4章54話 動き
海軍はしばらく作戦行動を行わない事となった。兵士には1周間の休暇が与えられ、訓練したい者は自主参加となった。
今月(1月)の20日には連合艦隊はトラックに向けて出港。大規模な訓練を行う事となった。
五十六は彰と会っているところだ。
「すまないね。折角の休みなのに、2人の仲を邪魔してしまって。」
「良いよ。六が用事があると言って呼んだんだから、気にしないでいいよ。」
五十六は六と呼ばれる事をたいそう気に入り、呼ぶたんびにもじもじする。
いや、もじもじされても困るんだが。
「それで? 用事というのは?」
「うん。妹さんの事なんだけど……」
瞬間、彰の顔が曇った。すぐに顔色は戻ったが、表情は浮かばなかった。
「……やめといたほうが良いかな?」
「いや、平気さ。続けて。」
彰はそれなりの覚悟は決めているようだ。
「止めるためにアメリカに行くと聞いたんだけど、本当なの?」
彰は黙ったままだった。
やはり、忠一が言っていたのは本当だったんだ……
「彰、そんなの危険だ。忠一の為にも、自分の為にも行くのは考え直してほしい。」
「じゃあどうしろってんだよ……!」
彰は静かに怒鳴った。その顔は、怒りに満ちている。
「大切な妹が、沢山の人を殺す事を遊びだと言っているんだぞ!! 兄である俺が止めないで誰が止めるんだ!!」
彰は、兄としての責任を感じているようだった。大切な妹が、曲がった道に進もうとしているのだ。恐らく、私でもそうするだろう。
「でも彰。だからといって単身でアメリカに行くのはいくらなんでも危険すぎる。君の顔は、米軍兵士には知っている者がいるかもしれない!」
「じゃあ他にどうしろと言うんだ!! まさか、実の妹を俺の手で殺せとは言わないよな?」
彰の目からは涙が流れた。
そこまで苦しめられている事に、気づかない私は鈍感すぎた。忠一の為と私情に流されたが、彰も彰で悩んで、苦しんでいるんだ。
「……ごめん。そうではないんだ。」
静かに、私はそう言うしか出来なかった。何も出来ない自分が、憎たらしく思えた。
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アメリカでは、友梨佳ことキングがマンハッタンのとある施設の地下室に来ていた。
「これが……濃縮装置……」
キングの目の前には、ウランを爆弾に詰めるだけの大きさに小さくする濃縮装置がそびえ立ち、側にいる人を圧倒するように低い音をたてていた。
「ここで濃縮作業が行われていたんだね……」
「当施設では電磁濃縮法によって濃縮作業が行われております。」
施設の作業員が説明をした。
ウランを濃縮する方法は様々あるが、では電磁濃縮法とはなんだろうか?
電線に電力を流し、その周りの装置にウランを流す。イオン化して軌道に直行した磁場により飛行するイオンにローレンツ力がかかり、重いウランは外側に、軽いのは内側へと別れるのだ。
軽いのは濃度が高い、つまり質が良くなるためこれをまた電力によって濃縮するのだ。
ちなみに、この装置は莫大な電力を必要とするが装置自体は簡単な構造なので、イラクでも同様の装置で開発された事が、湾岸戦争後に判明した。
この時期、電線の材料となる銅は戦略物資として使用が制限されていたため、銀行から銀を借りて作った。
「電気はなんでもやっちゃうんだね~。」
「質は悪くなりますが、効率は良いです。構造も簡単なため、大きな事故は無さそうです。」
キングは心から感動を覚えた。
こんな大きな装置を使用して作られた小さな物体が、20万人もの人を殺せる事に。
「楽しみだよ……お兄ちゃん。」
キングは、その日の夜大いに笑った。1人部屋で、沢山の人の死体を想像しながら。
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東京に大本営という、陸軍及び海軍の司令部がある。ここから作戦実施などの命令が発され、統帥を行う。
その大本営の陸軍部の、誰も知らない地下室で不穏な空気が流れていた。
「海軍は腐りきっている。戦力は十分に温存しているのに、全く動こうとしない。」
男は海軍を批判した。
「そのとおりだ。それに、ガダルカナルでは海軍の指揮官が陸軍部隊を指揮したそうだぞ。」
「なんたる屈辱だ!! 陸軍が海軍の指揮下に入るなど、国賊同然の行為だぞ!!」
更に男は喚き立てた。ほか数人の男もそうだそうだと吠え立てる。
「我が陸軍が天皇陛下のために、海軍をたて直す必要がありますね。」
その声は、屈強な男たちとは違い、幼く、背も小さい。しかし、その顔は復習の為にと歪んだ笑みを浮かべていた。
「海軍を一時的に陸軍の管轄下に置き、来るインパール作戦のための兵力として使いましょう。」
「それは良い考えですな!」
男達はその声を賞賛し、讃えた。
「我が陸軍はあまり良い面子がたてられていません。海軍が戦果を独占するのは許せません。」
「その通りだよ。私達陸軍は、来月横浜にいる空母を拿捕しようと思う。」
恐ろしい事に、横浜に停泊中の空母大鳳を拿捕し、利用しようとしているのだ。
「そしたら海軍は抗議してきますが……」
「うやむやにして放っておけばいい。借用したいとでも言っておけ。」
彼らは、中心に座る人物を中心に海軍相手にクーデターを起こそうというのだ。
「無能な女を指揮官にするから海軍は腐るのだ。非国民め!」
別の男は声を荒らげる。
「我が陸軍は真の有能な人物を取り入れるから強くなるのです。そう……参謀のように。」
中心の人物は笑う。
そして、冷たく、非情な声で言い放った。
「この辻政信に任せたまえ。」
大山を斬り殺す。
そのためだけに、この少女は国を大きく動かそうとしていた。
Fin
最後まで有難うございます。松ちゃんです。
もうすぐ今年も終わりますが、皆さんこの1年ばどうだったでしょうか?
僕はこの投稿サイトに出会い、読んでもらえる嬉しさと続けて書く事の楽しさを知った1年でした!相変わらず文章も展開も雑だったりしてますが、こんな僕でも来年もお付き合いいただけると嬉しいです!
次回は年越しのお祝い(?)という事で3話同時更新します!
それでは皆さん、良いお年を!




