5章69話 伏兵
忠一が帰ってきた。
話を聞くと、彰も驚くような内容だった。ギルバート諸島が奇襲を受けたらしい。
ギルバート諸島は中部太平洋にあり、マーシャル諸島の南に位置する。
16の珊瑚島や環礁で成り立っており、マキン島とタラワ島に日本軍は駐留している。中部太平洋の監視塔のような役割だ。
話によるとそのギルバート諸島をレキシントン型空母……恐らくサラトガだろう。残っているのはそれしかない。それと旧式戦艦らしい。
この時サラトガを護衛してたのは戦艦テネシー、ウェストバージニア、カリフォルニアの3隻だ。
どれも真珠湾攻撃で大損害を被り、サンディエゴで修理と大改装を受けていた。史実ではまだ先のはずだが、早速国力の差を見せつけられた。
1920年頃に就役した船ばかりなので速力や防御力は今の戦艦と比べて劣っているが、大改装で大量に追加された対空機銃の威力は無視できない。
サラトガはマキン、タラワ両島に徹底的に空襲を行い、マキンは海兵隊500名によって全滅。タラワは5000名に対し、海兵隊の残存兵力1万2000名の攻撃にあった。勿論全滅だ。
こんな早い時期にギルバート諸島まで侵攻するとは想定外だった。彰でさえも、最低エセックス級を1~2隻が太平洋に来てから反撃すると考えていたからだ。
「敵の動きが読めない。何故劣勢なのにこの時期にギルバート諸島を占領するのだろうか……」
彰は困惑した。太平洋にいる空母はサラトガ。対して日本海軍はその気になれば正規空母6隻を動員できる。圧倒的不利なのだ。
彰は更に頭を働かせる。今は1943年3月。この時期に、何があった……!?
南……南?
彰ははっとなる。そして、地図の上……北を見た。
「アリューシャン……アッツとキスカが狙いか!?」
彰の読みに、忠一が不思議がった。
――――――――――――――――
ハワイの太平洋艦隊司令部ではニミッツと突然訪れたキングとの間で話し合いが行われていた。
「サラトガを含む誘導部隊をギルバート諸島に出して敵の主力をおびき出し、その隙にアリューシャン列島を奪回して基地を作るんですね?」
ニミッツの確認にキングは頷いた。
「アリューシャンさえ取れば北と中央、そして南と3ヶ所に門ができる。どれでも好きな場所に艦隊を置ける我々には敵を錯乱させる効果があると踏んだ。」
キングは長い黒髪を整える。ニミッツは作戦内容をまとめた書類から目を離さなかった。
確かに、心理的戦術の観点で言えば大きな効果が見込めるだろう。
しかしサラトガだけでは効果は薄いと言える。相手には未来を知るという人間がいるのだから、こちらの戦力事情も細かく把握しているに違いない。
つまり、キングの考える戦術はどこか物足りなさというか、そこらの子供でもできそうな事を言っているのだ。
「アリューシャンには第6、第8歩兵師団を派遣した。総勢3万2000名、これなら奪回は確実だろう。」
「しかし、いくら防備が薄いとはいえ、潜水艦などは脅威です。マサチューセッツとアラバマ、それに旧式のミシシッピペンシルベニアがついているとはいえ、空母が無いのは……」
ニミッツはやはり数少ない戦艦を航空機の傘も無しに敵陣へ向かわせるのは危険だと心配しているのだ。
戦艦は敵の航空機を吸収するのに重点を置いている。そのため対空機銃をハリネズミのように搭載はしているが、それだけでは3万2000名を運ぶ輸送船団は守りきれないのだ。
「せめて護衛空母でもつけるべきでは……」
「平気だよ。私はちゃんと考えてやっているからね。」
キングは立ち上がる。
「コーヒーご馳走様。やっぱりチーちゃんの入れるコーヒーは美味しいね。」
「恐縮です。」
キングはニミッツに微笑むと部屋を後にした。
「ダンカン……無事だろうか。」
ニミッツは日本軍に捕らわれたダンカンを心配し、同時にキングの無能すぎる計画に対し怒りを覚えた。
―――――――――――――――
翌日、やはりアリューシャン列島のアッツ島から緊急信号が届いた。米軍は2個師団規模の兵力で上陸してきたらしい。
これでキング……友梨佳のやろうとしている事がわかった。北、中央、南に基地という脅威を作り、迂闊に動けないようにしているのだ。
相手の空母はサラトガだけだが、好きな場所にいられるし何より戦艦の存在も脅威だ。
敵はサウスダコタ級戦艦のうちマサチューセッツとアラバマを残している。長門に準ずる戦力のため、無視はできない。
「救助艦隊を編成するべきか……」
彰はキスカとアッツの陸軍兵を救出する為に軽巡と駆逐艦を主体とした救助艦隊を編成することにした。後に、太平洋の奇跡と呼ばれる出来事の先駆けとなった。
Fin




