6章89話 計画
帰りの空母翔鶴での事。
交渉が無事に終わり、正式に日本と反米軍(クーデター軍)との軍事同盟が調印され、今後共に戦闘を行っていく事になった。
だが彰にとって一番危惧しているのはソロモンという地形である。
ソロモンは島嶼群である為に米軍が反抗して来たらまず反撃の手立てがないという事にある。物資も兵力も限られているクーデター軍にとっては無理難題が積み重なっているのだ。
それは日本軍にも言えることで、既に増産体制に入っているだろう米軍の海軍兵力には互角に持ち込めても押し返す自信は無い。
陸軍も現在大規模転換中の為にとてもでは無いがソロモンを持ち堪えさせることが出来るだけの兵力を投入する余裕も無い。だとしたら一番ベストな方法は……。
「ソロモンを完全に放棄、か……」
元々彰はソロモンの放棄を決めていた。一部は動いており、特に問題は無いと思っていた。
だが新たな戦力が加わった、それがクーデター軍である。これらを見捨てて自分達だけが後ろに下がることは出来ない。
今考えている事は、クーデター軍にフィリピンまで下がってもらう事だ。
ソロモンという地形はかなり難しい場所にある事もあげられる。下を見ればオーストラリアがあり、上、右を見れば広大な太平洋。その全てをカバーするのは大変だ。
戦力を温存したい彰からしたらソロモン程厄介なものは無く、何とかこの問題を解決しようと思っている。
クーデター軍の戦力は海兵師団2個、歩兵師団5個に航空機800機近く。これらを移動させるのにどれだけのフネと時間がかかるのだろうか?
「……四郎に相談するか」
翔鶴の甲板でごろ寝していた彰は、起き上がるとあくびをしながら艦橋へと歩いて行った。
「輸送船?」
彰に相談された高須ははて? と首を傾げた。
「クーデター軍の移動には輸送船が必要になる。その輸送船がどの程度今動かせるのかを知りたかったから」
流石に無茶な質問とはわかってはいたが、思い付いたら行動してしまう癖のある彰らしい行動であった。
「本土に戻ってみないとわからないですね……海軍所属の輸送船だったらいくつかは……凡そ20隻くらいですかね?」
20隻。途方も無い時間をかけないと輸送は終わらなさそうな気しかしなかった。
「なんで輸送船を?」
「俺達日本軍が戦略的観点からソロモン諸島を放棄するのは決定事項だろ?」
「うん」
それが何か? と言いたげに返事をする高須。
「それなんだよ。俺達は構わないが、新しく仲間になったクーデター軍をほっぽって後ろに下がるのか? ってね」
「確かに……」
高須は顎に手をあて考え込む。一緒に戦うからにはクーデター軍も後ろに下げた方がいい。補給の点から考えても、それが当たり前のように答えとして浮かび上がってきた。
「これはかなり重要な案件ですね、本土に戻ったら早速会議を執り行いましょう。米軍が動くよりも早く動かないと取り返しのつかない事になりそうです」
彰は同意してくれた高須に感謝しつつ、彰も解決策を練ろうと再び甲板に向かう。戦闘中でない限り、基本乗員はのんびりと過ごしており、彰もそれにならっていた。
甲板で寝ていればちょうど通り掛かった乗員と談笑したり、軽い勝負事をしたりと親睦を深めている。
自分が歳下であるのと性格柄、よく絡まれる事が多い。彰もその方が嬉しく感じ、すぐに打ち解けられた。
そんなのんびりとした時間とは裏腹に、彰が最も避けていた事案が今後発生するとは誰が思っただろうか……。
――――――――――――――――
ハワイ、合衆国海軍太平洋艦隊司令部。
ここにはキングの他に艦隊を率いる重要な指揮官が集まっていた。
「ではこれより会議を始めようと思う。皆の手元に書類は行き渡ったかな?」
無いと言う者はおらず、そのまま話を続けた。
「ではまずこの作戦の根本的な目的から説明しよう、アレイ?」
「はい」
アレイと呼ばれた人物の名はアーレイ・バークという可憐な姿の参謀であった。キングがその才能から目を付け、参謀として雇った女性だ。
「では私が後を引き継がせて頂きます。まずは2ページをご覧下さい」
書類をめくる音が響き渡る。
「まずこの作戦の主要目的はソロモン諸島の制圧とオーストラリアとの連絡の改善にあります。現在ソロモン諸島は敵の制圧下にあり、同盟国であるオーストラリアが孤立している状態にあります」
「まず第一に拠点となるフィジーの奪還から始めます。その後、ニューカレドニア~エスピリットサント~ソロモンという流れで計画しておりました」
