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俺と彼女らの戦闘記  作者: 松ちゃん
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5章71話 キンケードの決断

「そうか、始めたか……」


 マッカーサーはニューカレドニアで部下からの報告を受けた。

 キングが立案した「コテージ作戦」は史実とはだいぶ違う内容となって実施された。


 史実のコテージ作戦はキスカ島上陸作戦の事で、キングの立案した作戦はこれを一部の作戦としていた。

 まず、ギルバート諸島とアリューシャン列島の同時進行により太平洋に壁を作る。そうする事で自由に部隊を配置できる為相手の牽制となる。

 相手が動かない限り兵力の充実化もできるので、効率的と言えば効率的だ。


 しかしこの作戦には穴がひとつある。

 この作戦は米軍と日本軍のパワーバランスが平均的なものならばこの作戦は大いに効果が望めるものだが、日本軍は空母を少なくとも10隻は有しているだろう。

 それを考えると基地を広げるような行動は避けるべきなのだ。日本軍はあまり余る空母戦力を存分に使いまわせるのだから、最悪ギルバート、アリューシャン両方を攻撃されるかもしれないのだ。


 特に空母のいないアリューシャンは最悪だろう。濃霧が立ち込める地域だが濃霧は永遠ではない。夏になれば普通に航空機が飛べるほど晴れるのだから、そんな時に攻撃されたら全滅の危険性もある。

 キングは何を考えているのかはわからないが、少なくともフォレージャー作戦の早期実行を考えているのだろう。


 フォレージャー作戦とはマリアナ諸島攻略作戦の事で、現在開発中の長距離戦略爆撃機B-29を運用する為の基地としてサイパン島を利用するため行われる作戦のことだ。

 B-29による爆撃で主要都市や軍事基地を攻撃すれば日本の生産力は低下し、戦争の早期終結を狙っている。


 それでも戦争が継続されるようならば……マンハッタン計画は実行されるだろう。


 それだけは、避けねばならない。


    ―――――――――――――――


 マッカーサーは信頼できる部下を呼びつけた。

 彼女はボナー・フェラーズ准将。マッカーサーの軍事秘書官であり、心理戦責任者でもある。

 彼女はマッカーサーのクーデター計画を発案させるにいたった人物で、マッカーサー以上にマンハッタン計画に危機感を抱いている。


「ボナー、君にニミッツの元まで行ってもらいたい。」

「私にですか?」


 ボナーはきょとんとする。


「私は指揮下の6個師団を我がクーデター軍の主力部隊としてギルバート諸島へ派遣すると。」

「ギルバート……ですか?」


 マッカーサーはクーデター主力部隊をギルバートへと派遣することによってニミッツのクーデターに加わる艦隊の泊地として使用しようと考えていたのだ。

 いくら船とはいえ補給や整備は必要だ。洋上に浮かんでいるだけが船ではないのだ。大艦隊が動くには泊地が必ず必要になる。


「キングが何か言うのでは?」

「その時はニミッツが何とかするだろう。」


 マッカーサーはニヤリと微笑んでみせた。

 マッカーサーの中ではクーデターはフォレージャー作戦と同時期に行う予定だ。おそらく予定は遅くなるだろうが、フォレージャー作戦で出撃する艦隊をニミッツの艦隊によって阻止。そのまま指揮下に置くことになっている。

 恐らく味方同士での殺し合いに兵士達は驚きを隠せないだろうが、出撃前に必ず説明は行う。


 それでも、クーデターというものに彼らがついてきてくれるかが問題だった。クーデターは国の行いに背くようなこと。まだ若い彼らがついてきてくれるかどうか……。

 まだまだ問題は山積みだった。


    ―――――――――――――――


 単冠湾を出撃した特別編成の第4水雷戦隊は各艦26ノットで北上している。

 幸いにも濃霧は依然として晴れず、作戦遂行には絶好の天気である。キスカ島まではあと8時間もしたら到着するだろう。


 しかし支障もある。濃霧は文字通り霧が濃いため、視界は良くて500メートル。基本は300メートルが限界だと言う。

 日本軍は今はレーダー開発に積極的だが、彰が来る前は目視による索敵に力を入れていたためどうしてもレーダー開発を怠りがちになっていた。

 レーダー開発は進んでいるもののまだ主力艦にしか搭載されず、最新の逆探が装備された島風の参加は将兵を大変喜ばせた。

 

 木村少将は速度を18ノットに落とし、濃霧の中を這うように進み始めた。速度を出しすぎれば衝突の危険性も出る。

 

「北方のはずなのに、なんて暑さだ……」


 それは木村自身の緊張などストレスから来る体温上昇だった。アリューシャン列島は現在10度を下回っている。艦橋は暖房が無いので寒くなっているはずだが、木村は暑く感じているのだ。

 やがて波が変わる。沖合の波は荒れているが、島に近づくと波というのは穏やかになってくる。場所によっては荒れるが、アリューシャン列島はそうでもなかった。


「減速せよ。救助用ボート用意。」

 

 木村が指示を出した直後だった。


「長官! 島の前に艦影! 2隻います!!」

「なんだって!?」


 レーダーにも逆探にも反応はなかった。という事は。島を影にして息を潜め、レーダー波すら打たなかったことになる。

 木村の完全な誤算だった。


「魚雷戦用意! 命令あるまで待機!!」


 木村は焦った。ここで戦闘になればキスカ島の将兵が救助できなくなる。なんとしても戦闘になったら勝たねばならない。




 キンケードは接近してくる艦影を確認した。


「本当に日本軍が来た……」


 軽巡と駆逐艦によって構成されているが恐らく後方には輸送船か……主力部隊がいるだろう。戦闘は避けられないかもしれない。

 もしここで日本軍を攻撃すれば私は戦争が終わっても批判を浴びるだろう。それ以前に、救助に来た艦隊を攻撃するのは人として許されるのだろうか?

 そう考えると答えは早く出た。


「後進6ノット。右舷のミシシッピにも後進して進みやすいようにするよう伝えろ。」


 キンケードの指示の後、アイダホはゆっくりと後ろへと下がり始めた。同時に、艦首を起きに向けるように舵を取り、彼らを出迎えるように移動を始めた。




 木村少将は米戦艦の行動が読めなかった。

 砲撃するかと思いきやゆっくりと後ろへと下がり始め、艦首をこちらに向けてるように移動している。まるで道を開けるように。


「長官……」


 部下は戸惑っている。敵に歓迎されるなど、今までなかったのだから。


「任務を遂行しよう。このままキスカ島へ突入する。」


 救助艦隊はミシシッピとアイダホの間をすり抜けるように通った。

 アイダホの艦橋ではキンケードが敬礼をして彼らを見送った。


 木村はこの時、アメリカ軍が大きく変わっている予感がした。


Fin

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