6章88話 潮風にあたって……
大変おまたせしました。
今後の作品制作方針を決定づける事件が起こります。
珊瑚海を抜けた艦隊は遂にエスピリットサントを双眼鏡越しではあるが捉えることに成功した。
犠牲は大きかったが、この犠牲に見合う価値のある交渉が行われると彰は期待していた。一部とはいえアメリカ人にも原爆の使用を反対する存在がいるのだ。
これを自陣に組み込めば、もっと戦いやすくなる。
利用するといえば聞こえは悪いが、資源も乏しい日本が大国アメリカに正面からぶつかって太刀打ち出来るはずがないのだ。少しでも戦力を増やす必要がある。
潮風に吹かれながら考えていると島から2隻の駆逐艦が接近してくる。古い単装砲を備えている。
「艦種は何だろう……」
アメリカ海軍の駆逐艦は何せ数が多すぎる。数字で覚えるしか方法はないが、馴染みのない名前を覚えるのは骨が折れる。
『先導ス。代表団ノ航空機デノ先発モ準備セリ』
駆逐艦からの発光信号ではどうやら航空機で来ても差し支えないというらしい。彰は早速その言葉に甘えさせてもらおうと考えた。
エスピリットサントのコンクリートで整備された滑走路には数十機もの航空機が並び、まるで博覧会のように揃えられていた。
エスピリットサントからソロマンにかけて展開されている航空戦力は以下の通りの組織で編成されている。
【太平洋方面航空軍団】
南太平洋航空軍
・陸軍第506戦闘航空団
4個飛行隊
・陸軍第18戦闘航空群
2個飛行隊
・陸軍第20爆撃航空群
5個飛行隊
・海兵隊第89戦闘航空団
3個飛行隊
・海兵隊第63爆撃航空団
3個飛行隊
数はそこそこ揃っており、機種は陸軍がP-40、P-38、B-17。海軍はF4FとF4U、SBDがメインとなっている。
彰にとって嬉しいのはP-38、B-17、SBDがかなりの数揃っていることだ。P-38は馬力があり攻撃力も高い。B-17は機銃も多く耐久性も高いし爆弾搭載量も多い。
そして単発機としては対艦打撃力に高い期待を持てるSBD。仲間に是非なってもらいたいと彰は考えていた。
「久し振りだな未来人よ」
声をかけてきたのはウィリアム・ハルゼー。南洋諸島方面艦隊司令官という立派な肩書ではあるが、事実上の厄介払いのようなポストだ。
キングの権力集中方針が優先されている海軍では有能な指揮官は派閥によって遠ざけたり残したりしている。これがゲームなら上等な手段だが、ここは人が心を持つ現実の世界だ。
「ハルゼーさん、お久しぶりです。髪をお切りになられたんですか?」
ハルゼー自慢の黒髪が若干短くなっているのを彰は見逃さなかった。彰なりの親睦の深め方であろう。
「ふんっ、長くて鬱陶しかっただけだ。貴様が来るからセットしたとか、そういうわ……」
ハッとして口を閉じる。彰は瞬時に悟った。
あ、この人不器用だな。 と。
「とにかく、大事な会議があるというのに伸ばしっぱなしは礼儀に欠ける! 誤解するなよ……」
精一杯の見栄を張って彰を睨みつけるハルゼーだが、既に彰の苦笑という対応のおかげか彼女の威厳は少し落ちてしまっていた。
ふと、彼女の後ろから新たな人物が2人近づいて来た。彼女は彰の目の前に来ると手を差し伸べる。
「やぁ大山君、初めまして。私は太平洋艦隊司令官のチェスター・ニミッツ。こちらは……」
ニミッツが紹介した女性は、これまで出会って来た女性指揮官の中でもかなりの存在感を表す印象だった。
目元を完全に隠すようなサングラスに、特徴的なパイプ。歴史の授業を真面目に受けている生徒ならば即答出来る有名人だ。
「私はダグラス・マッカーサーだ。合衆国陸軍南西太平洋方面部隊総司令官を担当している」
まさか! と彰は二度見してしまったが、やはりマッカーサーも女性となり生きている。
海軍軍人だけかと思っていたのが、陸軍軍人まで女性指揮官化している。肩身の狭い立場に追い込まれているようで彰は溜息をつきたくなってきた。
「大日本帝国海軍少将の大山彰です。本日は外交担当としてまいりました」
未来から人間として、立場の上下関係は特に注意しなければならない。下手な態度を取ればデメリットが多く、キング率いるアメリカを相手にするためには自分を下にしなければメリットは生まれない。
「君が未来から来たという日本人だろう? 噂はウィルから聞いたよ。君がこれからしようとする議題と我々の祖国に対する意思思想は一致している。有意義な時間が過ごせるといいね」
そういうとニミッツがマッカーサーを置いて歩き出す。すれ違い様に目配せをしていたが、何か意図が隠されているのだろうか。
その答えは彼女の口から出た。それは、彰の今後の人生を大きく変えるものだった。
「大山君、私の旧姓……わかる?」
旧姓、と問われ、彰は思案にふける。ダグラス・マッカーサーに旧姓は無く、ダグラス・マッカーサーはダグラス・マッカーサーなのである。
しかし目の前の女性は旧姓と問う。やはり世界が別になってしまっていると考えた彰は考え込む。
答えを必死になって探していると、普通彼女から発することは無い言語が飛び出て来た。
「私は元日本人」
!?