バークはホワイトボードに張り付けられた大きな地図に印をつけていく。ここらは諸島が多くあり、戦力の分散は避けられない事案であった。
そこで米軍首脳部はある戦法を採択し、今こうして会議を行っている。この作戦ならば戦力を分散させずに、効率的に敵拠点を叩ける。
「質問を」
そう言って第5艦隊の参謀が手を上げた。
「情報部によると敵戦力は我々よりも少なくとも互角以上蓄えていると考えられます。それらが全力で阻止しに来た場合の対策は?」
戦力が激減した米軍にとって日本軍の戦力は侮りがたい懸念事項であった。戦力比としては、日本空母14対米空母9なのである。
正規空母こそ日本軍は少ないものの、軽空母を戦力として数え、そしてそれらがまとめて投入されたらまず防ぐ手立てが無い。
そこに第3艦隊の参謀が口を挟んできた。
「少なくとも日本軍に戦力の一括投入は無いでしょう。奴らは艦隊決戦思考があり、主力艦は基本的に温存します。空母もしかり、軽空母含めて数多しとは言え搭載機数もたかがしれているだろう」
彼の言う事が本当にその通りかは日本のみぞ知る事であったが、この会議室にいる殆どはその通りだと頷いた。
第5艦隊の参謀も確かにそうだと納得したようだ。
「続けます。本作戦ではいかに敵拠点の無力化を図るかというよりも、敵拠点を無視出来るような体制を整える必要性がある作戦となります。」
「ですがソロモン諸島の一大拠点であるガダルカナル島、ここは避けられない拠点となり、ここをとらねば今後の作戦行動に支障をきたします。よって先程の計画に変更点を加えます」
バークは書類をめくり、新たに計画された作戦内容を読み上げた。
「フィジー・サモア両島を海上封鎖によって孤立化、これを無視します。エスピリットサントは艦砲射撃で叩き無力化。その後一気にガダルカナル島へと上陸します」
「クライミング(山登り)作戦、後に続く本丸の作戦を成功させる為には、必ず成功させなければならない作戦であります」
クライミング作戦と名付けられたこの作戦は、史実で言えば飛び石作戦である。だがキングはその内容をこの世界の情勢に合わせて変更させたのだ。
クライミング作戦を成功させるにはやはり史実同様に強力な日本軍の拠点を無視出来る体制を整える必要性がある事から、再び大きな犠牲を覚悟してでもガダルカナル島の奪還が必要となったのだ。
「話が少し飛びますが、この作戦に参加する兵力の説明をさせていただきます」
バークが資料をめくる。
「主力部隊、第3艦隊。支援部隊、第5艦隊と第7艦隊、以上となります」
ここで、新設された第7艦隊について説明しよう。
第7艦隊は上陸作戦時の直接火力支援艦隊として、旧式戦艦を中心に編成された艦隊である。上陸時だけで無く、海上からの火力支援の提供も行う事が出来る。
更に第7艦隊には輸送船団を組み込んであり、総合的な管理が容易に行えるようにもなっているのが特徴である。
第3艦隊は現時点(1943年4月)までに就役している空母を含めて合計10隻が戦力となる。数では劣るが、空母としての機能や性能を見ると互角なのではないだろうか。
これに生き残っている戦艦が護衛として入る。これでしばらくは戦っていけるという戦力ではある。
第5艦隊は現在急ピッチで建造が進められている護衛空母を中心とした近接航空支援艦隊として返済されている。
規模こそまだ小さいものの、
それぞれの簡単な編成を記すと、
第3艦隊
空母9隻 サラトガ[CV-3]、ヨークタウン、イントレピッド、ホーネット、フランクリン、タイコンデロガ、インディペンデンス、プリンストン、ベロー・ウッド、カウペンス
戦艦5隻 サウスダコタ、マサチューセッツ、アラバマ、アイオワ、ニュージャージー
他、巡洋艦12隻、駆逐艦42隻
第5艦隊
護衛空母20隻、駆逐艦32隻、護衛駆逐艦27隻
第7艦隊
戦艦9隻 ニューヨーク、テキサス、ネバダ、ペンシルベニア、ニューメキシコ、テネシー、カリフォルニア、コロラド、ウェストバージニア
他、巡洋艦18隻、駆逐艦40隻
となっている。第5艦隊は上記の通りまだ小規模艦隊であるが、航空支援が行える貴重な存在である為今回の作戦では参加となっている。
「纏まった兵力で敵を攻撃出来るのなら、これまでの手痛い戦いを思い出せばこれ以上無い喜びだ。」
「ですが閣下、問題がいくつかあります」
