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俺と彼女らの戦闘記  作者: 松ちゃん
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3章40話 奪還戦~マタニカウ川渡河戦~

 17日夜。

 右翼部隊の準備が整った。

 ……といっても少し遅れ気味ではあるが。

 左翼部隊はマタニカウ川手前500メートルまで進出、合図を待った。戦車が前に出て、歩兵の渡河を支援する。14両のうちエンジンの故障で2両を置いてきてしまった。それでも12両残っている。


「前進せよ。」


 川口少将は静かに命令した。

 九七式中戦車はエンジンを鳴らし、ゆっくりとマタニカウ川へと前進した。歩兵もその後ろに続く。

先頭車が川に差し掛かった時、突如対岸から反撃が行われた。

 重機関銃、ライフル、速射砲をばんばかと撃ちまくり、瞬く間に数十名がその場に倒れた。


「怯むな!! 渡河するまで止まるな!」


 戦車が応射する。九七式中戦車の主砲口径は57ミリ、前面装甲は25ミリと速射砲では破壊できない。戦車砲によって速射砲の多くは破壊され、砲撃量が少なくなってきた。

 そこをついて歩兵隊が川へと入った。

 米軍の重機関銃の火線は一層厚みを増し、川に入る兵士を次々となぎ倒した。

 川口少将もそれを見て歯ぎしりした。


「姿勢を低く! 射線から外れるようにしろ!」


 無茶な要求だった。

 なにしろ川は先日の大雨で増水しており、胸まである。そんな不自由な中姿勢を低くするなんて無茶にもほどがある。余計に犠牲が増えた。

 高橋卓三大佐率いる1個大隊が前に出た。

 川に入った瞬間、高橋大佐は足を取られ転んで水中に入った。

 その時、目の前に来た弾丸がぼしゅっと音をたてて勢いがなくなるのを見た。


「水中に入れ!! 弾丸の勢いが弱まるぞ!」


 なぜ気づかなかったのだろうかという顔をすると皆が水中に入り泳ぎ始めた。

 それでも、水中に入る前の時点で弾丸によりその場に倒れる者は少なくなかった。

 戦車は川には入れず、歩兵をひかないために対岸から戦車砲と7.7ミリ車載機銃で援護する。後方からは重砲弾が飛来し、敵陣地のはるか後ろで爆発する。

 歩兵部隊は対岸につくと盛り上がった土の部分に身を隠し、突入のチャンスを伺った。

 しかし、敵の重機関銃の火力が厚く、対岸に辿り着いた兵士を見ると今度はそちらに弾丸を送り込んできた。


「手榴弾はあるか!!」

「はっ!!」


 高橋大佐は部下に手榴弾を貰うとそれを敵陣地へと投げつけた。

 たちまち爆発音がすると鉄のヘルメットが転がってきた。火力が弱まったのを見逃さなかった。


「突撃!!」


 20名ほどが陣地へと雪崩れ込み、たちまち恐ろしい白兵戦が始まった。

 米兵はやられまいとバヨネットで応戦。敵味方がわからず、誤射する者までいる。

 刀で斬られる死に方は恐ろしくてたまらない。弾丸のほうがマシだ。

 それを恐れ、逃げ出す兵もいるが、殆どの米兵は果敢に白兵戦を行う。

 高橋大佐自身も二人目の喉を斬りつけた。その兵士は目を見開くと大佐を睨みながら崩れ落ちた。

 戦場は大混乱となったが、やがて敵兵の勢いがなくなってきた。


「敵の手榴弾を拾っておけ!! 後に必要になるぞ!!」


 兵士はこぞって手榴弾を拾い始めた。


 更に前進すると2つの陣地にぶつかった。この陣地はアシュフォート大佐率いる第7海兵連隊だった。

 第1大隊の1240名がサル陣地、第2大隊1130名が先ほど突破されたイヌ陣地のうしろのウマ陣地にいる。第3大隊1490名はそのすぐ後ろのトラ、ネコ陣地に別れている。