彰は驚きのあまり目を見開いて彼女を凝視した。生粋のアメリカ人であるはずのマッカーサーの口から日本語。
恐る恐る言葉を綴る。
「貴女の旧姓は?」
いじわるし過ぎたねと笑いながら謝ると、彼女が答える。
「私は姫宮咲良。大山君……彰君と同じ様に、この世界に飛ばされた現代人よ」
驚きであった。まさか、現代日本人が他にも飛ばされているとは思っても見なかったのだ。
彰は、この世界の偶然性と残酷さを呪った。
――――――――――――――――
姫宮咲良がこの世界にやって来た理由は、彰や友梨佳よりも非情なものだった。
現代日本での彼女は17歳の高校2年生で、彰の一個上である。将来の夢は大手IT企業で活躍する事と、活発な性格と積極的な思考から、先生のみならず生徒らからも信頼と尊敬を勝ち取っていた。
夏。部活の試合を終えての帰宅途中で事案は起こった。
彼女は後ろから刺されたのである。
試合に負けた事からの逆恨みによる殺人。試合とは、全国大会に繋がる試合で、彼女のチームに負けた相手チームのリーダーによる犯行だった。
神の悪戯か、彼女はこの世界に痛みを残しながらやって来た。腰を痛めながら目覚めた場所はフィリピンの首都マニラ、1941年8月である。
それを知った咲良は教科書程度の知識しか持っていなかった為に副官にあれこれ質問し情報を集め、10月からフィリピンの戦力増強に務めた。
結果、本間中将率いる第14軍はバターン半島の攻略に60日、コレヒドール島に240日という史実よりも時間のかかった戦闘となった。
マッカーサーは脱出し、とにかく史実通りに動こうとしたマッカーサー……咲良であったが、そこで影響力を強くしていたのがキングであった。
キングは彼女を史実的観点から邪魔と判断しすぐにエスピリットサントへと飛ばす。それに素直に応じた咲良は、この先どうすればいいのか分からない状況であった。
そこで聞いた未来人の噂、大山彰、クーデター軍との思想の一致……この世界で生きて行くには最高の助言者であった。
「それで、彰君はどうしてここに?」
司令本部に向かう道中、彰は咲良と会話をしていた。
「俺は、前日疲れて寝て、気付いたら赤城の甲板にいたんだ。姫宮さんと違って、生きたまま連れて来られた感じかな」
この世界が急を要して自分を連れてきたと彰は仮定した。自分に都合の良いように解釈しているが、現状これで頭を整理するしかない。
日本とアメリカの泥沼の戦いを避ける為にまず友梨佳が転生する。だが世界の意思とは違った方向へ進む友梨佳に対抗するために、同じ軍としての組織にマッカーサーとして咲良が転生した。
だが咲良ので知識では友梨佳に対抗出来ず、急を要して彰がやってきた……
彰の想像ではあるが、きっかけはどうであれ殆ど間違いは無いと言っても過言ではない。
彰はかなり重要な立場としてこの世界にいる。だが本人はそれを自覚せず、妹を止める事に全力をあげている。
「驚きました……自分と妹以外にこの世界に来た人がいるなんて……」
「妹?」
彰は事を一から全て話した。その話を聞いて、何故咲良がここに飛ばされたのかも全ての合点が合ったようだ。
「そうだったの……私も日本は嫌いだけど、それは許されないね……」
彰は小声で呟く彼女の声にピクリと眉を動かしながらも、過去の事についてだろうと流す。
「原爆は何としても止めなければならない。その為には陸軍内で絶対的な影響力を持つ姫宮さんの力が必要です」
「うん、私も原爆は反対だよ。私で良ければいくらでも協力する。その代わり……」
咲良は立ち止まり彰を見つめる。
「私に戦術と戦略を教えてくれない? 経験したのフィリピンでの防御戦だから、攻撃はやり方がわからないの」
彰はその依頼を快諾したが、付け加えた。
「大丈夫ですよ。俺がこれからやろうとしているのは、カウンターキャンペーンです。その防御戦闘の経験、存分に発揮してください」
咲良はカウンターキャンペーンという初めて聞く言葉にキョトンとしたが、会議の時間が迫っているため早足で歩きはじめた。
20人は座れるであろう広い会議室には、部隊指揮官と最高司令官らが集い、ほぼ満席状態となっていた。
「では、これよりクーデター軍と日本国との同盟における会議を始めさせて頂きます」
進行役を買って出た彰であったが、人が多すぎて緊張してしまっている。
