2章25話リーVS山本(後)
突如として旗艦サウスダコタを9本の水柱が挟むように立ち上がった。
「!?」
リー中将は驚きを隠せなかった。こちらはまだ射程外なのにその射程外から砲弾が飛んできたのだ。
「砲撃か!?」
「敵艦の砲撃です!夾叉されました!!散布界は半径150メートル!!」
「なんだと!?」
夾叉というのは艦の左右を砲弾による弾着が挟むことである。夾叉された艦は命中宣告を受けたも同然で、それほど正確な射撃が遂行されたこととなる。
さらに、夾叉された時に散布界が狭ければ狭い程次弾命中率は格段に高くなる。半径150メートルとなると、恐ろしいほどの散布界の狭さとなる。4万2000メートルも離れているのにここまで狭くするのはもはや神業とも言える技術だ。
「16インチ(およそ40センチ)でこんなに射程が長いのか!?」
「恐らく砲身が長いのかと…」
「そういえば超大型とはどうなったのだ!?」
「まだわかっていません。」
流石のリー中将も人生最大とも言える焦りを感じている。先制攻撃で、しかも夾叉を決められた。
(これはまずい……!!)
全艦に最大戦速命令を出し、急速に距離を詰めた。
「第一斉射は夾叉です。敵艦増速、次のデータが届きました。」
通信員が冷静に偵察機からの報告を読み上げた。大和の主砲は毎分2発。再装填中に次の目標への照準を定めるのだ。
「それにしても大和はほんとに凄いな…!」
彰は心から感想を述べた。
「我が帝国海軍が誇る秘密兵器だからね。これくらいはやってくれないと。」
あの山本も大和だけには相当な自信を持っていた。それだけの艦なのだろう。ふいに、第二斉射を告げるブザーがなった。
46センチ砲は衝撃がすさまじいため、乗員がその衝撃をもろにうけると圧迫死するのだ。それを避けるために射撃前にはブザーをならす。
大和は2回目の射撃を行った。その砲撃音はもはや爆発で、すぐ目の前で雷が複数落ちたように感じられた。
「敵砲弾、来ます!!」
リー中将はショック体制をとった。
弾着したのはサウスダコタの横にいたワシントンだった。ワシントンは運悪く2発被弾し、まるで16インチとは思えぬ被害にリー中将は唖然とした。
たった2発被弾しただけで艦橋は崩れ落ち、12.7センチ両用砲の右舷の2基が吹き飛ばされ、すぐ近くの弾薬庫に誘爆し機銃座複数含む右舷前部構造物をまとめて吹き飛ばした。
まさに阿鼻叫喚である。たった2発の砲弾により若干戦闘不能(指揮系統欠如により統制射撃が不可能になった)に陥ったのだ。こんな芸当最新艦であるアラバマでも不可能だ!!
いや、むしろアメリカの戦艦でこんなに恐ろしい威力と正確さを持った戦艦はいない!
「ジーザス!!」
リー中将に似合わない悪態をついた。それほど状況は最悪なのだ。
「射程は!?」
「あと少しです!!」
リー中将は早く射程に入ることを祈った。
――――――――――――――――
「長門、陸奥も射程に入りました。」
これで大火力による統制射撃が出来るようになった。ここからが腕の見せ所だ。
長門も主砲を旋回させ、陸奥も同様の動きを見せた。砲身は仰角いっぱいにとっているのがわかる。
3隻の戦艦は爆発とも言える砲撃音をならし砲弾を敵に送り込んだ。
「射程入りました!!」
「全艦撃てぇーー!!!」
米戦艦も射撃を始めた。米軍は水上レーダーによるレーダー射撃が行える。日本軍は光学照準器と観測データを利用するので精度は米軍と比べて落ちてしまう。
それでも腕の良い観測員のおかげでなんとかここまで持ってこれていたのだ。
米戦艦が砲撃を終えた頃、次の射撃の砲弾が飛来した。今度はさっきよりも数が多くなっている。
さいわいインディアナには命中弾が出なかった。砲弾はこのサウスダコタとワシントンを狙っているようだ。
ワシントンには46センチ砲弾が3発、41センチ砲弾4発。サウスダコタには46センチ砲弾2発に41センチ砲弾1発が命中した。
敵は明らかに16インチ以上の大口径砲を持った戦艦を引き連れている。その証拠にワシントンは第二主砲塔が貫通され砲弾が主砲塔内部で爆発。主砲塔内部はズタズタに引き裂かれ吹き飛ばされた。
あたり一面はススと人肉によって染められ、むしろ人はチリとなったに等しい。
運が良かったのか弾薬庫にはその衝撃がいかず、砲塔だけがやられた。しかし油断はできない、誘爆を防ぐため弾薬庫には注水が施された。
艦橋はただでさえボロボロなのに2発目の命中で完全に崩れ去った。3発目はその艦橋を通り越して後部甲板に煙突をかすめて命中した。
もはやワシントンは廃墟のような姿となり、後部甲板からは爆発による影響で火災が発生した。もちろん、艦橋も激しく燃えているが。
サウスダコタは艦橋は被弾を免れたものの、艦中央にくらった。
両用砲や煙突を吹き飛ばし、グチャグチャにした。そこにいた砲員や機銃員達は粉々に粉砕され、船の色を薄黒い鮮血で染める。