バークが書類をめくり報告を始める。
「こちらをご覧下さい」
バークはホワイトボードにある地図に赤で丸を足していく。
「一つは敵の潜水艦です。日本軍のは機関の音は大きいので探知しやすいのですが、クーデター軍の潜水艦は元は我々側の潜水艦。こいつが厄介な存在になっています」
「敵は潜水艦を数チームに分けて群狼作戦を展開、我が軍の船団を中心に攻撃を、通商破壊作戦を大規模に展開しています。これに加えて小型艦や駆逐艦を投入しての作戦も行っているようです」
バークはソロモンの海域の細かい所にも赤丸を増やしていく。
「おいおい、殆どの海域が制圧されているじゃないか」
第5艦隊指揮官のスプルーアンスが片手を上げる
「はい。ソロモン諸島はほぼ完全に制海権を取られている状態です。これに加えて敵の航空機、まさに要塞です」
全ての将兵が黙ってしまった。現戦力でこれらを無力化するのは何とも不可能に近い作戦であるが、ソロモン諸島をどうにかしないとアメリカ軍は前にも進めないのである。
誰もが唸っている中、キングは一人別の事を考えていた。
それはある機体の航続距離と武装、そして適切な数である。そう、キングはもう適任である航空機に目星をつけていたのだ。
「B-25HとA-20による混成強襲部隊を編成してはどうだろうか?」
キングの発言にバークが反応した。
「確かに、その2種なら……不可能では無いですが、護衛はいかがするんです? 航続距離的な問題が生じますが……」
「P-38があるでしょう? それを護衛につけて、制空権だけでも奪取しなさい。」
どれも長距離の航続距離を誇る機体である。
キングの言うB-25Hとは、本来は爆撃機ではあるものの、機首の武装から対地攻撃機としての要素も含んでいる上に爆弾も搭載出来る、まるで現代のA-10サンダーボルトのような機体である。
その気になる武装はと言うと、
・機首
75mm砲1門
12.7mm機銃4門
・機首横
12.7mmガンポッド4門
・爆弾
3,200lb(6~4発)
となっている。
キングが注目したのは機首方向への武装の強力さである。敵航空基地を破壊・麻痺させるのに、これ以上無い適任である事は明白であろう。
まさに攻撃機というよりも襲撃機と呼ぶ方が相応しい強力な機体である。
「閣下、まさか直接ガダルカナル島まで飛ばす気ですか? 長距離作戦の可能な航空機を選抜したとはいえ、流石に無理が……」
一人の参謀が声を挙げたが、キングはそれに笑って答えた。
「すまないね、言葉が足りなかった。私の頭の中で今立てた計画は、まずポートモレスビーを奪還してはどうだろうか?」
ポートモレスビー。現パプアニューギニアの首都であり同国最大都市である都市で、日本軍はここに中規模(ラバウルに比べて)の基地をこしらえていた。
配備されているのは零戦48機に陸攻20機と、小規模であるが、2月より兵力転換命令で徐々に撤収している基地でもあった。
「このポートモレスビーを拠点に一番の難点であるラバウルを叩ける。そうした方が、ガダルカナル島を奪還するよりも遥かに犠牲は少なく出来そうじゃないか?」
出席者は唸る。確かに制空権、制海権共に取られているソロモンに行きガダルカナル島を奪還するよりも遥かに現実的な提案であった。
しかもラバウルである。もしここを無力化して制圧できればそこより西側は孤立し、一気に無視出来る状況になるのだ。
途中オーエンスタンレー山脈があり、満載装備の航空機には少し辛い場所ではあるが、問題はなさそうだ。
「クライミング作戦の練り直しに2週間与えます。この間に航空機による作戦を主体とした内容を作成しなさい」
キングの命令に何人かの参謀が敬礼して会議室から出て行った。
「では、作戦の細かい内容はまた後日にしましょう。ここからは現在対策中の点についてご報告させて頂きます」
「これまでの問題に対してもう何か対策があるのか?」
別の参謀が問うた。
「先程の敵の群狼作戦に対し、ハンターキラーチームを作りハワイから明後日出撃します」
「それと、クーデター軍がソロモン諸島にいるため、ソロモン水道には入らずそのまま太平洋側の掃討作戦となっておりますので、そのへんの理解も頂きたいと思います」
特に質問をする気配も無い為進める。
「ふたつめの問題としてはクーデター軍の航空戦力の存在ですが、残念ながらこれに対抗する戦力は作戦開始の6月15日までには揃いません」