「私達から先に言わせて頂きます」
ニミッツから話が始まる。
「我々は軍を自己の欲を叶える手先のように扱うアーネスト・キングへ反発する為の組織として立ち上げました。よって我々の目的はアーネスト・キングの更迭とそれを支持する現政権の交代が最終目標となります。それと、人道的観点から現在開発中の原子爆弾の製造止める事もあります」
「我々としましては日本国軍と同盟を組み対抗するというのは兵力的にも物資面でも、そのあたりの話し合いはこれからするにあたって希望通りにならなくとも大変魅力的な提案ではあります。ですが問題がひとつ」
「それはこれまでの戦いで兵隊達に植え付けられた日本兵に対する怒りや恐怖。これを払拭するのはいくら指揮官である我々でも不可能です。申し上げにくいですが、そちらの対応によっては同盟締結は不可能です」
ニミッツはキッパリと言い放った。彰は確かにそのとおりだと静かに頷く。もしここに軍一がいたら、
『そんなの戦争なんだから仕方無いじゃん』
とか言いそうだから連れてこなくて良かった。
「その点については後述させていただきます。早急で申し訳ないが、我々の方針もお話させて頂きます」
「我々は合衆国が開発中とする大量殺戮兵器、所謂原子爆弾の製造阻止とアーネスト・キングの暗殺が最終目的としています」
「互いの最終目標は違えど、原子爆弾の製造を止めるという目標は同じ。この点について双方に異論はありますか?」
彰の話を聞いていた咲良は首を傾げる。何故彼は妹を殺すのだろうかと……。
「無いようですので、細かい所の問題点をお話しようと思います。まずクーデター軍側の懸念事項である兵士間の感情、こらは私も懸念していた事であり、対策はそれなりに練っています」
「まずは最高責任者である指揮官高須の謝罪を行います。それから事情を話し、納得して頂くしかありません。兵士間のコミュニケーションに関するケアも……」
彰が説明をしている所を、高須が立ち上がり中断させる。
「説明ありがとうございます。ですが、説明よりも我々が先に道を示すべきだと今思いましたので、失礼ながら一言述べさせていただきます」
そう言うと高須は忠一に目配せし、立ち上がらせる。
「戦争の発端は前指導者の責任。ですがここにはいない為、代わりに述べさせていただきます。正式な手続き無しによる開戦に続き真珠湾での騙し討ち、誠に申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる2人。流石の彰もこの事態は予測出来ず、言葉を発せなかった。そこに助け舟を出したのは咲良である。
「私はお二方……いや、日本国の謝罪を受け入れようと思う。だが宣戦布告の正式な手続きが行われなかったのは日本国政府の確認不足による失態、これの責任は取っていただく」
「私の意見は今よりもマシな指導者を据える事だと思うのだが、どうだろうか?」
先程話した時よりも口調が異なるが、察するに自分以外に未来人である事を隠しているようだ。
「私もマックに同意見だ。アドミラル・シロウの謝罪は日本国を代表しての謝罪。私個人は受け入れるが責任はどう取る?」
これについては彰が答えた。
「現在我が国では東條政権による独裁を跳ね除け、元海軍軍人の米内光政閣下による、まだ限定的ではありますが民主主義政策を進めています」
「また、軍における指導方針も一新、特に捕虜な関してはジュネーブ陸戦条約を厳守させるように指導しております」
咲良は心の中で大きく彼を評価していた。自分には出来なさそうな事を彼はやって遂げているのだ。
「ほう……それは、もしかしてミスターアキラが?」
ニミッツの問い掛けに大きく頷く。
「それならば、まだ納得いく話し合いが出来るな。皆はどうだ?」
他の部隊の指揮官も、大きく頷いていた。中には複雑な心情を抱えているのかどっちつかずという者もいる。
「では、同盟締結の為の議題を……」
……会議は4時間以上にも及び、気付いた時にはすっかり日が暮れてしまっていた。日本艦隊はこのままエスピリットサントに停泊し、翌日出港する。
日本代表団は豪勢な簡易建造物に招待され、そこに泊まっていた。
「あのマッカーサーが!?」
四郎は彰の話を聞いて驚く。