リーはそんな状況から逃げ出したかった。
しかし指揮官である以上そんなことは許されない。救助活動を急がせた。
これは砲撃戦じゃない。人で例えれば殴り合いだ。距離を取りつつ蹴り合い、そして近距離による殴り合いへと変貌していく。
その殴り合いとは実に恐ろしくなる。戦艦同士の殴り合いというのは日本海海戦がとても良い例だ。
世界最強と言われたロシア海軍のバルチック艦隊は戦艦の数が少ない日本海軍に戦術とバルチック艦隊の疲弊が味方して完膚なきまでに叩きのめされた。
バルチック艦隊は生存艦がわずか3隻のみだという。20隻以上、しかも戦艦だけで10隻近いのが戦艦1、ほか2隻だけになったのだ。戦艦同士の殴り合いというのはどちらかが完全に叩き潰されるまで続くのだ。
遠距離でこれなのに、2万メートルという近距離ではやりあいたくない相手が4万メートル先にいるのだ。
大和らは米戦艦の砲撃を1度目は避けた。しかし2回目はもちろんの事命中した。長門に2発、大和に1発だ。
大和はその自慢の装甲の威力を遺憾なく発揮した。主砲塔に命中したのだが数十センチへこましただけでガキンと恐ろしく鈍い音を響かせ弾かれた。その砲弾は海上で爆発する。
主砲塔の被害は中の電灯が笠ごと落ちただけだった。
長門は1発が後部甲板に命中。艦載機を吹き飛ばし軽い火災が発生した。2発目は後部艦橋に命中し炸裂、後部艦橋は完全に吹き飛ばされたはしたものの戦闘航行に支障はなかった。
お互いはどんどん撃ちまくった。その砲声はガダルカナル島で戦う両軍の兵士の耳に入った。特に大和の砲声は遠雷のように轟き、この世のものとは思えないほどだという。
日の入りも近く、特に海兵隊員はその戦闘を遠いながらも見ることができた。味方の戦艦が次々と被弾して煙と炎、さらには何かしらの残骸が吹き飛ぶのがわかる。
2時間も撃ちあうととうとう落伍艦が現れた。戦艦ワシントンだ。
ワシントンは艦橋が廃墟のようで、原型をとどめていなかった。煙突も吹き飛ばされ、艦中央の機銃座などは砲撃によってグシャグシャにされていた。 穴だらけで、あれが味方の戦艦とわかると海兵隊員達は自分の運命を悟り始めた。中には拳銃を頭に突きつけた兵員を別の兵員が止めるという事態まで発生した。
海でも陸でも米軍は大混乱になった。
既にワシントンは退避を始めた。
もはや戦闘力は無く、進路も塞がれているためガダルカナル島をニューブリテン島の方に向けて舵をとった。
奮闘していたインディアナも被弾し始め、今や廃墟が戦っているように見える。サウスダコタなんて沈まないのが奇跡のようだ。
日本軍も例外ではなく、大和は7発被弾。戦死者は200人を超えた。主に艦上構造物への被害が大きく、ズタズタに引き裂かれそして吹き飛ばされ、対空戦闘はまともに出来ない状況である。
長門は8発被弾。ビッグ7なだけあった沈まずタフさを見せつけているが傾斜が発生しているなど被害は甚大だ。ぱっと見大破であろう。
陸奥は運がよく4発しか被弾していない。つまり日本軍によるワンサイドゲームとなっていたのだ。
リー中将は舌打ちした。これ以上戦うと確実にやられる。退避を始めた。ワシントンは速度が低下しており、12ノットしか出せない。
総員を退艦させガダルカナル島に上陸、ワシントンは放棄という決定がなされた。事実上の沈没宣言である。
ワシントンからは乗員が海に飛び降りてガダルカナル島へと泳ぎ始めた。重傷者はボートに乗せられた。ワシントンは完全に行動を止めた。
インディアナとサウスダコタは取舵を取り、その場から撤退を開始した。大和らは追撃しようとせず、砲撃戦を終了。ガダルカナル島砲撃の任務に移った。
途中で放棄された戦艦を発見し、これを容赦なく大和らは砲撃によって撃沈した。米戦艦初の損失艦だ。
ガダルカナル島の兵員達は目の前で有軍艦を沈められた悔しさと復讐心を芽生えさせながらジャングルの奥地へと逃げた。
砲撃の巻き添えをくらわないためにだ。せっかく綺麗にした滑走路は再びメタメタにされ、カモフラージュして隠してあった戦闘機や艦爆が破壊され、複数ある弾薬庫は数戸が吹き飛ばされた。
隕石のように次々と叩きつけられ、弾着するたびに地震のような地鳴りがする。恐ろしい光景だった。
リー中将の初陣は完璧な敗北で終わった。しかし、彼女の不運はまだ続いた。
後、Fin
最後まで読んでいただきありがとうございます。松ちゃんです。
今日は初めてフレンドさんとモンストのマルチプレイをしました!まだ始めたてで、ランク1桁なので自分の弱さで笑ってしまいました(泣)
今回は(言葉にするのはあまり良い事ではありませんが)夢に見た戦艦同士の砲撃戦です。頑張ってその迫力や惨状を表したのですが、自信はないです。
次回は20日夜9時更新です!!




