2章12話 秘めた想い
「いっつつ…。何も本気で殴らなくても…。」
彰は手に残る南雲の胸の感覚を懐かしがりながら廊下を部屋へと向かって歩いていた。
「それにしてもでかかったな…。」
あの大きさは本物だぜ…!!
彰の目から一筋の光が流れた。
「それにしてもレベルの高い子が多いな…子って言っていいのかな?」
背中に何か寒気を感じながらそう考えていた。
見るからに同い年か1つ上の見た目なのだ。軍人とはいえ、何も知らない人から見たら普通の女の子だ。
「……難しいなぁ。」
部屋の障子を開け部屋に入り、布団の前にある世界地図を見た。この地図は小松に頼んで持ってきてもらったものだ。
「次の戦いはガダルカナル島。来るとしたら間違い無くオーストラリア経由で来る。でも今の機動部隊にはそこまで展開できる能力はない。戦艦で叩くにしても航空機の援護無しには危険すぎる…んーー。」
ソロモン諸島。それは、南太平洋のメラネシアにある島嶼群で、大きく分けてガダルカナル島があるニュージョージア諸島とサンタクルーズ諸島にわけられる。オーストラリアの北東にあり、100余の島々が存在する。赤道に近いため険しい火山と熱帯雨林に覆われている。マラリアも流行しやすく、現地の日本兵はキニーネという薬を服用するようになっている。
しかしこの薬は恐ろしく苦く、しかも副作用で頭痛や目眩、吐き気に嘔吐、食欲不振など酷く、内臓もやられるため飲まずに捨てる者が多くマラリアに感染する兵士が跡を絶たない。
そんなソロモン諸島も恐ろしいだけではない。ポポマナセウ山は標高2440メートルといった、南太平洋最大の山や、まず見ることは出来ないであろう様々な鳥。海はとても綺麗で、兵士は暇があると必ず海に行って珍しい魚を見に行くという。
そんな素晴らしい島で、血みどろな戦いがこれから起こるなんて想像もしたくない。
「なんとかならないかな……。」
今のままだと、まず間違い無く史実通りにことは起こる。阻止するにはなにか手段を選ばなければならない。
「………ん?もう12時か。そろそろ寝るか。」
彰は電気を消すと布団に潜り込んだ。疲れが溜まっていたのか、意識はすぐに無くなった。
「……んん?」
2時すぎ。布団の中に違和感を感じた彰は、目を少しずつ開け始めた。
「なんだ…??」
体を起こした彰は起こすのをやめた。
目の前の南雲と目があったからだ。
「〜~~~~~~~~~~~!!??!?」
「しーっ!皆起きちゃうでしょ!?」
言葉にならない叫びを南雲は口を塞いで防いだ。
「ちょっ、え!?なんでここに!?」
声を殺しながら怒鳴るのは難しい…。
「その…は、話が!その…あって……。」
南雲は何故か知らないが頬が赤かった。
「話って?」
「その、ご飯の時も言ったけど…ありがとう。」
「…それだけ?」
「ばっ!ち、違うわよ!」
こほん。と、咳払いをすると決心したかのように彰を見た。
「あんたがいなかったら…、私。あのまま死んでたかもしれない。多聞丸はあんたの知ってるとおりに死んじゃった。それが避けられない運命なら、私は納得するしかない。でも、私を助けてくれたあんたまで、失いたくないの…!」
「………」
気のせいだろうか。彼女の吐息は荒く、目も少し潤んでいる。そして、顔も赤い。
「その……。私、あんた…彰に、側にいて…欲しいの………。」
内容的に告白だった。
!?!?!?!?!?!?!?
中将という将校様が俺に告白だと!?
ここはラノベの世界か!!!
彰は心の中でツッコミを入れていた。
「彰…?」
「へ?」
「いや。なんでもない。いきなりこんな事言われても…困るよね?ごめんね?変な事言っちゃって。」
南雲は諦めた顔をして布団を離れようとしたが、彰はその腕を掴んで止めた。
「……彰?」
「迷惑なんかじゃない。」
「え…?」
「俺は突然この世界に来てわけがわからなかった。目の前で大勢の人間が死んで、未来から来て史実を知っているのにも関わらず君の幼馴染である山口多聞を死なせてしまった。あの時、俺は何もできなかったのが悔しかった。」
「彰……。」
彰は話を続けた。
「南雲さんの今の申し出は嬉しかった。何もできない俺を、頼りにしてくれた。未来を知っているとはいえ、未来を変えられるのは俺達人なんだ。恐らく、戦況は変わってくるだろう。それでも必要としてくれる人が目の前にいる。俺は、それを断ることはできない。何より、なぐ…君達を死なせたくはない。見殺しにはしたくないんだ。俺は……貴女の最後を知っている。」
彰の言葉を聞いて南雲は息を呑んだ。
「どんな最後なの…?」
「…それは言えない。さっきも言ったが、未来は変えられるんだ。僕が来たことによって、全滅するはずだった機動部隊は蒼龍を失っただけですんでいる。それはもう既に歴史は変わっていることになる。という事は、君の最後を変えられるかもしれないんだ。だから、言えない。いや、言わないんだ。」
彰は真剣に話をした。
「わかった。彰がそう言うなら、私はそうなるように彰のアドバイスを聞くね。」
「その。さっきの事なんだけど、俺も良ければ君のそばにいさせて欲しい。」
「………え?」
突然の返答に南雲は驚いた。
「俺は、この知識を持って君を守りたいんだ。」
「私を守ってくれるの?」
南雲の目が潤んでいる。恋する乙女のようだ。
「ああ。そうだよ。」
「彰……!!」
南雲が胸に飛び込んできた。彰には妹がいた。2つ下だ。その妹は、急性白血病で彰が中学2年の時に他界した。今の彰には、南雲が妹に見えたのかもしれない。
彰は静かに南雲の頭を撫でた。
守ってみせる。この理不尽な戦争から、彼女を。
Fin