「俺と同じ現代人なんだ。恐らく、この世界で2番目に古い転生者だ」
忠一も四郎も黙り込む。自分たちの住む世界が今後どうなっていくのか、2人には規模が大きすぎて想像もつかないだろう。
「今後日本はどうなっていくんだろう……」
忠一は純粋に今の状況に恐怖を覚えていた。
「日本は大丈夫だ。俺が、俺が持ってる知識全てを使って何としても守りきってやる。俺の祖国をこれ以上滅茶苦茶にはさせない」
現代での史実を知っている彰だからこその決意であった。無惨な特攻、2発の原爆。これだけでも何人死んだことか……。
「少なくとも、クーデター軍との同盟締結は上手く行った。これからは兵士間のコミュニケーションだな……」
まだまだこれから浮上してくるであろう問題、その解決に向けて彰は頭を働かせるのであった。
――――――――――――――――
マッカーサーこと咲良は自分以外に現代人がこの世界にやって来た事に驚きと嬉しさを感じつつ、ベランダでニミッツとウイスキーを飲んでいた。
「しかし驚きだな、彼は未来を知っているというのもあるがあの回転の速さはかなり武器になるぞ」
ニミッツが若干頬を赤らめながら嬉しそうに語る。
「うん、彼を敵に回すのは得策では無いな。兵力はこちらは日本にも祖国にも劣っている。裏で執り行ってもらっている物資の補給も何時まで続くか分からないから、凄く頼りになるのは間違いない」
マッカーサーは残りのウイスキーを飲み干すとグラスをテーブルに置く。本来なら酒は苦手だが、元の人物の身体も影響しているのかかなり飲める。
転生した人間からすると、この身体の持ち主は気の毒でならない。その身体の持ち主の意識は無く、精神的な干渉は一切無いのだ。
すなわち、自分が転生するために本物のダグラス・マッカーサーという人物はこの世から消えてしまっているのだ。
「しかしマックよ。よく彼と親しげに話していたが、知り合いなのか?」
「まさか! 今日知り合ったばかりだ。だが、何故彼は話しやすい雰囲気があってだな……」
「うん、確かに彼は話しやすい。あれで未来では高校生? とかいう学生なのだから、我々よりも案外しっかりしているかも知れないぞ」
怪しまれたのかと一瞬焦った咲良だが、そんな素振りはニミッツには無かったようだ。
「しかし不思議だよなぁ……憎かった日本軍が国内の混乱を乗り越えてクーデターを成功させ、国は民主主義に向かっているじゃないか。我々が立てた大義名分も崩れたな……」
ニミッツが残り少ないウイスキーを飲み干した。
「だとするとまだ戦争を続けているアメリカは何を目的に戦争を行うのだろうか?」
「私はプライドの問題だと思うな」
マッカーサーが口を開く。
「我々は良しとしたとは言え、祖国は真珠湾の返しを必ずする。その為にも戦争は継続されるだろう。日本もプライドの高い国家だ。そう簡単には戦争は終わらない」
「そう考えると、私達の立ち位置というのはかなり重要なものになるとは思わないか? もしかしたら終戦への架け橋にもなりうる……」
マッカーサーの推測は一理あるとニミッツは思ったが、その可能性は大きくは無いと判断していた。
祖国がそう安々と日本を許さないだろう。祖国のやり方はそういうものだ。否定はしないが、キングの考え方はどうも気に食わない。
「取り敢えずは日本と一緒に戦う事だな。なんだっけ? 彼の提唱したカウンターキャンペーン、あれは中々大きい戦いになるぞ」
「あぁ、私達も気合を入れなければな」
咲良は不意に流れて来た潮風に黒髪を揺らした。心地良い、優しい風が彼女の襟足をくぐり抜けて行く。
潮風にあたりながら、今日の出来事をゆっくりと思い返すのであった。
fin
長くおまたせしてすみませんでした、やっと書き上がりましたので投稿させて頂きます(震え声)
さてさて、本編はいかがでしたでしょうか?この話で新しい転生者を出したのには理由がありまして、実を言うとこの話二部構成で考えております。
ですが次から次へと湧き上がるストーリーを書きたいと思い、ペースが遅くて皆さんをお待たせすることになっても書き続けたいという思いが勝り、第三部を書く為の大きな伏線とさせていただきました。
なるべくペースを早くしますので、どうか温かい目で見てくださると助かります(汗)。
次回もよろしくお願いします!




