6章81話 阻止する者
4月1日。
いよいよキンケードと共にエスピリットサントへ出航する日がやってきた。
第2艦隊の旗艦は扶桑。第3艦隊は翔鶴となっている。
更に今回はレーダーピケット艦の配備を決定し、第4駆逐隊(駆逐艦野分、嵐、萩風、舞風)の4隻に新型のレーダーと新しく製造した対空機銃を満載して第3艦隊先行200キロの地点に配備された。
レーダーピケット艦とは、第2次大戦中にアメリカ海軍が行った戦術で、自衛能力の高い駆逐艦に強力なレーダーを搭載し、空母部隊よりも先に先行して敵の編隊を発見する役目を持つ。
駆逐艦はもちろん敵の空母がいる方向に展開する。
メリットとして、駆逐艦が敵部隊を発見したら後方の空母に戦力の報告を行い、報告を受けた空母は適切な量の戦闘機を迎撃に向かわせる。必要ならば戦闘機を増加する。
それでも攻撃態勢に移った敵機を護衛艦隊が迎撃し、それでも来るなら空母が対空戦闘を行うという、3段構えの戦術が組めるのだ。
デメリットとしては、駆逐艦による先制探知は可能だが、逆探知もされやすく集中攻撃の的になりやすいことだ。
それでもレーダーピケット艦を配備させたのには理由がある。
実は最近、イギリス海軍の活動が活発化してきているらしいのだ。
今日まで戦ってきたのは主にアメリカ軍。国内での戦いも多少あったが、イギリス海軍と戦闘を交えたのはマレー沖海戦以来だろう。
彰もその話を聞いて、不審に思ったことがいくつもある。
実は、インド洋に進出しているはずの空母が見当たらないらしいのだ。
本来ならば必要性があるかどうかは疑問だが3隻の空母がインド洋に派遣されている。それがいないのならかなり警戒する必要があるだろう。
イギリス海軍が何を考えてるのかはわからないが、もしソロモン海域で攻撃にあったら厄介なのに変わりはない。
とにかく、活発になっているオーストラリア海軍の航空隊による空爆を警戒するため、レーダーピケット艦を配備したのだ。
艦隊は、マリアナ諸島に差し掛かろうとしていた。
「我々ロイヤルネイビーはアメリカ合衆国海軍の要請を受け、潜水艦の報告によってもたらされた敵機動部隊の撃破を行う事となった。我がロイヤルネイビーは祖国が非常に危険な状態であるが、首相閣下は安心して要請を受けろと言われた。今、その厚意に報いる結果を残すぞ!!」
オーストラリア・クイーンズランドにハービー湾という港湾地域がある。ここにはイギリス海軍の主力が集結しているが、その中には空母の姿もあった。
その空母とは、イラストリアス級空母とインドミダブルだ。
イラストリアス級空母はイギリス海軍が誇る艦隊型空母で、本級は世界初の装甲空母として有名である。
日本にも大鳳と白鳳がいるが、1番艦イラストリアスは1940年5月に就役しており、史実では強靭な装甲であらゆる戦闘の損傷にも耐えぬいている。
この強靭な装甲の代償として搭載機は小型空母と同数程度であり、50機程度だ。
同型艦はイラストリアス、フォーミダブル、ヴィクトリアスの3隻だ。
インドミダブルはイラストリアス級の改造型で、イラストリアス級で問題になった搭載機の少なさを改善するために格納庫の拡張、航空燃料の増加搭載などが施されている。
機関はイラストリアス級と同じもので速力は30.5ノット(55キロ)出せる。
インドミダブルは搭載機51、イラストリアス級は36機だ。
上述の通りおよそ5000トンにもなる装甲を施しているため搭載機が少ない。格納庫は全長140メートル、高さ4.9メートルしかとれず、36機しか搭載できない。
インドミダブルはこれに51メートル分の下段格納庫を追加しており、50機の搭載を可能としている。
艦載機はフェアリーフルマーⅡ戦闘機6機、ソードフィッシュ雷撃機18機、マートレット(アメリカのF4Fワイルドキャット)23機×3隻分。合計141機。
インドミダブルはシーハリケーン(ホーカーハリケーンの艦載機型)戦闘機24機、マートレット12機、アルバコア雷撃機24機。合計60機。
全合計201機だ。欧米では甲板上に艦載機を駐機させ、即時発艦を可能とさせているため若干数多くなるが、これでも日本軍の赤城90機、翔鶴型72機、大鳳は史実よりも増加しており、現段階で84機搭載できる。合計318機だ。
本気でやりあえばイギリス軍が不利なのは目に見えているが、ひとつ不安な事があった。
ソードフィッシュとアルバコアの存在だ。
両機とも複葉機で、特にソードフィッシュは足が遅い。
足が遅いと対空射撃の誤差が生じて撃墜する確率が極端に落ちるのだ。
