4章59話 提案
今日で3日目だ。
72時間も寝ていない。もっとも、こんな状況でも三川君は寝ているが。
「長官も休まれては?」
四郎が気を使ってくれる。
「大丈夫さ。君も休んだらどうだい?」
「あら。長官、私は持久力が取り柄なのをお忘れになって?」
「ははは、そうだったな。」
四郎は常に気遣ってくれる。何気ない一言でも、とても有り難く思っている。
「彰……」
呟いたその時だった。
『GO!』
「!?」
突然扉が開かれている外から黒い服に見を包んだ男達が突入してきた。
「何だ貴様らぁ!」
「海軍の者か!?」
衛兵として残っていた者も含め7人が立ち上がろうとした瞬間、リーダー格と思われる男は意外な返事をした。
「首謀者の辻政信は逮捕された。現在特高(特別高等警察)によって尋問中である。」
7人に衝撃が走ったようだ。
小銃を構える兵士が1人、下げつつある。
「無駄な抵抗はやめろ。さもなければ、武力鎮圧が必要と判断し、あなた方を無力化させてもらう。」
そう言って、短機関銃を兵士たちに向ける。
その短機関銃には見覚えがある。何故なら、自分も持っていたからだ。
「彰……?」
恐る恐る呼びかけると、その男はマスクを外し素顔を表した。
「遅くなってしまいました。長官。」
助けに来てくれたのは、彰だった。
「怪我はありませんか?」
「大丈夫だよ。」
「私も問題ありません。」
「平気だよ! 彰君短機関銃ありがとね!」
皆無事で何よりだ。
三川中将は逆にお礼を言ってきたが、役に立てたのなら良かったとしよう。
「大鳳は16連隊第1大隊の皆さんが占拠という名の保護をしてくれました。2月の作戦には影響はないと思われます。」
「それは良い知らせだ。16連隊にはお礼をしないとな。」
五十六がそう言うと、その中心メンバーはいやいやと頭をさげる。
ちょっとは胸張れよ……。
「彰にもお礼をしなければならない。どうだろう? 昇進なんかしてみては?」
「それは名案だよ! 彰君と同じ階級なんて嬉しいもん!!」
「ふふふ、出世しましたね。」
なんてこった。
特別処置で少将になってから1年もたたずに中将だ。そんな事になったら周りからどんな目で見られるか不安で仕方ない。
「それはともかく、早く連合艦隊司令部に戻りましょう。落ち着いてから昇進の件を話しましょう。」
「そうだな。」
かくして、クーデターは彰達の大本営奪還の成功を持って収束した。
陸軍にとってのこの失敗が、後に連合艦隊の戦力の一角に大損害を与える事はこの時点では誰も知らなかった。
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その日の昼間。彰は横浜へ、五十六は呉へとそれぞれ戻った。
五十六は呉で情報収集と御前会議でのネタ作り、彰は協力してくれた16連隊の労いだ。
「皆、今回は本当に助かりました!」
大鳳の飛行甲板上では彰が深々と頭を下げる。
「少将!? あ、頭を上げてください!!」
16連隊の兵員は慌てふためく。海軍の将校に頭を下げられる。何も知らない海軍兵から見たら喧嘩沙汰になろう。
「いや、あんたらは俺ら海軍を助けてくれたんだ! 俺らからもお礼を言うぜ!!」
彰の気持ちと同じ気持ちを持った大鳳の乗組員は、彰の気持ちを代弁する形で艦橋から叫ぶ。
「そんな、我々は大したことは……」
「私からもお礼を言わせてもらおう。」
そう言って甲板に出てきたのは、大鳳臨時艦長の松田千秋大佐だ。
もとは第2戦隊司令官で、4隻ともドック入りしてる為言わば暇しているところを大鳳艦長に命じられたのだ。
松田大佐は史実では、少将として第4航空戦隊(伊勢、日向)の指揮を取り、エンガノ岬沖海戦では元標的艦の経験から独自の回避術を作成。
それが幸を成し、米機動部隊の爆撃を全弾回避するという偉業を達成した優秀な人物だ。
「2月に、極秘だがこの大鳳は作戦を控えているんだ。それを占拠されては支障が出る。それをあなた方は救ってくれたのだ。1艦の長として、深くお礼を申し上げる。」
と言って頭をさげる。
「そこまで事情があったならお役に立てられて良かったです。それと、1つご相談があるのですが……」
「相談とは?」
松田大佐が疑問を感じる。彰も同じだ。
「これは我々からのお願いでもあるのですが、閣下直轄の部隊を作りませんか?」
つまり、陸軍所属でも、海軍所属でもない彰所属の部隊を作ろうというのだ。
「しかしそれは不可能だろう?」
「無理は承知です。今の我々には、陸軍に居場所はりません。無くなったと言ってもいいでしょう。部隊があれば、我々も兵士としてやっていけます。」
中々良い提案だと閃いた。丁度、特殊師団が欲しかったところなので、良い機会かもしれない。しかし、それをするには許可を得る必要がある。
「今すぐには返事は出来ない。しばらく待ってもらえるかな?」
「わかりました。お待ちしております。」
許可を貰うのはこの国で一人しかいない。天皇陛下だ。後日行われる御前会議で、条件の中に入れておこうと彰は考えた。
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「ん?」
見張りは違和感に気づく。
縛っている兵士のうち1人が頭一つ分低いからだ。近くによると、それは人ではなくカーテンでこしらえた人形だった。
「!? 脱走したぞ! 大変だ!! 脱走者ー!」
脱走者はすでに大本営から遠く離れ、電車である場所へと向かっている。
それは、もし失敗したら実行しろと辻から直接命令された作戦。
目的地は、横須賀。
運悪く、そこにはある主戦力が停泊していた。
Fin




