3章38話 行進の遅れ
最大の難関に到達した。
アウステン山にたどり着くと急な斜面や崖が多くなる。
ここを担いで登り、時にはロープで吊るしあげた。そのロープが途中で切れると重い砲身は崖を真っ逆さまに落っこちて負傷者が出る。これの繰り返しだ。
後方ではやはり列が伸びきって脱落者が多い。彰も攻撃に参加する事になり、後方で他の兵士を励ましていた。
「海軍さん。体力は大丈夫でっか?」
訛りのある声をかけられた。
「えぇ、なんとか。それにしても想像よりも凄いジャングルですね。」
「わしもこれは初めてでっせ。私、土方言いますねん。」
握手を交わす。生まれは大阪だとか。
「後ろの人を手伝った方が良いでしょうか?」
「海軍さん。それは人が良すぎまっせ。わしらわもう自分の事で精一杯なんや、他人の事なんてかまってられへん。」
これが人の限界なのか……
よく大人たちは言う。自分が窮地に陥っても他人を助けるのは素晴らしい事だと。
戦場に来て初めて覚えた。そんなもの考えるほど甘い場所ではない。
ついていく気力、体力が無い者には自決用の手榴弾が渡され、しばらく歩くと後ろで爆発音がする。
昨日からこれが続いている。
特に前からいた設営隊や川口支隊の生存者に多かった。増援が来て、治療や食料が分けられても衰弱はそう簡単に治るものではない。
内地に戻り、十分な休養を必要とするのだ。
「あんさん、見かけない考え方やけども自分はどうなんや?」
問いかけられてギクリとする。
頭は痛く、意識も朦朧とする。熱中症かマラリアか……考えただけでぞっとした。
こんなジャングルの奥深くで死にたくはなかった。
「……正直つらいですね。」
「でしょうな! わしの水少し分けたるさかい。これで元気出しいや!」
このおっさんホントに大阪出身か?
そう思いつつも水筒を受け取りお礼を言った。
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夜になると真っ暗で何も見えなくなる。
発光性のある植物があるが申し訳程度の明るさで、付けないよりはマシという事で皆が目印になるように体につけた。
迷わないように前の人の肩に手を置き、ゆっくりと進軍する。
前の人間が足をもつれさせ転ぶと将棋倒しのように倒れる。それにより武器ががちゃがちゃと鳴るため、せっかくの隠密行動が台無しだ。
ある日の夜土砂降りの雨が降った。
土砂降りの雨は体温を急激に奪い、土をぬめぬめとした泥に変える。
夜は寒くなり、昼は暑く気分が悪い。それに加えて足場の悪さで重砲兵が転んで持っていた部品で足を折るなどのけが人も出た。
「小休止!!」
皆がその場にどっかりと座り込んだ。疲れてる者が多く、居眠りをする者や水をちびちびと飲む者もいる。
(こんな事するくらいなら九州から北海道までマラソンしたほうがマシだな……)
暑すぎて頭がおかしくなりそうだ。水筒の中身はすでになく、近くの川から水を汲み浄水するしかない。
火をつけるときも、湿ってる枝が多くつけるのが難しい。
やっとついても煙が上がり過ぎたら発見されるので、すぐに火を消さなければならない。また1からやり直しだ。
ある日は牽引車がとうとう壊れてしまった。目標地点まで残り8キロあるのに、余計に時間がかかってしまうことになる。
総攻撃の日時は14日なのに、今日は10日。少なくとも5日はかかるだろう。しかしこの5日は砲兵隊が準備できる日で、歩兵隊は更に前進しなければならない。
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「彰はガダルカナル島にいるらしいよ。」
山本は落ち込んでいる南雲に声をかけた。
「なんでガダルカナル島に!?」
「漂流の末、辿り着いたらしい。何よりも無事だったんだ。喜ぼうじゃないか。」
「うん……うん!」
南雲は涙を流しながら静かに喜んだ。
(彰……生きてた…………!)
もし死んでいたらどうしようか、私も死のうと、何度考えたことか。
生きているとわかった今、早く迎えに行きたい。そう言おうとしたところ、次の言葉で頭が真っ白になった。
「……でも、彰は14日の総攻撃に参加するそうだ。我々はそれに介入して迎えに行く事は出来無い。」
Fin