しかし爆撃機が1機も搭載されていないため大きな心配は要らないと思われるが、油断は大敵だ。エスピリットサントに到着して用事を済まし、日本に帰るまでは安心できない。
彰は、その事をキンケードから聞かされていた。
「我々には強力な護衛艦隊がついている。心配せずに任務を全うせよ!」
イギリス海軍はこの日、オーストラリア海軍と合同でアメリカから要請された日本機動部隊の撃滅のため出撃準備をしていた。
参加兵力は次のとおりだ。
イギリス海軍東インド艦隊
空母
イラストリアス、フォーミダブル、ヴィクトリアス、インドミダブル
戦艦
ネルソン、キングジョージ5世、デュークオブヨーク
巡洋戦艦
レナウン
重巡2、軽巡1、駆逐艦20。
オーストラリア海軍
軽巡2、駆逐艦36
合計69隻だ。
オーストラリア海軍は戦艦を持たず、空母もないため今回はイギリス海軍の護衛として参加する。
このイギリス海軍艦隊が、自身を引き換えに打撃を与える事はこの時点では誰も知らない。
――――――――――――――――
アメリカではキングがマケインと地図を見ながら話し合いをしていた。
「それで、陸軍はどうするつもりなの?」
「はい。まず北アフリカ戦線ですが、トーチ作戦によってモロッコとアルジェリアに上陸後、カサブランカ、オラン、アルジェの3港湾施設を目標としてます。そこから部隊を揚陸させ、ロンメルの部隊をアフリカから追い出します。」
「その後は細かい事はまだですが、ハスキー作戦によってシチリア島に上陸、イタリアを目標とします。」
その説明を聞いてキングは唸る。
「ダメだよそんな事したら……」
キングは地図上のイギリスにバツ印を描く。
「イギリスはドイツ軍によって占領されるべき。私の計画を成し遂げる為には、イギリスへの援助を断ち切る必要がある……。」
現在アメリカはイギリス、フランス、中国、ソ連へのレンドリース法に則り資金や物資援助を行っているのだ。特にイギリスへの援助は厚く、史実では314億ドル相当が援助されている。
それを邪魔と考えるキングの真の目的は一つしかない。
「ドイツ第三帝国を完成させる為にはイギリスを孤立させ、ソ連はドイツによって蹂躙される必要がある。」
キングの最終的な目的はドイツ第三帝国の完成であった。それを聞いてマケインは心から彼女を恐れた。
「そんな、ナチを巨大化させたら世界が滅茶苦茶になってしまいます! 閣下もご存知では無いのですか!?」
第三帝国とは、簡単に言えば第一のライヒ神聖ローマ帝国、第二のライヒドイツ帝国の正統性を受け継ぐ第三のライヒの事を指す。
特に国内の右派はヴァイマル共和政を正統な国家と見なしておらず、右派思想家達はドイツ帝国を継承する新たな「ライヒ」の出現を期待しているのだ。
この世界でそれを実現させようと企んでいるのは何も知らずに史実通りの動きをするドイツと、その先を知るキングなのだ。
「ドイツには良い感じで暴れてもらう。その間に日本を潰して、ドイツを正面から叩き潰せる私達がドイツを潰すの。そうすればアメリカは世界最強の国になれるのよ。」
何を察したのか、マケインは笑みを作る。彼女を崇拝するかのように。
「素晴らしいです! そこまでのお考えがあったなんて、私にはちっともわかりませんでした……。」
「理解してくれたなら良いのよ。これは私と貴女だけの秘密の計画よ。」
「はい!」
キングはマケインの返事に満足し、地図を眺める。だが本当の狙いは違かった。
「マケイン、ちょっと集中したいから一人にしてくれる?」
「はい!」
マケインが部屋を出て行くと、キングは地図の至る所に丸を付け始める。
「北アフリカはそろそろ持ちそうにないな……」
現在ロンメル率いる北アフリカ軍団とモントゴメリーのイギリス軍が主力となって北アフリカでの戦闘が続けられている。
だが第三帝国の完成を目論むキングにとってはモントゴメリーは最大の障害であり、なんとしてもイギリスを孤立させる必要性があった。
「あの男も私が継ぐことを望んでいる……暫くは好きにさせるけど、いつかは……!」
遊び相手と認識している兄の存在を消す事に今は集中する必要がある。冷静さを取り戻すと、キングは地図の日本列島にバツ印を描くと部屋から出て行った。
Fin
お久しぶりです、松ちゃんです!
長らくお待たせしました、最新話です!彰がつかめなかった英艦隊の動向とキングの思惑が明らかにされた回です。いかがでしたか?
ここ最近忙しかった就職試験にむけての活動がやっと落ち着きました!試験も無事に終わり、後は結果を待つだけです!
試験があったとはいえ長くおまたせしてしまったので、今度からばりばり書いていきます!
ではまた次回!




