3章34話~泥沼編~ 顔合わせ
彰がいない。
この事が南部軍(特に海軍)に伝わると大きな衝撃が走った。
南部作戦の総指揮官が消えただなんて最悪の言葉しか出てこない。
「全哨戒機や偵察機、暇してる艦艇にも捜索させろ!」
五十六の直々の命令で全部隊が捜索を開始した。
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ガダルカナル島では彰は辻に連れられ日本軍司令部に連れて来られた。
「海軍少将の大山です。」
「海軍さんが海に落ちたのか。笑いものだな。」
皮肉を言ってきたのは第11設営隊指揮官、岡村大佐だ。彼女は辻を見ると何故か顔をしかめる。
綺麗な黒髪を保ってはいるが、幾度の戦いで頬は汚れ、痩せ細っている。疲れが見え見えだ。
「第11設営隊の岡村だ。そこの辻中佐は本部からの増援の一人として送られてきた。参謀だとさ。」
どうやら岡村大佐は辻中佐を嫌っているらしい。何かあったのだろうか?
「貴官にはしばらくここで我慢してもらう。」
岡村大佐に案内されたのは1つのテント。どうやら優遇扱いらしい。
「ここまでしてもらって……恐縮です。」
「なぁに、海軍さんとはいえ貴方は上官だ。これくらいの心遣いは当然です。」
そう言ってくれた。
歳は自分よりも上なのに、階級がひとつ違うだけで敬語を使われるのはなんかこそばゆかった。
荷物の整理を(と言っても支給品だが)しようとテントに入ったところ、
「大山少将、少しよろしいでしょうか?」
と声をかけられた。振り返り返事をしようとすると、彼女の眼は先程のものとは違い真剣だった。
「玉砕……」
岡村大佐の話によると、辻中佐の提案する作戦は正面突破ただひとつで、例え一人だけになってでも突撃あるのみという危険なものだった。
ただでさえ生存者は400人足らず。弾薬も足りず、飢えに苦しんでいる兵を突撃させるなど非人道的だ。
(でも川口支隊はそれを行って失敗……大佐は生存者50名程を救助したと言っていたな。)
「なんとか辻を説得できませんか?」
思案に老けていると岡村大佐から説得を頼まれた。
確かに玉砕など俺は許さないだろう。でも今のこの時代の軍人教育は玉砕あるのみ。捕虜になるのは恥ずかしいことだと言われている。そんな相手を説得するのは骨が折れそうだ。
「話はします。最善を尽くしますが、最悪の事も想定しておいてください。」
少し曖昧な返事をすると、岡村大佐はまた後でとだけ言い残すとテントを後にした。
数分後、辻中佐のテントに向かい、呼びかける。
「大山です。お話があってまいりました。」
「大山少将ですか。なぜ敬語なのかは問いませんが、まぁ中に入ってください。」
中に入るよう促され、そのまま入る。私物は少なく、軍刀の手入れをしているところだった。
「それで、お話とは?」
辻中佐は軍刀を鞘に収めると彰に向きあった。
「今度の攻撃作戦のことでお話を……」
「恐らくですが、玉砕に反対してくれと頼まれたのですね?」
史実でも恐ろしい程頭の回転が早く、数々の作戦を立ててきたことは知っていたがまさかここまでとは思わなかった。
「お話を聞いていたのですか?」
「皆の様子を見ればわかります。」
観察力も高い。これを説得するのは骨が折れそうだ。
「ではお話が早い。要件はそのままの通り、正面からの総突撃に反対します。」
「貴方それでも帝国軍人ですか?」
……声が違う。
年齢などそんな垣根を超えた、何かを悟りそれをそのまま実行しているような声だった。
「と、言いますと?」
「私達帝国陸軍は最も強い部隊であります。何より夜襲による突撃は各国陸軍よりもずば抜けて強い。私達帝国陸軍に敗北などありえないのです。」
これが戦時の教育か……。
学校の授業で散々聞かされて知っているように考えていたが、いざその人間と話すと、そのうち感情的になってしまいそうだ。
「夜襲はともかく、正面からの総突撃を行うのは予想以上に危険です。最悪全滅し、その間に防備を固められてしまいます。今は少し弱いだけです。」
「すでに固し。敵の弾幕が少し薄いのはわかります。ジャングルも話しよりも深い。しかし、それに耐えられないのは大和魂が弱いからです。」
出た、精神論。
ふざけやがって……!
