4章60話 爆沈
横須賀、海軍停泊所。
日本の海軍の中心基地の1つで、東京湾を含めば連合艦隊をすべて停泊させられる広さがある。
深夜、その横須賀から1艇の内火艇が1隻の戦艦へと向かっていた。その戦艦は大和型に次ぐ主力戦艦で、第1戦隊の所属艦だ。
かつてはビッグセブンの一角をなし、今でもその栄光を忘れない艦風である。
排水量3万2720トン、全長215.80メートル、主砲41センチ連装砲を4基搭載した長門型戦艦2番艦。
陸奥だ。
そして、何を意図するのか接近する内火艇にはあの脱走兵がのっている。荷台には沢山の爆薬を積んで。
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彰は忠一の家で合流、そのまま大本営へと戻った。五十六も大本営へと向かっているらしい。実に忙しい日だ。
今日大本営の会議室で会議を行い、翌日皇居へと向かう。
御前会議とは、陸軍、海軍、そして天皇の3勢力が集まり会議をすることだ。
海軍は陸軍に今回の事で抗議をおこし、陸軍政権には辞退、すなわち現東条政権を解散させるのが目的だ。それほどのことをしでかしたのだ。当然だろう。
後任には米内光政海軍大将を推薦することになっている。
ちなみに、海軍将校はほとんど全員が女性指揮官だ。米内も例外なく女性である。
もし米内が首相になれば、日本は新体制となり、革命規模の変革が起こるだろう。これまで好き勝手やってきた陸軍にうんざりしている国民にとっては喜ばしい事だ。
彰も忠一と一緒にネタ作りに励む。なんとしても現政権を舞台から引きずり降ろさなければならない。
「失礼します。」
その時、部下と思われる男が入ってきた。
「どうした?」
忠一が問いかける。
「脱走した陸軍兵を発見しました。陸軍兵は横須賀の戦艦陸奥で姿を確認したそうです。現在確保に向けて艦内を捜索中です。」
「何故陸奥なんかに……?」
彰は冷や汗がシャワーのように噴き出る感覚がした。確信は無いが、ある艦が沈んだ時も自殺が原因と仮説が出ているのだから、そんな予感がしたのだ。
「それじゃ遅い!! そいつを射殺してでも止めろ!!」
「彰!?」
「陸奥が……横須賀に沈むことになるぞ!!」
陸奥では脱走した陸軍兵が第2主砲塔内へと侵入していた。
丁度誰もいないため、余裕を持って火薬庫へと降りていく。
「全ては、お国のために……辻参謀のために!」
男の目は狂っている。この陸奥さえ沈めれば、国が変わると思っているのだから。
「あった。火薬庫だ。」
男はその火薬に爆薬を仕掛け、自身は手榴弾をもって皇居の方向に正座した。
「天皇陛下、万歳……!」
小さく叫ぶと、男は手榴弾の信管がある部分を思いっきり叩きつけた。
刹那、閃光とともに手榴弾が弾け、その威力が爆薬に到達。爆薬も爆発した。
無論、火薬も一緒に爆発。トン単位で搭載されている火薬はうなぎのぼりに誘爆をおこし、やがて第1火薬庫は大きく爆発。その威力は、更に下の第2火薬庫、上の第2弾薬庫にまで及んだ。
第2弾薬庫には三式弾が収納されており、数にしておよそ200発。第1弾薬庫には一式弾が同じく200発。その破壊力は想像を絶するものとなり、たちまち大爆発と共に主砲塔を上空の彼方まで持ち上げた。
およそ360トンもある主砲塔が上空50メートルまで吹き飛ばされ、爆発のエネルギーは船の命とも言える竜骨までへし折った。
艦橋は根元からえぐり削られ、衝撃によって周りに粉々に粉砕されながら飛び散る。エネルギーはそれだけじゃ満足行かず、前にある第1主砲塔までも巻き込んだ。
第1主砲塔も同じように大爆発をおこし、主砲塔を上空高くまで持ち上げた。
第2主砲塔は海へと落下すると巨大な水柱をたてて海中に没し、第1主砲塔は前部甲板へと落下。その影響で艦首がへし折れるように切断された。
煙突からは爆炎が吹き出し、艦中央まで爆発のエネルギーが及んだことを示していた。
やがて陸奥はくの字に折れ曲がるとゆっくりと沈み始める。
ビッグセブンの一角をなした戦艦陸奥は、史実よりも5ヶ月早い1943年1月20日に横須賀の海に沈む事となった。
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陸奥爆沈はすぐに知れ渡った。
「くそったれぇぇぇ!!!」
机を蹴り倒す。
ここまで頭にくることは初めてだ。くだらない面子争いで海軍のトップを拉致るどころか、大事な主力戦艦を爆沈させる。
国家反逆罪に等しい。
「陸軍は何てことを……!」
もちろん、忠一も怒りに肩を震わせた。
「横須賀では第18、24、27海軍陸戦隊が事態の収集と付近の被害状況を確認させてるよ。」
「ありがとう。これでいよいよ陸軍の奴らを引きずり降ろさなければならなくなったな。」
彰は何がなんでも陸軍を許さないつもりだった。
たとえ、独断で軍を動かしてもだ。
Fin




