6章〜隠された思惑編〜80話 出港準備
3月31日。
明日のエスピリットサント出航に向け連合艦隊は大忙しだった。
彰はアメリカに反キング体制がいることを察すると、すぐさま自陣に吸収しようと考えた。しかしそれは容易なことではない。
しかし説得には応じてくれるだろうと考えていた。少なくとも彼女らにとっても自分たち日本軍にとってもソロモン諸島とは軍事的価値を失い、ただただ資源を消費するだけの存在だ。
その為連合艦隊の艦船を派遣して彼女らを脱出させ、同時にソロモン諸島戦線を放棄して戦力がある内にフィリピン方面等の戦力強化を行おうと考えたのだ。
このタイミングに合わせて連合艦隊は4月1日をもって新編。一部の部隊と多数の輸送船でエスピリットサントへと向かうわけだ。水雷戦隊などの護衛部隊は特に変わらないが、艦隊としての構成は根本的に変わる。
これまで主力だった第1艦隊を解体。戦艦などの火力打撃部隊を第2艦隊として編成。空母などの航空戦力は第3艦隊として編成する。
第2艦隊には軽空母など航空戦力を配置し、第3艦隊には主力空母を配置している。
まだ彰の提案による対空火器増設が終了していない戦艦群はまだ航空機が必要であり、独立した対空戦闘はまだ難しい状況だ。
更に、各方面艦隊を減少させ、1つの艦隊に戦力を集中させるようにした。
開戦当時、南方方面の作戦を担当していたのは第2、3、4艦隊で、第2艦隊は重巡を主力とした艦隊で南方作戦の全面支援。第3艦隊はフィリピン攻略部隊。第4艦隊は南洋諸島攻略部隊と相当分散している。
彰はこれを廃止して新たに改編した第8艦隊に全ての指揮を一任した。
北方は第5艦隊、潜水艦専門の第6艦隊と、連合艦隊は船舶が関わる艦隊だけで5艦隊体制となった。
これに、陸上基地航空部隊だけで構成された艦隊も加わることになっている。
エスピリットサントの共同使用が叶えば編成されるが、今はどうか分からない状態だ。
この部隊の指揮官は塚原二四三中将。本人は第11航空艦隊の名を引き継ぎたいと希望しているため、彰はそうする事にした。
第11航空艦隊はそのまま南方方面の航空戦力をまとめる。数だけを見れば30個航空戦隊、航空機は600機以上はある。まだまだ増加を続けているため、もっと膨れ上がるだろう。
今回のエスピリットサント訪問に参加するのは一部の主力部隊だ。
第2艦隊 司令官 高須四郎中将
第2戦隊
航空戦艦 扶桑、山城
第4戦隊
重巡 高雄、愛宕
第8戦隊
重巡 利根、筑摩
第2水雷戦隊
軽巡神通、駆逐艦20
第3艦隊 司令官 南雲忠一中将
第1航空戦隊
空母 大鳳、赤城
第5航空戦隊
空母 翔鶴、瑞鶴
第3戦隊
戦艦 金剛、比叡、榛名、霧島
第7戦隊
重巡 最上、三隈、鈴谷、熊野
第3水雷戦隊
軽巡矢矧、駆逐艦16
第4艦隊
輸送船30隻
合計87隻だ。
扶桑と山城はカタパルトの動作テストも込めて出撃することになった。
これまで日本海軍が使用していたカタパルトは火薬式で、一瞬で物体を100キロまで加速させることが出来るが、そのかわり機体やカタパルト本体にも強い負荷がかかる。
時にはパイロットが失神してそのまま墜落する事故もあった。
今回彰が製造及び搭載させたのは蒸気カタパルトだ。
火薬式と違ってゆっくりとスピードを上げて射出する形式で、負荷もかからずに安全に射出できる。
しかも戦艦の膨大な蒸気を使用するので蒸気には困ることが無い。
欠点としては出力不足の不安や、構造上少々複雑になってしまうことだ。構造が複雑な蒸気カタパルトは本体にも負荷をかけ、使用寿命を短くしてしまう。
しかし、ジェットエンジンを搭載したF-18のような機体を射出するわけではないのでそんなに問題にはならないだろう。
もしこれが上手く作動して問題なければ富士型空母(元は航空戦艦だったのを技術上の問題から純粋な空母へと変更した)は本格的にニミッツ級空母へと似るだろう。
蒸気カタパルトは艦首と横へ斜めに出っ張った発艦艦首に合計4基搭載する。そのためエンクローズドバウという艦首形状が採用された。
