5章77話 裏と日常
足音が聞こえる。
ハルコフ軍曹はサブマシンガンを構えドアに向けて構える。奴らSSの残虐性は目を見張るものだ。
容赦無く人を殺し、正気の沙汰ではない。次々に村を焼き払い、祖国へと踏み込んでくる。
『この辺に赤軍の残党がいるはずだ! 探しだせ!』
もはや聞き慣れても意味がわからないドイツ語が聞こえてくる。足音も一層大きくなり、ハルコフの額を流れていく汗さえ気にならなくなった。
足を撃たれてから3時間近く味方の救助を待ったが、一向に来る気配がない。
見捨てられたのか?
そんな思いが彼を支配していく。足音はドアの前までに近付いた。
「うぉああああああああああ!!!」
引き金を目いっぱいに引く。弾丸がドアを穴だらけにし外からは耳を澄まさないと聞こえないほどの悲鳴が響く。
マガジンが空になる。ハルコフはマガジンを外し新しいのに付替えた。マガジンは後2つ。頼れる存在だが無くなることを考えると無駄撃ちは避けたいところだ。
すると、地面を巨大な金属を引きずりながら走行するような音が聞こえてきた。間違いなく戦車だろう。
「くそ、SSの奴ら戦車を持ってきたか……」
ハルコフは悪態をつく。さっき撃ったから位置はバレているだろう。
「移動するか……」
撃たれた足を引きずりながら何とかその場から移動を始める。殴られるような痛みが傷周辺に走るが、そんなのを気にしていたら殺られるのはこっちだ。
「くそっ!」
痛みに耐え立ち上がる。よろけそうになったが立ち直った。
裏口から外に出た。外はポツポツ程度の雨が降っておりそこまで気になる程ではない。だがハルコフは視界が悪くなるほど降って欲しいとこの時ばかりは心から思った。
3軒離れた家屋に入る。まだ住民が離れてからそこまで日が経っていない為、テーブルには冷めきった食事が並べられている。
ハルコフは悪いと思いながらも2日ぶりに胃にそれらを押し込んだ。パンをひとちぎり口に含みサラダを食べ、それらをスープで流し込んだ。
初めて生きてて良かったと思ったな……
食事は国境、人種を超えて人に幸福をもたらす。戦いに明け暮れ、2日間何も食べていないハルコフにとっては有り難いものだった。
戦車の音が近づいてきた。
ハルコフは2階に移動したが、ハルコフの表情は曇り、
「дерьмо……(くそ……)」
と呟いた。
直後、ハルコフが上がった壁のない開けた2階の部屋に砲弾が命中。2階を残骸にしたと同時にハルコフの意識も吹き飛ばした。
3月20日。ソ連、スターリングラードでの出来事である。
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「はやく歩けよ!」
「ちょっとは人の事を考えたらどう!?」
「まぁまぁ、2人共……」
ところ変わって日本。
商店街を騒がしく歩く3人がいる。
原、角田、近藤だ。丁度時間はお昼どきで、どうやら食材の買い出しに来ているようだ。
「信ちゃんも酷いと思わない!? 治ってば私の事を考えずにずかずか歩くのよ!?」
「じゃんけん負けた原ちゃんが悪いんだろ?」
「ぐぬぬ……!」
近藤のフルネームは近藤信竹。故に、2人からは信ちゃんと呼ばれている。角田は角田覚治、最期の治をとっておさむと呼ばれている。
「原ちゃんが負けたんだから仕方ないのでは?」
「信!? 裏切ったわね!?」
はたから見たら騒がしい3人組だが、彼女らはこの商店街では人気があり、よく店の手伝いをすると評判だ。
「それにしてもよく白菜が手に入ったわね。」
原が片手に持っている少し大きめの白菜を見て言う。
「そうだよな。裏で取引されているのも米内さんは許してるし、その分の物価上昇は避けられないけどそうする事で国民の食料状況が改善されるんだから良いんじゃないか?」
角田は大根や人参など、鍋の材料となる食材を持っている。どうやら今夜は鍋にするようだ。
「まぁ、肉が食べたいとこだけどね。」
「ははは。牛や豚は日中戦争の時に関東軍がほとんど持って行っちゃったからね。」
角田の気持ちは良くわかる。この時期肉はほとんどなく、タンパク質不足で病気になる人が出始めているのだ。
「大本営とかで食べられるだけ良いよね。」
近藤は笑いながら答える。
「未来では不自由なく食べられるんだろうなぁ。」
「彰が言うにはハンバーグやらステーキやらふぁみれすという店で気軽に食べられるらしいよ。」
「そうなの!?」
原と角田が声を揃えて叫ぶ。
「うん。今と未来の価値は違うけど、未来では1000円程度で食べられるって。」
「それってどれくらい?」
「小学生のお小遣いでも食べられるって。」
「裕福な家庭が多いのね……」
「僕も未来に生まれたかったなぁ……」
原と角田は頭を垂れる。
