4章56話 予期せぬ味方
彰の持つトンプソン短機関銃に出迎えられた辻は一瞬、自分の置かれている立場が理解出来なかった。
「!? 避け――――」
辻が指示を出す頃には遅かった。
十四年式拳銃を撃とうとした部下2人に向け彰はためらわず発砲。
45口径(約11.43ミリ)が毎分700発というスピードで放たれ、兵士は胸や腹に銃弾を受け倒れた。無事だったのは辻ただ1人だった。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
辻は怒りに身を任せ、軍刀を振りかざした。
彰は焦る様子を見せず、トンプソンで軍刀を受けた。そして素早くストック(銃床。肩に当てる部分)を辻の顔面へと叩きつけた。
女の子相手にこんな事をするのは心が痛むが、やらねば殺される状況のためやむを得ないだろう。
「かはっ……!」
辻は口の中を切ったらしく、口からは軽く血が出ている。
「国賊の分際で……!」
「それはお前だろう。」
彰は低い声で、はっきりと告げる。
「天皇陛下を大切にする想いは同じ日本人である俺も同じだ。特に陸軍はそのプライドが高い。しかし、それを後ろ盾に好き勝手やるのは間違っている。」
「貴様は、我々帝国陸軍が天皇陛下を利用していると言うのか!?」
何を勘違いしているのだろう。
「利用しているのではない。お前ら陸軍はトラの威を得たネズミと同じだって言ってるんだ。この時代は天皇陛下こそが全てだ。その事実を利用して無意味な殺し合いをしていると言っている。」
辻は更に怒り狂い怒鳴った。
「我々帝国軍人は誇り高き大東亜共栄圏の確保の為、全アジア民族が平和に暮らせるようにそれを妨げようとする米英蘭と戦っているのだ!! のんびりとわけの分からない戦いで勝っているだけの、戦力を温存したがる海軍とは訳が違う!!!」
「すべての戦争は海軍が勝敗を決める。特に未来のアメリカ海軍は空母1隻で小国の空軍と同等に戦える戦力を持っているぞ。」
辻は理解が出来なかった。
しかし流石は陸軍で理解力の早い人物と言ったところか、悟ったように顔を青ざめた。
「貴様は、陸軍が無能だと言いたいのか?」
「少なくとも海の上ではな。」
辻は憤慨する。
「だからといって、貴様のような得体のしれない人間が、軍人の名を語って陸軍を指揮するなど、私が許さない!!」
辻は足元に落ちていた十四年式拳銃を拾い、彰に向けた。
彰は咄嗟に両手で顔を覆うように防御の構えをとった。
「彰!!」
忠一が叫んだ頃には遅かった……。
「…………あれ?」
間抜けな声が彰の口から出てしまった。
恐る恐る辻を見ると、数人の男が辻の腕を掴み拳銃を取り上げようとしていた。
「我々は貴女にはついていけません。我々は、大山少将の指揮下に入ることにしました。」
「なっ……!?」
辻は驚愕した。同じ陸軍の兵士が彰の専属部隊となると言っているからだ。
「あの……貴方方は?」
意外な言葉が男から発せられた。
「陸軍第2師団所属、第16連隊第1大隊です。」
なんと彼らは、ガダルカナル島で一緒に戦った第16連隊の生存者だった。
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辻は縄で拘束され、2人の男の間に挟まれていた。リーダー格と思われる男と、彰は話をし、隣では忠一が静かに様子を見守っていた。
「自己紹介が遅れて申し訳ありません。第16連隊第1大隊の大隊長に作戦終了後任命されました。新井橋と申します。」
新井橋大佐?
「あっ、もしかして……!」
「思い出しましたか。あの時、少将の護衛役を名乗りでた12人のうちの1人です。」
彰には、ガダルカナルの戦いの時に12人が護衛として名乗りでた兵士がいたのだ。
残念な事に、生還したのは8人で、4人は戦死してしまった。
「お久しぶりですね。」
「少将、敬語はおやめください。どっちが上なのかわからなくなります。」
2人は軽く笑いあった。
一時とはいえ、ともに戦った戦友だ。その仲は決して無くなることはないだろう。
「今回、海軍に対するクーデターに参加するよう我が連隊長に命令が出ました。」
「クーデター!?」
忠一は驚いたが、彰は冷静になろうとしている。
「現在、大本営海軍部が占拠されました。陸軍の一部の部隊は状況がわからず、下手に動けませんが、第16連隊は、少なくとも我が大隊は貴方に恩があります。クーデターは偽装目的で参加しました。」
「恩だなんて、そんな……」
彰は嬉しさと同時に、複雑な気持ちになった。
いくら自分が指揮した大隊の兵士が死なないようにしたとはいえ、戦死者は出てる。それを誇りに思うのはどうかと思っていたのだ。
「恩だなんて……俺は大して何も……」
「実は我々第16連隊は精神論主義ではなく、現実論主義者が多いのです。そんな中、少将は精神論だけでは勝てぬと、はっきりとおっしゃいました。我々は貴方は指揮官として最高の人物と確信しました。」
良い部隊は結束力が強い。それをまとめる指揮官は信用される人材で無いとダメなのだ。
実際、例え話をするが海兵隊の訓練の初期はきついマラソンなどが多く、この時点で多くは脱落する。
しかし同時に、これは1人ではクリア出来ないと考える兵士もいる。これは海兵隊側の狙いで、団結力を当たり前とする考えを養うメニューなのだ。
「我々が担当したのは横浜に停泊中の空母を占拠するというものでした。」
「大鳳を!?」
陸軍は空母までを奪おうとしていたのだ。本格的なクーデターだ。
「それで、実際に動いたのか?」
「失礼ながら、少将のお名前を借りクーデターが起こっていることを大鳳乗員に伝えました。現在、大鳳は陸軍の管理下に置かれたと欺瞞情報を流し、大鳳には爆撃の準備をさせています。」
この男はやるな。そうとうのきれ者だ。
「話はわかった。俺が隠しているトンプソンをあなた方のために渡します。大本営を奪還しましょう。大鳳には現状維持で待機と伝えてください。」
「わかりました。」
彰は大本営を奪還しようと決めたが、そのためには隊員にCQBを教えないとダメだった。
Fin