「時代は精神論では生き残れません。精神論で全てが片付いたら米軍も銃ではなくバヨネットで反撃します。」
「いいや、精神がたるんでるんです。誇り高き天皇陛下の為に、勝利を捧げるのにこんな体たらくでは自害でも償いきれない罪なのですよ。」
非常にめんどくさい。
たるんでるだの、天皇だの、そんなもので生きていける人間はいないぞ。
「ところで、貴方は誰なんですか?」
……質問の意味がわからなかった。
でも、その意図に気づいたのは次の質問だった。
「貴方は日本人であって日本人ではない。では何者ですか?」
……この時代の日本人ではないな。
そう言ってきているのだ。
「……もし日本人ではない日本人だとしたら、どうしますか?」
「国賊としてこの場で斬り捨てます。国を売ろうとするスパイなど、生かす必要がない。」
そう言って、日本刀に手を差し伸べた。
「……もし未来から来たとしたら?」
「ひどい演技だ。嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ!」
「辻政信。俺は玉砕など許さない。」
「スパイめ……!」
抜刀した。
その瞬間に刀を持っている手を左手で握り動きを止め、右手で腹を殴る。
辻はバランスを崩すと同時に十四年式拳銃をホルスターから引き抜く。セーフティーをオフにし、彰に向けて発砲。彰はぎりぎり回避した。
その十四年式拳銃を掴むと右手ごと関節とは逆方向に捻り手から銃を引き抜いた。
それを別方向へ投げ捨てる。
ちょっとした小競り合いを彰の圧勝で終わらせた。
「私の居合を止めただと……!?」
「今のはCQCだ。」
「は?」
「近接格闘の事だ。この時代の格闘術ではない。CQCが軍や警察の為に開発されるのはもっと先の話、少なくとも今後10年は存在はしない。」
辻は驚くも平静を保とうとしている。しかし呼吸は荒い。
それにしても軍艦に乗ってる間も筋トレや甲板上のマラソンを欠かさずやっててよかった。海兵さん相手にトレーニングもつんだ。
積み重ねって大事だなぁ。
「証拠がないのではどうも言えない。」
「証拠ならラエにあります。スマホと呼ばれる未来の通信機器を持っていますが、輸送作戦で使用しようとしたら電池が無くなっていたので置いてきました。信頼できる将校が持っています。」
「私にどうしろと?」
「玉砕の件を取り下げてください。なお、指揮は僕が取り行うと伝えてもらいます。」
「陸戦のことを知らない海軍さんが指揮を……?」
「さっきも言いましたが僕は未来から来た人間。陸戦など未来のやり方でやらせてもらいます。」
納得はしてないようだ。
それでも何かが納得しているような眼はしている。
「わかりました。指揮は任せます。」
「それでは後でまた会議室で。」
彰は何事かと駆けつけて来た岡村大佐をなだめながらテントを去った。
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辻はテントの中で拳銃をホルスターに入れながら彰の事を考えていた。
未来から来たとかいう戯言をほざき、挙句の果てに誇り高き陸軍の指揮を取るなどと言っている。統帥権の侵犯で軍法会議にかけたいところだが、今は出来ないので我慢するしかない。
……あの男はホッとしているようだが、私がそうやすやすと引き下がるはずがない。
必ずどこかで叩き落としてやる。
辻は彰を睨みつけながら不敵に笑った。
Fin
こんにちは。松ちゃんです。
日曜日、月曜日と諸事情により携帯が使えませんでしたので更新が遅れてしまいました。すいません。
誤字脱字がありましたら連絡をおねがいします。
それではまた次週。