「日本は良くなるよ。彼の世界では大きな過ちを起こした我々の後を子孫達はしっかり建てなおしてくれたんだから。」
近藤の言う事に原と角田は驚いている。
「あんた、なんか変わったわね。」
「前までそんなこと言わなかったのに。」
「えぇ!?」
2人の追求に思わず叫んでしまう。
「わ、私だって黄昏れたりするよ!」
「多分違う……」
「僕もそう思うな。」
「うぅ……」
流石に涙目になってきたので2人はやめることにした。任務などでは猛将になる近藤だが、こういう事にはめっぽう弱いようだ。
「お腹空いたよ。早く帰ろうぜ。」
角田は2人の前に出て言う。
「そうだね。帰ろうか。」
「あんた達ゆっくり歩きなさいよ……」
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アメリカ、ホワイトハウス。
「キング君。マンハッタン計画はどうかね?」
ルーズベルトに問いただされたキングは説明する。
「すでに計画は実験段階に入っております。かき集めたウランを圧縮し、固形化。それを専用の容器に移します。これが上手くいけばあとは勝手に分裂反応を起こさないようにすればもはや完成同然です。早くて来年には実用段階には入れるでしょう。」
「素晴らしい! もう完成するのか!?」
ヘンリー・スティムソン陸軍長官が叫ぶように喜ぶ。
「しかし、危険は残ります。まだ核研究については我が国は未熟です。その不安点を考慮したらまだ完成形態には入れません。」
「彼女の言うとおりだ。右も左もわからない状態から我々は開発を始めたんだ。慎重に計画を進めるべきだろう。」
ルーズベルトはヘンリーを落ち着かせる。
「私はやはり反対です。日本との戦争は継続しますが、未知の兵器を使用するのは世界の崩壊をまねきます。」
唯一、マンハッタン計画に反対する人物がいる。海軍長官のウィリアム・ノックスだ。
「なら問おう。君は我が合衆国同胞に死んで来いと言うのかね?」
ルーズベルトの威圧的質問には答えられなかった。やがてウィリアムは部屋の空気に耐えられなくなったのか部屋を出て行った。
「全くあいつは。そろそろ海軍長官の座を交代させては?」
ヘンリーの提案にルーズベルトは頭をふらなかった。
「彼はあれでも自分の仕事をきっちりこなしている。交代にはまだ惜しい人材だ。」
「閣下がそう仰られるのなら。」
ヘンリーは大人しく引き下がった。
「閣下。」
「どうしたのかね? キング君。」
「時期主力空母のエセックス級ですが、1番艦のエセックスはパナマ運河の濁流により解体が困難、撤去と修復には少なくとも1年はかかるそうです。」
「1年か……」
1年というのはひどく痛い期間だ。自国の戦力の充実が遅れるどころか、あの貧弱な日本でも空母は5隻は作れるだろう。
この時のルーズベルトは日本の国力を舐めきっていた。彰の存在を認めず、ただの撹乱情報と信じきっている。
日本は現代の造船技術をもたらし、今では当たり前となっているブロック工法を行っている。別々の場所で一部分を製造し、それを1箇所に集めて一気に繋ぎ合わせて船を作る方法だ。
しかしアメリカは従来と同じやり方で、船底から上へと積み上げるように建造する。これでは時間がかかってしまう。
最近では建造速度を早める為にブロック工法を採用し建造させているが、間に合うかどうかだ。
日本は八八艦隊の実現が可能になり、空母戦力も充実している。大鳳の2番艦白鳳が今年の6月に進水できるのもブロック工法のおかげだ。
1943年の内に主力空母は10隻となる。どれも搭載機70機以上(飛龍だけ60機)搭載できるが、アメリカのエセックス級は100機。日本の空母3隻でエセックス級2隻と同程度なので、油断はできない。
「悪いニュースはそれだけか?」
「いえ、東海岸からどうやって西海岸まで持っていくかという事ですが……」
「それは南アメリカ南端を通るしかないだろう。1週間近くかかるらしいが、仕方がない。」
キングもルーズベルトも、頭を悩ませるしかなかった。
ウィリアムは悩んでいる。
やはり原子爆弾は使用するべきではないと。
しかし阻止するにも自分の立場上迂闊な行動はできない。それはわかりきっていることだ。でもどうすれば良いのかわからない。
やはり、ウィリアムは悩んでいた。
Fin
どうも、松ちゃんです!
今日は終業式でしたので午後執筆をして完成させました!
第二部への伏線(?)という事でソ連情勢を遠巻きに書いてみました!ソ連が追い詰められている事をお分かり頂けたらと思います!
次回は志向を変えてちょっとした日常を書いてみます。戦記なので戦いばかりですが、こういうのも良いかなと思い書こうと思いました。是非お楽しみに!
ではまた次回!




