2章21話 第2次ソロモン海戦(上)
ラエを出発した大和ら戦艦群は輸送船と共に珊瑚海に入りつつあった。
かつてのMO作戦では空母祥鳳が爆弾7発、魚雷13本を受けこの海に沈み、弔い合戦として空母対空母のはつの戦いがこの海で行われた。
珊瑚海にあまり相応しくない出来事であった。
輸送船は8隻。川口支隊は川口少将が率いている、戦艦大和を中心に長門、陸奥、扶桑、山城が輪形陣を組み、周りを軽巡2(天龍、北上)、駆逐艦10隻がとり囲むように戦艦群を守っている。
輸送船団はその後方50海里(約99.15キロ)に駆逐艦12隻に守られながらガダルカナル島へと向かっている。
第一戦隊は山本大将と彰、第二戦隊は高須中将が指揮をとった。
大和は初の実戦参加の為、射撃の際は長門からの諸元データを使い射撃を遂行する。いわゆる統制射撃だ。
武蔵は就役してから1ヶ月しかたっておらず、訓練や未搭載の兵装もあるため今回は見送られた。
彰は本格的な戦闘に正規参加するのは初めてだ。
(マニアなら一度は乗りたい大和にのってガダルカナル島を砲撃する。こんな体験転生したからこそできることだ…!)
「して彰よ。」
ふいに山本から声をかけられた。
「なんでしょう?」
「この戦い、君の世界ではどうなるんだ?」
「僕が来てからは流れが変わりましたので確実なことは申し上げかねますが、恐らく第二次ソロモン海戦と同じパターンなので龍驤が撃沈されます。」
「そうか…龍驤が……」
龍驤はもとは客船を改造した小型空母で、完成当初は小さな船体に巨大な格納庫と飛行甲板を載せたため非常にアンバランスな形となり、瑞鳳や龍鳳と言った改造空母よりも非常に不安定なシルエットが特徴的である。
時には台風の嵐で艦橋が圧迫され破壊されたこともある。大型空母と違い、艦橋はアイランド型ではなく船体に組み込まれている。
その上を飛行甲板が通っている形だ。
「現在建造中の大鳳と量産型の雲龍は今年12月には進水予定だ。量産型の基盤が整えば空母の余裕も出てくるだろう。」
「しかし長官……」
彰が答えようとした途端、山本は悪戯っぽく笑いながら人差し指を彰の口に塞ぐようにあてた。
「君には南雲くんと同じように親しくしてほしいな。」
「……?」
上目使いで迫ってきた。
(なんだこのラノベ的展開は!!ラブコメじゃあるまい!)
「六と呼んで欲しいな……。」
もじもじしながらまたもや上目使いで言ってきた。効果は抜群だ!!
(うぉあああああああああ!!なんなんだこれは!可愛すぎんだろぉぉぉ!!!)
彰は声を出さずに叫んでいた。はたから見たら危ない人間であることは間違いない。
「その…嫌だったかな?嫌なら呼ばなくても良いんだ。」
(ここで引き下がるのは男の恥!)
決心すると振り返って何事もなかったように笑みを作った。
「まさか! 嫌じゃないです。むしろなんか距離が縮まったような気がして嬉しいですよ!」
「ほんとかい?それなら私も嬉しいな。」
「そ、それじゃぁ…り、六。」
「〜~~~~~~~~~~~~~~~!!」
山本は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
あれ?なんか悪い事したかな?
