3章36話 車椅子の会議
「我が国は非常に危うい状況である。」
テーブルの中央に座る男をはそう言った。
「日本軍はパール・ハーバー以来快進撃を続け、とうとう我々の空母は1隻となった。更にはガダルカナル島の海兵隊員たちをどん底の恐怖に陥れ、苦しめている。」
テーブルに座る5人の男たちは真剣にその声を聞き入れる。
「それに加えドイツ軍の群狼戦術のように潜水艦を使い、輸送船を沈め、その被害は到底無視できる範囲では無くなってきた。」
右側に座る1人の男は冷や汗をかき始める。
「つい最近ではガダルカナル島近海で新型戦艦が2隻も砲撃戦によって沈められたらしいではないか。これについてはどう思うかね?」
中央に座る男の問いかけに答えようと、その男は立ち上がった。
名はウィリアム・ノックス。海軍長官である。
「それは完全な過失であります。しかし、現在駆逐艦及び護衛駆逐艦、護衛空母等船団輸送の護衛となる艦艇の建造を急がせております。エセックス級空母や新型戦艦もそろそろ一番艦が進水し、続々と同型艦も完成します。遅くても来年の3月から反抗作戦は開始できるかと。」
冷や汗をかきながらも説明を終えたノックスはどしりと席に座った。
「なるべく早く行いたい。建造を急がせる事は出来るかね?」
問いかけたのは副大統領のヘンリー・ウォレスだった。
その問いかけに今度は内務長官のハロルド・アイクスが答えた。
「西海岸と東海岸の全ての造船所に掛けあっております。人が足りず、採用試験で少し遅れているところもあるらしいですが、さほど問題にはならないようです。」
「我が陸軍も、反抗作戦に向けて準備を整えております。」
割りこむように言ってきたのは陸軍長官のヘンリー・スティムソン。
「新型の戦車や航空機が開発中ですが、来年の反抗作戦には間に合う予定です。」
「ならばよかろう。」
中央に座る男はさほど興味は無いといった口調で返事した。
この男は海軍派の人間で、その座につく活動を行なう前は海軍に従軍していた。
「例の計画は問題はないか?」
「今のところ順調でございます。」
答えたのは国務長官のコーデル・ハル。
ハルノートと呼ばれた最終通告書を日本に送った本人である。
「マンハッタン計画は現在ウランとプルトニウムの濃縮作業に差し掛かっています。しかしこれには多大な時間が必要で、少なくとも2、3年はかかるかと思われます。」
中央に座る男は窓へと移動した。しかし、その移動は何も知らない人間からしたら奇妙な動きだった。
立ち上がる事はなく、ゆっくりと滑るように動いたのだ。
その足は動く事はなく、腕を使って車輪を転がしていたのだ。そう、彼は車椅子に乗っているのだ。
「我が国は全力を上げて反抗に出る。降伏をしないのなら、計画は実行されることになるだろう。」
その男は、小児麻痺を患い車椅子生活を余儀なくされた第32代アメリカ合衆国大統領。
フランクリン・ルーズベルトであった。
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ルーズベルトはコーヒーをすすると、先程の会議をゆっくりと振り返った。
今日のコーヒーはいつにも増してうまい。昼食を食べてなかったので、付け合せとして運ばれたサンドイッチはルーズベルトの空腹を満たした。
サンドしているのはビーフにスクランブルエッグ。それぞれの間にレタスが挟まれ、それを両サイドからパンが挟む。
パンは丁度いい柔らかさで、すんなりと噛み切れる。ビーフはソースが香ばしく、スクランブルエッグは柔らかさがビーフの美味しさを引き立てた。
ソースがこぼれ落ちないように工夫されて挟まれたレタスはその役割を果たす。
「このサンドイッチの柔らかさのようにやすやすと戦争は終わると考えていたが……それは甘かったようだな。」
ルーズベルトは少し悔しげに呟いた。
これまででどれだけの同胞が亡くなっていったか、考えるだけで腸が煮えくり返るほどに日本軍が憎くなる。
パール・ハーバーのアリゾナなんて特にひどい。弾薬庫に直撃、大爆発をおこし、乗員が退艦する前に全員を浅い海へと引きずり込んでいった。
被害と騙し討ちを聞いた瞬間に激しい怒りを覚えた。こんなことは初めてだと。
そんなことを考えていると、ドアがノックされた。ランチの続きは後になりそうだ。
「入りたまえ。」
「失礼します。」
入ってきたのは副大統領のノックスだった。
「大統領にお伝えすることが出来ました。」
「サンドイッチの美味しさをより引き立てる朗報かね?」
「その逆です。」
ルーズベルトの顔は一瞬硬くなる。
「マンハッタン計画を知っている日本軍将校がいます。」
「なんだと!?」
驚きのあまり叫んでしまった。
マンハッタン計画は国家級機密事項である。ドイツに対抗するため、核兵器を作る計画だ。
「その将校は女性指揮官と同じような歳で、ハルゼーに捕虜返還の時にその計画の事で話をしたそうです。」
「何故一指揮官がそマンハッタン計画を知っているのだ?」
「原因はわかっておりません。ハルゼーは、その指揮官は未来から来たとほざいていたとしか言っておりませんでした。」
「未来から来ただと?バカバカしい。我がアメリカ合衆国は現実と理論の上で成り立っている。そんなもの認められるわけなかろう。」
「実際、コードトーカーの事も話されたそうです。」
「……!?」
ルーズベルトは驚愕した。
コードトーカーは軍事機密で、同じく国家級である。暗号は他国に絶対にバレてはいけないことだ。
それが日本のたかが一指揮官が知っている。
誰かが情報を漏らしたとしか考えられなかった。
「情報が漏洩したか、横流ししたとしか考えられん。直ぐに調査をしろ。」
「しかし……」
「調査をせぬか!!」
ルーズベルトは怒鳴りながら机を叩いた。
衝撃でサンドイッチは倒れパンからビーフとスクランブルエッグがはみ出し、コーヒーは少量が零れた。
「申し訳ありません。直ぐにとりかかります。」
ノックスはそう答えて大統領執務室を後にした。
ルーズベルトはコーヒーを入れなおし、窓の外を眺めながら一口すすった。
どういうことか、先程のコーヒーよりも苦く感じられた。
Fin
こんばんわ!松ちゃんです!
最近ある方の戦記ものを読んでますが、自分よりも遥かにレベルの高い作品でして心が折れるかと思うくらいに素晴らしい内容でしたw
自分もいつかそのくらいまで……!
さて、少しアメリカの内情を簡単ではありますが書いてみましたが……どうもこのような会議の場面を書くのは苦手です。
もっとうまく書けるよう精進します!
ではまた来週!