 鉄条網を張るのが防衛戦の鉄則だが、米軍側は毎度の空襲や艦砲射撃によって資材が枯渇し、飛行場周辺にしか張れなかったためここには無い。


「鉄条網が無いぞ! 突破するぞ!!」


 高橋大佐の大隊は人数が少なくなってきた。

 そこに国生大佐の1個大隊と河村大佐の同じく1個大隊が合流。人数は2000人になった。

 鉄条網が無いため進むのは楽だったが、やはり弾幕が分厚い。すぐに数十名がなぎ倒される。


「手榴弾を投げろ!」


 高橋大佐自身も部下と共に手榴弾を敵陣地へと放り投げる。

 爆発音がリズムよく聞こえた。


「突入せよ!!」


 自ら白刃をきらめかせ走りだす。部下もそれに続く。

 それでも全部は潰せず、残った機関銃はさかんに弾丸を送り込んでくる。

 一人の小隊長がそれを胸にくらい倒れた。


「手榴弾を投げて援護しろ!!」


 後ろの部下は手榴弾を投げて機関銃を黙らせようとした。投げ返され逆にやられる兵士もいた。

 爆発音はヘルメットが転がると同時に収まり、数人が塹壕になだれ込んだ。

 再び激しい白兵戦が始まり、ライフルで応射する。

 アシュフォート大佐は逃げようとする兵士を捕まえ怒鳴り散らした。


「貴様! あのふざけたジャップ共を後ろの味方に送りつけたいのか!! 味方を思うならこれを投げろ!」


 アシュフォート大佐は部下に手榴弾を手渡した。部下は頷くと手榴弾のピンを抜き放り投げた。

 アシュフォート大佐自身もまずいと思った。

 何度も戦ってきたが、そのたびに恐ろしく突っ込むことをやめない。目の前で死体が出来上がっていくというのにそれでもなお進み続ける。


(奴ら、人間じゃない……!)


 大佐も重機関銃のコッキングハンドルを引くと弾丸をまきちらし始めた。


    ――――――――――――――――


「どんどん撃ちまくれ!!」


 右翼部隊の野戦重砲兵部隊は飛行場の米軍重砲陣地を叩くために激しい砲撃を繰り返していた。

 今回の攻撃は弾薬がたっぷりあるため、使い伸ばせば3日はもつ。

 米軍の反撃はいつものとは思えない程弱々しく、弾薬が少ない事を物語っていた。


 彰は1個大隊を率いてムカデ高地へと足を踏み入れた。もうすぐ夜明けだ。

 どうやら左翼部隊はマタニカウ川を渡河し、3陣地と戦闘中だという。

 我々も負けてられない。


「海軍さん大丈夫でっか?」


 大阪出身のおっさんが声をかけてくれた。


「何分陸上戦は初めてなので、凄く緊張してます。」

「がははは! お互い、死なないように頑張りましょう!」


 豪快に笑ってくれるもんだ。普通だったら陸上戦は高校生が経験するものではない。

 中東に行ってゲリラになれば話は別だが。

 息を潜めて匍匐前進をする。もう少しで血の丘と呼ばれる戦いが行われたムカデ高地の敵陣地へとたどり着く。


「鉄条網か……!」


 隣では那須少将が静かに叫んだ。

 最前線に出ている少将は彰と那須少将だけだった。部下からは後ろで指揮をと頼まれたが二人は拒否した。最前線で戦いたいと。


「工兵に爆薬で穴を開けさせましょう。」


 彰は工兵を呼び寄せ破壊を命じた。

 工兵はてきぱきと爆薬を筒に通し、爆薬筒を作り上げそれを鉄条網の真ん中へとするすると動かす。

 所定の位置に辿り着いたら導火線を引っ張り爆破して穴を開けるのだ。

 すると突然、照明弾が上がる。


 日本兵を確認した味方は重機関銃による弾幕を作り始めた。ムカデ高地を守るのは増援部隊の第146歩兵連隊だ。指揮官はデンバーク大佐だ。


「ジャップ共を近づけるな!!」


ここに、ムカデ高地の死闘が始まった。


Fin

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