これにはキングも頷いた。悔しいが敵の方が数は多いのだ。
「よって、今回のクライミング作戦では電撃的な航空強襲が成功の鍵となります。敵部隊がどう出るかは分かりませんが、ポートモレスビーを素早く基地化する為に艦隊は珊瑚海待機とします」
バークは地図の珊瑚海の部分に大きく赤丸を描いた。
「クライミング作戦の遂行状況では後に控えているバックグラウンド作戦の遂行にも影響を及ぼします。各々の奮励を期待します」
バークが纏めると会議は少しの予定合わせを行い終了した。
――――――――――――――――
少し日が経ち4月20日。
会議室に一同に集まった彰達海軍関係者は現在の戦力をまとめた。
まず、空母は加賀、飛龍、翔鶴、瑞鶴、大鳳、雲龍、天城、飛鷹、隼鷹、瑞鳳、千歳、千代田が今すぐ動かせる戦力。そして夏(7月半ば予定)には白鳳と葛城が就役する。
空母の数でも戦艦の数でもまだ優位に立っている現状、流石の彰も楽観視しており、油断はしていないものの暫くは互角の戦いができると期待していた。
なお天城であるが、3月に就役したばかりの新鋭艦であり、動かせるとはいえ必要最低限の練度も無く、他の空母の予備役を丸ごと乗り換えねば動けないといった具合だ。とてもではないが戦力とは言えない。
大鷹等の商船改造小型空母は対潜装備を充実させ、船団護衛に充てられている。勿論彗星艦爆は主力に優先配備の為、対潜部隊の主力機は九九艦爆である。
搭乗員の練度もかなり高い状態が保たれており、油もまだたんまりとある故に訓練は連日のように厳しく行われている。新しい航空隊もベテラン航空隊によってびしばしと鍛え上げられていた。
「失礼します」
司令長官室のドアをノックして、彰がドアを開けた。
「あ、彰! いらっしゃい!」
五十六は嬉しそうに微笑むと席を立ちお茶を入れようと戸棚を開ける。彰はその後ろ姿を見守りながらソファに座る。
「彰から来てくれるとは珍しい、何かあったの?」
湯呑みを受け取り彰が口を開く。
「前に話したソロモン諸島全面撤収の件、船団はどのくらい集められそうかな? って思ってね。現在の戦力で米軍が劣っているとはいえ、このまま何もせずに動かないというのはまずあり得ない。動くなら早めにとってね」
お茶を啜りながら話を進める。
「ふむ……確かに彰の言うとおり、敵が何もしないというのはあり得ない話だね。だけど事を焦って船団を小出しにし、万が一の際に損害を増やすという事態も想定出来る。必要な数は私が必ず揃えるから、彰はゆっくりしていってよ」
五十六の気遣いに感謝しつつも、それでは駄目なんだと彰は否定した。
「なるべく早くしないと敵は来る」
彰はそう断言した。
「何か根拠は?」
全軍を預かる身として、五十六は早急な実施に必要な理由と根拠を求めた。
「い号作戦」
五十六はキョトンとして首を傾げる。何故ならこの世界でその作戦を実施する理由も無く、現に五十六はその作戦を全く知らない。
と言う事は計画すらもしていないという事になる。
「僕の世界での山本五十六が立案、計画し実施した多方面航空作戦だよ」
彰がその経緯を簡単に説明する。
この世界では日本軍とクーデター軍の占領下にあるが、この時期日本軍はガダルカナル島を奪われ、ラバウルを一大拠点に多方面に航空作戦を行っていた。
ポートモレスビーやブナ、ラビといった拠点は連合軍の制圧下にあり、まさにラバウルが最前線といった時期であった。
その時、彰の知る山本五十六はソロモン及び東部ニューギニアの敵船団、航空兵力を撃破しその反攻企図を妨げる目的として航空機による攻撃を決めたのだ。
作戦は内地において訓練中だった第2航空戦隊のトラック進出を待って開始された。陸上基地航空隊と母艦航空隊によって指揮系統が違う為、山本五十六が統一指揮をとることになった。
作戦目的としては、
1 敵の反攻企図を撃砕、妨圧
2 補給輸送を促進し、第1線戦力の充実を促進する
3 現地陸海軍部隊の作戦指導強化
の3点と定め作戦を行った。
参加兵力に述べ艦戦210機、艦爆70機、艦攻27機、陸攻72機の379機を投入したものの、戦果や作戦による効果は薄く、微妙な終わり方をしてしまった印象のある作戦である。
「そっちの私はその作戦をしてたんだ……それで、それが米軍となんの関係が?」
彰の世界とこの世界では情勢が全く異なる為完全に関係無いと言える。だがそこに彰の世界の知識を持った人間がいたらどうなるだろうか?
