を負っている。
「マイルズ! ジャップへの反撃の一発だ。外すなよ!」
「任せてくださいキャプテン、北アフリカで鍛えた腕前見ててください!」
機長とも仲の良いマイルズは照準器を覗き込む。見慣れた模様が視界に入り、その遥か下には綺麗な海が広がっていた。
「到着1分前!」
機長が叫ぶ。
「マイルズ! 誘導しろ」
「サー」
ゆっくりと機体をコントロールして、的確な場所へと照準を合わせていく。やがて目標である格納庫らしき建造物が視界に入った。
「行け、ゴーゴーゴー!」
投下スイッチを押して爆弾を腹から吐き出す。6発の500ポンド爆弾がポートモレスビーの広い飛行場に落下していった。
一方、地上では空戦の様子を見物していた整備員などの勤務員は壕に退避しており、爆撃が始まっても良い状態になっていた。
だが空戦が自軍の全滅で終わると殆どの兵は(もう無理だ……)と覚悟を決めていた。
そこにやってきたB−25。次々と爆弾を投下するとその黒い塊が徐々に接近してくる。
「頭下げろ!」
誰かが叫ぶと同時に地面が爆発によって大きく揺れ始めた。
対空戦闘は勿論行われているのだが、いかんせん数が少なすぎる。艦載機群によって次々に無力化され、やがて完全に沈黙してしまった。
(台南空は、増援は来ないのか……)
ポートモレスビーに新しく配属された新兵は、そんな事を考えながら目の前に落下してくる爆弾を凝視していた……。
fin
お久しぶりです!松ちゃんです!
仕事が忙しく云々言わず、ここまで遅くなってしまいすみません!
定期的に更新する事が難しいかもしれませんので、ご容赦頂けると嬉しいです。
さて、友人からの指摘がありましたので、今回からふたつ変更点を設けましたのでお知らせします。
・数字、英文字の全角化
・単位(例 km→キロ kt→ノット)のカタカナ化
としました!数字は全角の方が見やすいとのことでしたが、如何でしょうか?ご意見頂けると今後の改善点に繋がりますので、是非とも教えてください!
ではまた次回に!