エンクローズドバウは史実の日本海軍では大鳳が採用した艦首と飛行甲板が一体化した形状で、防御力や船体の強度増加になる。
彰は扶桑に座乗する。あくまで彰は外交担当という事なので、実際の総指揮官は高須だ。
キンケードらの旧式戦艦に速度を合わせるため、通常航行は16ノットで合わせることにした。ほとんどの艦船の巡航速度は16ノットで、一番燃費がよく航続距離が長い速度だ。
彰は準備関係を高須に任せ、自身はキンケードのもとを訪れた。
「お久しぶりです。キンケードさん。」
「わざわざありがとう。アキラ。」
キンケードは明日の出航にそなえ戦艦アイダホの艦橋で指示をしていた。
そこに彰が来たという報告を受け、甲板まで降りてきたのだ。
「修理は完全に終わったようですね。」
「あぁ。相変わらず几帳面な性格なのか、日本人は他に悪いところはないかと訪ねてきたそうだよ。」
なんと、日本人の徹底ぶりはここでも発揮されてたか。
時代は変わっても日本人なんだな……
「……未来の日本でもそんなものです。中途半端は嫌うので。」
「君を見ているとそう思えるよ。どの時代も人は変わらないのだね。」
キンケードのこの時の眼差しはとても優しかった。母性愛に満ちたような視線は今戦っている敵の将校とは感じさせないほどだ。
「もしニミッツが君達と一緒に戦うことを決めたのなら、私達は一緒に海に出れるのだね。」
「私はマンハッタン計画を許さないだけです。私が未来から来たからには、妹の暴走を止めたいだけですよ。」
「妹……?」
キンケードには話していない、キングの正体を彰は話した。
彼女は話を聞き終えると、彰をそっと抱きしめる。
「兄妹で戦う事は何より辛いでしょうけど、頑張って妹さんを助けてあげてください。私には、祈ることしか出来ませんが……」
「ありがとうございます。明日の出航は、お互いの意思が共鳴する事を祈りながらエスピリットサントへと向かいましょう。」
彰はキンケードの手を握ると、アイダホをあとにした。
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「邪魔だよね……」
キングが世界地図を見ながら唸る。
現在世界大戦は太平洋戦線と北アフリカ戦線に別れており、アメリカはイギリスとの協定の関係でそちらにも戦力を割かなければならない。
キングはそれを不満としていた。日本を滅ぼす事をずっと考えていた彼女にとってイギリスとの協定は最大の障害なのだ。
「閣下。イギリスには東洋艦隊がいます。インドに集結させているのは新鋭部隊で、ドイツ軍に奇襲をかけるためだとか。」
そう言ったのはジョン・マケイン。第3艦隊第38任務部隊第1空母打撃群の指揮官だ。
「空母はいるのか?」
「はい。新型の空母が3隻程配備されているらしいです。ですが艦載機が欧州戦線の関係で手配が間に合ってないようです。」
キングはにたりと笑うとインドの基地がある地点を指指す。
「イギリス軍に出動要請を出そう。日本軍はエスピリットサントに出動する事が予測されるから、それの妨害を理由にしろ。」
キングはここでイギリス軍の兵力を減らそうと企んでいた。理由は単純、彼女の計画上イギリス軍の海上兵力は邪魔だからだ。
企みの全貌は物語の後半に行かねばわからないが、少なくとも現時点では彼女の企みを知る者は誰もいないだろう。
1人を除いて。
「では要請します。」
彼女の企みを知っているのはマケインただ1人。だがそんな彼女でさえも一部しか教えてもらっていないのだ。
「お兄ちゃん、ちょっと悔しいけど少しは役立ってもらわないとね。」
自身の企みの為に、彼女はイギリス軍を出動させた。
一体どのような意図があるのだろうか……。
Fin
お久し振りでございます、松ちゃんです!
久し振りに書きました。自分就活生なもので就活やらで忙しかったので時間があまり取れませんでした。すいません。
さて次回はキングの本当の企みが明らかになります。イギリス軍を出動させた目的は? 何故イギリスが邪魔なのか? その疑問も全てわかることでしょう。
ぜひ楽しみにしていて下さい!