ましてやその人物が日本に敵対し、いずれ反攻作戦を行うとしたら? 航空戦力が勝っていたら?
予想出来るのはただ一つ、い号作戦がそのまま自分達に対して実施されるという可能性だ。
「なるほど、航空機の多方面作戦か……でも、部隊を増強するにしてもこれ以上の増強は行わない方針にしちゃったよ?」
五十六の言う通り、彰の助言のもと日本軍はカウンターキャンペーンを主戦術として取り入れ、主力部隊を随時後退させている。
それを取り止め、放棄すると決めたソロモン方面に兵力を増強するとなると、指揮官としての判断力に?がついてしまう。
それはつまり信頼を無くす事になる。指揮官が部下からの信頼を無くすとどうなるかは戦後日本に生まれ知識を蓄えた彰だからこそわかる事案であった。
「そんな事はわかっている! だが、あの人達を見殺しには出来ない。友梨香が必ず実行するという確信は無いけど、僕らの山本五十六はい号作戦で多方面航空作戦を実施してるんだ! それを友梨香がやらないわけがない……」
これは彰の経験上から言える事で、実は生前の友梨香との戦術ゲームでは彰の負けが多かった。それは知識が無い友梨香があの手この手で相手を負かそうという執念から生まれた一つの武器であった。
「……彰の言う事は理解した。けれども既に決まった決定事案、それを覆し兵力増強を行う事は出来ない。申し訳無いけど、現有兵力でどうにかしてもらうしかない」
「だが……!」
彰が反論しようとするが、彰の口を五十六は人差し指でそっと触れてその先のセリフを閉ざした。
「彰。私は……ううん、私達は彰の事を心から信頼しているし、尊敬もしている。だから彰も私達を信頼して欲しいの」
「何も私達が何もしないとは言ってないでしょう? 基地航空隊は申し訳無いけど現有兵力。だけど私達の指揮下には連合艦隊がいるわ」
彰はハッと気づくと恥ずかしげに視線を泳がせた。
「私は、顔も知らない貴方の妹が恐ろしい事をしようとしているのが許せない。だから可能な限りの努力はするつもりだよ?」
そう言って五十六は指を離した。
「ごめん六。俺、焦って……」
六、とお願いした呼び方で呼んでもらえた事が嬉しかったのか、五十六は空に舞い上がりそうになる気持ちを抑えて彰に向き合う。
「良いの。彰の命を大事にしたいという気持ちはわかる。だけど私達が選んだ手段は戦争、殺し合いは避けられない」
「その中でどれだけ命を救うかが私達にかかっている。彰の信条は私も共感できるから、クーデター軍の人達を予想できる事態から早く避けさせたい気持ちもわかるから」
彰は五十六の協力的な立場に感謝しつつ、軽い談笑を交えて部屋を後にした。残された五十六は、先程とは別の視線で彰の背中を見送った。
「君は優しいね……私とは不釣り合いだ……」
自身の忠一に対する不利を感じながら、彼女は俯いた。
彼女の魂胆には、クーデター軍には自力で後退してもらおうと考えていた節があったのだ。
自国の部隊への補給や増強する為の輸送船が絶対数必要になる。その関係上クーデター軍にとてもでは無いが割ける船が足りない。
それを彰は何とかして用意して早く後退させようとしている。最早人間性がはっきりと現れていた。
「私じゃ駄目かなぁ……」
ふと、目頭が熱くなる。自分の性格を、初めて身体が、理性が拒否しているのだ。
「はぁ」
大きな溜息をついて調子を戻す。気合を入れ、彼女はデスクワークへと戻った。
彰が最も恐れていた事案の2ヶ月前の事であった。
fin
お待たせしましたー、松ちゃんです!
エスピリットサント島への冒険(?)も終わり、何だかもっと激しくなる戦いの匂いがしてきました!
今回は日本のい号作戦を米軍が実施したら?という思いで計画しました。是非是非楽しんでいただければと思います!
ではまた!




