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俺と彼女らの戦闘記  作者: 松ちゃん
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5章72話 クーデター

 キスカ島到着から20分。

 既に3分の2の兵員を収容し終え、出航準備にとりかかっている。幸い、米戦艦に攻撃の意思は無く沖合で静かに浮かんでいるだけである。


「栗田丸は?」

「収容は終了しています。同じく収容の終わっている夕雲と秋雲に護衛させ先に退避させます。」

「わかった。引き続き作業を急がせろ。」

「は。」


 木村は違和感を感じ続けていた。格好の獲物が自ら懐に入ってきたという立場の米軍が何故攻撃をしなかったのか。引っかかるところだ。


「内部で何かあったのだろうか。」


 木村の推測は、この後現実になろうとしていた。


    ――――――――――――――――


 キンケードはアイダホ艦橋でニミッツからの命令電文を受け取った。


「救助に来た艦隊は素通りさせろ。攻撃は決して行うな。か……」


 キンケードは自分のした事に安心を覚えた。助けに来た人間を安易に殺傷するなどおかしい事だからだ。キングの作戦に反した事になるが、そんなもの今は関係無かった。


「提督の言う事は本当だったのか。」


 キンケードはニミッツからキングに気をつけろと言われていたが、確かにニミッツの言うとおりだった。まるで、人を無意味に殺戮する事を楽しんでいるかのようだった。

 キンケードは付近の戦艦に絶対に攻撃をしないように厳命し、このまま見過ごそうと考えていたが、歴史が動く一文がコロラドから届いた。


『我れ海軍長官の指示を順守する。貴官の命令には従えず。』


 これを見たキンケードは焦りを感じる。


「無駄な殺生を行う必要性は無い! すぐに止めるように伝えろ!!」


 ここにきてキングの圧力がかかるとは思わなかった。何がなんでもこの救助艦隊をキングは皆殺しにするようだ


『コロラド、ペンシルベニア、ニューメキシコ、ネバダは貴官の指揮下を離れる。我らは本来の任務を遂行せんとす。』


 これを最後にぱったり連絡が途絶えた。

 キンケードはニミッツの助言を実行しておいて正解だったと少しだけだが安心している。

 ニミッツに、キングよりの人間は現場から遠ざけておけと助言をもらった。先程述べられた艦名の艦長はみなキングよりの人間で、原爆を使用しての戦争終結を支持している。


 その為、上陸部隊のいる攻略部隊をキスカ島の北側に配置し、先程の4隻をその護衛に。自分たちは太平洋側を警戒隊として配置することにして日本軍の侵入をしやすくしている。

 距離が生まれたため脱出にはなんとか間に合うだろう。間に合わなかったとしても、我々が援護するしかない。


「ニミッツ艦隊として、日本海軍を特例として人道的心理に則り脱出を援護する! クーデターを始めるぞ!!」


 キンケードにもう迷いはなかった。ニミッツは祖国のやり方は間違っていると信じている。人としての考え方を否定する人間はただの殺生を好む殺人鬼だ。そんなもの戦争じゃない。

