3章41話 奪還戦~ムカデ高地突破戦~
ムカデ高地は弾幕に覆われていた。
彰は弾丸に当たるまいと必死に姿勢を低く伏せる。機関銃などの弾丸は下に撃つのはあまり得意ではない。特にこういう傾斜地ではなおさら命中率が下がってしまう。それでも当たったら死んでしまう。
「速射砲!! 応射しろ!」
彰は那須少将よりも早く怒鳴った。
速射砲の37ミリ砲が米軍の機関銃陣地に向けて咆哮する。たちまち陣地周辺は爆発し、火力が弱まったが黙らせるには程遠い。
「爆破せよ!!」
那須少将が工兵に命じると工兵は導火線を引っ張った。
爆薬筒は爆発し、鉄条網に大穴を開けた。これで突入が出来る。
歩兵は小銃で応射するがボルトアクションの為いまいちダサく感じる。
それでも軽機関銃や重機関銃は米軍陣地へひたすらに撃ちまくっている。
「突撃!!!」
那須少将は部下と共に鉄条網の穴から陣地塹壕へと走りだした。彰もそれに続く。
彰は那須少将から十四年式拳銃を渡されていたが、なるべく撃ちたくはなかった。
こんな激しい戦闘が目の前でおこってるのに、人を殺すのは嫌だと言っている自分がいる。普通はそう考えるのが当たり前だ。
塹壕に入ると目の前の米兵がバヨネットを振りかざし迫ってきた。たちまち取っ組み合いになる。
格闘技のようなものでで対抗するがあくまで護身用に習った程度、殺す気でかかってきている相手を無力化できるわけがない。
米兵は馬乗りになると彰の目めがけてバヨネットを押し付ける。彰はそれを腕を掴んで必死に止める。
しばらくそのまま睨み合ったが、相手の腰にホルスターがあり、そこからコルトM1911ガバメントを引き抜き、相手の腹部に2発撃った。
相手は細かくビクッと震えると力を弱める。それでも正気に戻ったのか、再び力を入れてきた。彰は目をつむり喉に撃った。
鮮血が泥だらけの顔にかかり、軍服を赤く染める。米兵は力を完全に無くし、死体と化した。
初めて人を殺した。不思議と罪悪感はない。戦場では、殺るか殺られるか。日本兵も米兵も、どちらもがむしゃらに戦っているのではない。彰はそれに気付かされた。
「……ごめん。」
彰はその米兵に小さく謝ると側に落ちてたトンプソン短機関銃を拾うと他の日本兵の為に援護を始めた。
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状況は思わしくなかった。
マタニカウ川は突破されたらしく、ムカデ高地でも戦闘が始まっている。恐れていた二面作戦をとったようだ。
ただでさえ少ない兵力と弾薬でやりくりしてきたのに、更に二面にわけないとダメなのだ。
ターナー少将の輸送船団が強行突入を明日の夜行うと言ってきたが、果たしてうまく行くかどうか。
マタニカウ川の陣地にはスチュアート軽戦車を送るように手配した。全4両が駆けつける。
少しは持ち堪えてくれると助かる。
ムカデ高地は三段構えの陣地で、1つ目の陣地が突破されると2つ目の陣地に後退、再び激しい弾幕が降りかかってきた。
辻中佐が隣にやってきて、何を考えたのか彰の部隊に突撃せよと命令したらしい。
彰は状況がつかめぬまま部下が突撃する様を数分眺めてしまった。目の前で至急ではあるが部下が死に、彰を睨みつける者もいた。
「辻!! 何故勝手に僕の部隊に突撃を命じた!!」
すると残酷な答えを返してきた。
「貴様のようにお国のお荷物になる部隊は突撃させて名誉の死に場所を与えただけだ!! 貴様に文句を言われる筋合いはない!!」
彰はすかさず殴った。彰は女の子を殴るのには抵抗があったが、それでも迷いは無かった。
「お前の勝手な指示とくだらない精神論で! 仮とはいえ僕の部隊が全滅しかけたんだ!! 目の前を見ろ!!」
彰は辻の頭を掴み米軍陣地へ差し向けた。
「未来でも物量が戦闘を左右する!! 精神論なんて時代遅れなんだ!! そこまで言うならさっきから後ろで指示ばっかり出しているお前があの火線の中を突っ切っていけるのか!?」
その場の部下は驚きの目で彰を見ていた。戦場のど真ん中で説教じみたことをしているから当然だろう。
「お前のくだらない精神論でたくさんの部下が死んだんだ!! 指揮官としても、陸軍としてもお前は恥さらしだ!」
彰は乱暴に辻を離すと部下を見渡した。
「第16連隊は一時後退! 那須少将の部隊と共に突破するぞ!!」
部下は後退を始め、彰に従ってひたすら手榴弾を投げたり重機関銃を撃ちまくった。
辻中佐は那須少将の部下によって後方に更迭された。
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左翼部隊は後方の重砲の援護もあって突破はマタニカウ川渡河よりもスムーズにいった。犠牲は大きかったが、渡河の時ほどではない。
敵陣地は残りトラ陣地のみ。ここには後退した兵士も含めて2000名ほどがこもる。こちらは合流した2個大隊含めて4000名。2倍の戦力だ。
それでも弾幕は厚く、戦車にも援護してもらう。
火線は次々と部下をなぎ倒し、後方の榴弾砲の砲撃によって戦車が3両破壊された。その爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされる部下もいた。
ここは鉄条網があり、工兵によって爆薬筒で破壊された。
「手榴弾を投げつつ突撃せよ!!」
川口少将は刀を抜刀し、鉄条網の穴から部下と共に雪崩れ込んだ。
たちまちトラ陣地は激しい白兵戦が始まり、両軍激しく戦った。
しかし、敵の砲撃が始まった。
「夜明けだ!! 後ろの陣地まで後退せよ!!」
川口少将は悔しかったが、夜明けでは敵の戦闘機が来てしまう。砲撃も激しくなるため、ここは素直に退却するしかなかった。
アシュフォート大佐は敵が引き上げていくと、破壊された鉄条網の修復と負傷兵の後方への後退を命じた。
ムカデ高地でも2段目の陣地が陥落しつつあった。夜明けが近かったが、ぎりぎりまで粘った。それは米兵も同じだった。
しかし、特に彰の大隊の攻撃が激しく、半分近くが蹂躙された。しかし被害も多く、380名いたのが今や180名まで減ってしまった。
やがて米兵は後退を始めた。もともと146歩兵連隊は日本軍の実際の攻撃を経験しておらず、殆どが恐怖で逃げ出している。
「敵が引き上げていきました!!」
ムカデ高地の2段目は完全に日本軍の手に渡った。夜明けが近いため、30分の休みのあと疲れた体にむち打って塹壕の深さをより深くした。砲撃を避けるには深い塹壕が必要だ。それを知ってる兵士は早く作業を行おうと努力した。
1夜目の戦闘が終わった。彰は南雲の働きを期待して作業に入った。
Fin