なんて思ってみたり。
『イチャイチャしやがって俺らの目の前で…。』
『いつか海に叩き落としてやる…!!』
『射撃の的でもいいぞ…?』
あれ?なんか周りの視線が痛いような。まぁいっか。
相変わらず山本は顔を赤くしていた。
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戦艦群よりも先に出発した南雲機動部隊はガダルカナル島に向けて進軍していた。第二機動部隊が空襲に専念し、第一機動部隊は敵機動部隊発見の際攻撃できるように待機している。
第二機動部隊は角田中将が指揮を取り、ソロモン海を通って通称ガダルカナル水道を通ってガダルカナル島へ向かう。
つまりソロモン諸島の狭い海域を通るため航空機に狙われたら危ない。その為龍驤には多めに零戦が載せられている。
この零戦は新型の三二型で、航続距離増加と翼端を短くして旋回能力も高まっている。飛鷹には零戦はもちろん新型の試作機10機が搭載されている。どのような成績を残すか楽しみだ。
南雲中将率いる第一機動部隊はガダルカナル島の目の前にあるマライタ島の北、太平洋側を通り戦闘に備えている。
第二機動部隊によるガダルカナル島空襲が始まった。零戦20、九九艦爆20、九七艦攻18だ。九七艦攻には800キロ爆弾を搭載させた。
更にブイン飛行場から零戦28、九九艦爆30、九七艦攻28が空襲に参加した。
総勢134機だ。ガダルカナル島の飛行場からはF4F20機、P-40ウォーホーク36機が迎撃の為に舞い上がった。P-40は型が古く、格闘戦にはめっぽう弱い。
零戦に勝っているのは圧倒的な防御力と速度だけだった。
たちまちガダルカナル島上空でまるで航空ショーのような入り乱れた格闘戦が始まった。
F4Fは零戦とほぼ互角のおかげで善戦しているがP-40は次から次へと叩き落とされている。
その合間を縫って艦爆隊と艦攻隊が爆撃を開始した。艦爆隊は小隊ごとに一本棒になって燃料タンクや滑走路に爆弾を叩きつけた。
たちまち燃料タンクは爆炎をあげ、滑走路には大穴が空いた。対空火器は艦攻隊の水平爆撃で破壊し制圧を行っている。
しかし、一回の空襲では意味がない。アメリカ軍は恐ろしいほどの修復能力を持っている。
事実、珊瑚海海戦で大破したヨークタウンはハワイで1ヶ月半で完全ではないが戦闘に参加できるまで修復された。
アメリカ軍の国力を物語るスピードだ。
そして今、エセックス級空母が建造されつつある。これは現在15隻もの建造が決定されている大型量産型空母で、一番艦エセックスは来年1月に就役する。
早くて4月辺りには太平洋に姿を現すだろう。アメリカはこうした大量生産が大得意としている。史実では護衛空母カサブランカ級は同型艦が50隻もあり、就役時期を考えると1ヶ月で1隻就役している事になる。恐ろしいほどのスピードだ。
やがて日本軍が追い詰められたのはこの圧倒的な国力の差である。
しかし今は日本軍が優勢である事に間違いはなかった。
フレッチャーの第16任務部隊はマライタ島に向けてオーストラリアから出撃した。
第17任務部隊(スプルーアンス指揮)は既に出撃している。そして今回、急遽参加が決定した後方支援部隊がいる。ウィリス・"チン"・リー中将の戦艦部隊だ。
リー中将は戦艦用法に特化したプロフェッショナルで、戦艦同士による殴り合いをしてみたいと話していた。
その機会が今回訪れるかもと意気揚々で出撃したのだ。リー中将が率いるのは第61任務部隊で、戦艦ワシントン、ノースカロライナ、サウスダコタ、インディアナの4隻を中心とする艦隊だ。
ノースカロライナ級一番艦であるノースカロライナは全長222.2メートル、排水量4万2000トン、速力28ノット出せる戦艦で、同型艦にワシントンがいる。サウスダコタ級は全長207.29メートル、排水量4万4374トンで、同型艦にインディアナと他二隻いる。今回はサウスダコタとインディアナだけだ。
この戦艦は4隻とも40.6センチ3連装主砲を3基搭載している。アメリカ軍はパナマ運河の制限にしばられこれ以上大口径の主砲を積めないのだ。それでも40センチは長門型に準ずる口径で、大和といえど数十発単位では致命傷になりかねない。
……といっても、大和は自身の持つ主砲にも耐えられるように装甲が施されているが。
空母の護衛として随伴するこの米戦艦群が、後に大苦戦することはこの時誰も知らない。
そして、空母と戦艦によるまさに殴り合いがこのソロモン諸島で起きようとしていた。
上、Fin