 そもそも戦争とはどちらも信じる正義があるから起こる事だ。日本はアジア解放のため、アメリカは日本の行動を阻止するため。

 今は違う。阻止するためとは言え人命救助を行おうとする人間を殺すのは戦いじゃない。世界の中心として戦っているアメリカがもっともやってはいけない殺戮だ。


「全艦最大戦速! 日本艦隊を守れ!」


 キンケードは自分の正義を守るために、かつての味方と対峙することにした。


    ――――――――――――――――


 米戦艦が動き出した事に焦りを感じ始めた木村は駆逐艦に戦闘準備を取らせた。


「何故このタイミングで動き出すんだ!? 何が目的なんだ!!」


 木村は心底焦りを感じる。先程まで音沙汰無かった戦艦が動き出し、主砲を旋回させ戦闘態勢に移っているのが濃霧ながらもなんとか確認できる。


「この状態で攻撃されたら全滅するぞ……!」

「長官……!!」


 阿武隈の艦橋は沈黙に包まれた。

 突然、1隻が砲撃をする。

 ズドォン! という雷のような重苦しい音をはいたアイダホは静かに沖へと舵を取る。


 すると、アイダホの周辺に大量の水柱が立った。後続の戦艦群も砲撃を始め、撃っては撃ち返されを繰り返している。


「どういうことなんだ!?」

「米軍が味方同士で撃ちあっている……」

「同士討ちでは!?」


 当然の事ながら艦橋はパニックになった。味方同士で撃ち合うとしたら片方が敵と誤認したからとしか考えられない。


「同士討ちしている今が好機だ! 撤収するぞ!!」


 既に収容は終了した。後は全速で脱出するのみだ。すると、2隻が阿武隈と木曽、駆逐艦島風の横に並ぶように舵を取ってきた。


「衝突するぞ!?」

「ショック体制!」


 木村はとっさに命令したが、数分たっても衝突してこない。むしろ、砲撃を続けるだけでまるで無視しているかのようだった。


「一体どうなっているんだ!?」


 木村は人生最大の謎を目の前にしていた。



 阿武隈らの横に並んだのはミシシッピとオクラホマだ。アイダホとメリーランドは自由航行にて砲撃戦を展開している。

 レーダーを装備している為レーダー射撃により濃霧でも戦うことができ、被弾数は増えていった。

 

 既にメリーランドでは甲板上構造物が粉々に粉砕され、死傷者は200人にのぼった。後部艦橋は直撃弾を受け崩れ落ち、前部艦橋に1発が命中。職員含む十数名に重傷を与えた。

 アイダホも被弾しており、2番主砲が直撃を受けた影響で電気回路が断線、旋回が不可能となった。ただでさえ旧式のため、故障が相次ぐ。

 それは敵も同じだった。コロラドが砲撃の衝撃で3番主砲が撃てなくなり、レーダーも故障した。ネバダは機関室のパイプが破損し高温の蒸気が充満。危険のため閉鎖されたため速力が16ノットしか出なくなってしまった。


 「このまま日本艦隊と共にホッカイドウまで退避するぞ! ギリギリまで護衛するんだ!」


 キンケードは命令を出す。

 アイダホも後部に被弾し、スクリューを1本持って行かれてる。そのため全速が出せず、14ノット程度しか出せない。

 メリーランドも被弾による火災がひどく、格好の的となっている。そろそろ退避させないと危ない。


「くそ、何としても皆殺しにするつもりか!?」


 キンケードは悪態をついた。ここまで外道とは思ってもいなかった。

 それだけでない。レーダー観測によると距離は12マイル(およそ20キロ)もない。非常に近距離での砲撃戦のため被害も大きくなっている。それは自分達だけではなく、相手も同じことだろう。


 事実、この時コロラドが艦橋に命中弾を受け艦長が戦死、指揮系統が壊滅したため離脱している。ネバダも命中による浸水がひどく、左に23度傾斜している。これ以上は危険と判断して大きく面舵で退避中だ。

 ペンシルベニアとニューメキシコは健在だが被弾が多く、退避するべきか悩んでいる。

 キンケードはアイダホもそろそろ危ないだろうと感じている。右に15度傾き、不安定となっているのだ。


「砲戦終了。日本軍と共に日本を目指す。なるべく置いてかれないように頑張れ。」


 キンケードは苦笑しながらも付いて行くことにした。今は、日本に助けを乞うしか手段がないのだ。


    ――――――――――――――――


 まるで自分達を守るような戦いを行った米軍の戦艦を隣にしながら木村はこの事を日本へ報告した。

 少なくとも、損傷箇所を最低限の修理を施すくらいの恩返しは個人的に考えていた。しかし、相手は敵の戦艦。やすやすと本国へ連れて行くのは非常にまずい。


「やはり、アメリカ軍は内部分裂が起こったのだな……」


 木村は当初の予想が当たった事に驚いていた。あのアメリカが故意に同士討ちするとはまずありえないし、万国共通の事だ。


「あの戦艦に合わせよう。ノロノロと遅いが、仕方あるまい。」


 木村は苦笑いを浮かべ、隣を進むミシシッピを見上げながら作戦が成功した事に安堵のため息をついた。


Fin

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