4章64話 攻撃前日
霧が晴れた。
アリューシャン独特の気候が落ち着きを見せ、艦隊のスピードを潮の流れで上げたのだ。おかげで艦隊は大幅な遅れもなく、無事に北アメリカの国家、カナダに近づきつつあった。
「いよいよ相手国に来たのか……」
角田の気が引き締まる。
実に1年ぶりに日本海軍は太平洋を横断するのだ。しかも今回は本土近くの要所パナマ。
無論警備や警戒も厳重だろうし、護衛の艦隊もいるだろう。
最近話に聞くのは、PTボートという存在だ。
アメリカの魚雷艇で、排水量50トンクラスの木造船。全長は25メートル程度だが魚雷を4本装備するなかなかの厄介者だ。
自衛装備としては20ミリ単装機銃、12.7ミリ機銃を搭載するのが一般的だったが、ソロモン海域では37ミリ機関砲を搭載するボートも現れている。
流石に木造小型船を荒れている北の海で使うわけがなく、パナマには配備されている事が十分あり得る。
大鳳は魚雷に対する防御力も他の空母と比べて格段に高いが、何本も食らってはさすがに致命傷になる。遭遇しないのが一番だ。
「カナダ海軍は太平洋に進出しているのかな?」
「大山少将によればカナダ海軍は潜水艦及び駆逐艦を数隻程度展開させているようです。発見されなければさほど脅威ではありません。」
「まぁレーダーに写らないようにしてるけどね。」
カナダ海軍は連合国側で参戦しているが、自国の領海の警備程度しか活動しておらず、まともな戦力は保有していない。
潜水艦もアメリカのガトー級等を貰ったりしたものだ。
しかし、その分哨戒艇が多くその監視網は厚いと言えるだろう。もっとも、沖合を航行中の艦隊を見つけることはまずないが。
「パナマ到着は?」
「このままいけば17日の夜明け頃には発艦させられるかと。」
現在の時刻は16日午前8時。あと1日あれば十分間に合う距離だ。
「松田大佐。ちょっとだけいい?」
角田に呼ばれた松田は会議室へと2人で向かった。
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「私が?」
角田から持ち出されたのは八八艦隊の事だ。
「彰が未来から来たという話は?」
「噂程度ですが耳にしてます。」
「あれは本当だ。彼の世界の史実ならミッドウェーは蒼龍だけでなく飛龍、赤城、加賀もやられている。ガダルカナルも多大な犠牲を出しても奪還はできず撤退しているらしい。」
「という事は、大山少将がそれを変えたと?」
「そういう事だ。」
松田はふと疑問に思う。
現段階で未来に帰れる方法はわからないが、もしあるとしたら歴史を変えたら戻れなくなるのでは?と。
「私には難しい話はわからないけど、原子爆弾というものがアメリカで作られているらしい。これは1発で、彼の世界では広島と長崎が壊滅させられたらしい。」
「1発で!?」
そんなもの作っている事を知っているのはアメリカでもごく一部だろう。勿論、我々海軍でも全く知らない。
「それを阻止するための部隊が八八艦隊だ。彰が、君には艦長をしてもらいたいらしい。」
「しかし私なんかが……?」
「彰は文字通り未来から来ている。彼の世界とこの世界は大きく違っているらしいが、標的艦の艦長を務めていたのは事実だろう?」
松田は確かに過去に標的艦の艦長をしていた事があり、その経験から独自の爆撃回避方法を立案している。
「お見通しですかね?」
「だろうね。」
そう思うとなんだか気持ち悪さを覚える松田であった。
「荷が重いですね。私に務まるかどうか。」
「君ならやれるさ。」
苦笑しながら、松田は今はこの作戦を成功させなければと思った。
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エセックスはパナマ運河に入り、現在ガトゥン湖にさし掛かったところだ。
パナマ運河は入り組んでいるため相当時間がかかる。太平洋に到着するのは明日(17日)のお昼ごろになるだろう。
「いよいよジャップ共に一泡吹かせる……!」
エセックス艦長のドナルド・ダンカン大佐だ。
ニミッツはマッカーサーに協力するため、時期主力空母となるエセックス級にはニミッツの信用できる人物が採用されている。
これに関してはキングは何も言わないため、逆に好都合だ。
キングはせっせと大統領と密談しているらしく、夜遅くにナニかヤってるんだろうと考えるのをやめた。
あんな海軍の伝統をぶち壊し、風紀を乱すようなやつの命令は聞きたくなくなってきた。
ダンカンはニミッツとよく酒を飲みに行く関係で、航空戦の知識もニミッツから学んだものだった。
「姉さんは私に絶対の信頼をおいてくれている。その期待に答えねば。」
ダンカンもまた、ニミッツをかつて亡くした姉のように慕い、頼りにしていた。今度大事な話をすると言われたが、なんだろうか?
「取り敢えず、この運河を超えるまでは休んでもいいかな?」
ダンカンはそう呟くと居眠りを始める。
アメリカ。ホワイトハウスの大統領室は扉に鍵がかかっていた。
「閣下。お話があります。」
キングがルーズベルトの前に立っていた。
「今度のギルバート攻略、作戦が終了したら私に2個艦隊を直々に動かせる命令が欲しいのです。」
2個艦隊。それは、空母を実に10隻近く使用する戦力だ。史実では1個艦隊につき空母が10隻編成されているが、現段階では軽空母も合わせているので強大な戦力には程遠い。
「何をするつもりかね?」
「ギルバート攻略後、クウェゼリン、エニウェトク、トラックへの侵攻を始めようかと思っております。」
「ほお。」
クウェゼリンやエニウェトクはソロモン諸島の丁度上辺りにある諸島で、線上にマリアナ諸島につながっている。米軍はここで補給を行ったり、応急修理を済ませてすぐ近くにあるハワイに損傷艦を送っている。
つまり、この諸島さえ抑えてしまえば戦略的に非常に役立つ地域なのだ。
「検討はしておこう。しかし、リスクはあることは承知だと思うが、しくじるようなことはするなよ?」
「心得ております。例の計画も、並行して行うつもりです。」
「うむ。」
キングは大統領の返事に満足し、部屋を後にした。
Fin




