イケメン社長からキスのご褒美をいただいたので、ホテルに行く事にしました。
アワード会場からタクシーで数分。
一ノ瀬さんに連れられて来たのは、私がクビになったあの日、ただ一人で泣き崩れたあの小さなバーだった。
「2人でちゃんと話すのは、あの面接の日以来だね」
一ノ瀬さんがグラスを傾けながら、優しく微笑む。あの時はただの「救世主」にしか見えなかった彼が、今は私の隣で、一人の男として私を見つめている。
「……はい」
グラス越しの照明が、私の目に溜まった涙を反射する。一ノ瀬さんは私の手の上に、自分の大きな手を重ねた。その体温が、半年間必死に戦い抜いてきた私の心に、じわりと染み込んでいく。
「君は誰よりも有能で、誰よりも繊細だった。あの会社は君の価値を理解できなかっただけだ。……僕は君を誰よりも高く評価しているし、それ以上に、一人の女性として、君のことが愛おしい」
彼の言葉は、まるで魔法のようだった。ずっと欲しかった、けれど誰からも与えられなかった「承認」と「愛」。そのすべてが、彼の瞳の中にあった。
会計を済ませ、店の外に出ると不意に、一ノ瀬さんの顔が近づく。
迷いのない口づけが、私の唇を塞いだ。それは、これまで私を貶めてきた男たちの、下卑た視線とは全く違う。尊重と情熱に満ちた、大人の接吻だった。
「……失礼した。つい、感情が溢れて……気を悪くしないでくれ」
離れ際、彼が少し困ったように微笑む。私は、その優しさに胸が張り裂けそうになった。
酔いのせいではない。彼を心から求めているのだと、確信した。
私は彼の首にそっと腕を回し、今度は私から、彼にもう一度口づけを落とした。
「……悪くなんてない。もっと、触れてほしいです」
二人の距離が、完全に溶け合っていく。
だが、その光景を偶然見ていた人間がいた。
近くの路地裏に身を潜めていた澤田美穂だ。
彼女は、一ノ瀬と私がキスを交わす姿を凝視していた。彼女の瞳は嫉妬に毒され、見るも無惨に歪んでいる。
「なんで……なんでよ」
美穂の唇から漏れたのは、祈りではなく呪詛だった。
あの地味で、言いなりで、自分を支えるための道具だったはずの如月莉緒が、なぜあんなに輝いているのか。なぜ自分だけが、泥の中に突き落とされたままなのか。
理解できない。認められない。
彼女は激しい嫉妬に身を焦がし、拳を強く握りしめてその場を去った。
その夜、私は一ノ瀬さんと高級ホテルのスイートにいた。
窓の外には東京の夜景が広がっている。
そこには、前の会社で味わったような焦燥感や、理不尽な重圧は一切ない。ただ、互いを慈しみ、高め合うための静かな時間が流れていた。
私は、私が選んだ新しい人生の頂点で、極上の幸福に包まれていた。
一ノ瀬さんの愛撫は温かく、マシュマロのように柔らかかった。私を丁寧に、丁寧に扱ってくれる。
大人の余裕たっぷりのキスに、私はビショビショに濡れた。
こんなにも幸福に満ちた愛撫がある事を私は初めて知った。
丁寧な前戯。甘い言葉。止め処なく溢れ出る自分の愛液に私は興奮していた。
一方、同じ東京の夜。
美穂の足取りは、ネオンが乱れ飛ぶ歓楽街の路地へと向かっていた。
彼女は、先ほどの怒りと惨めさを紛らわせるために、手当たり次第に店を物色していた。
一ノ瀬さんという「本物」を手に入れた私と対照的に、彼女は適当なナンパ男の軽い誘いに、簡単について行ってしまった。
たどり着いたのは、埃っぽい匂いが鼻を突く、場末のカラオケ店の一室だった。
薄暗い照明の下、美穂は男に身を任せる。それは、愛情の交換などでは決してなかった。自分の価値を証明できない彼女が、手っ取り早く「必要とされたい」と願う、空虚で自傷的な行為だ。
タバコの煙と、湿った歌声が混ざる狭い密室で、彼女は男にフェラをし、胸を弄られ、雑に抱かれ、腟内に射精される。
しかし、行為が終われば、そこに残るのは惨めな虚脱感だけだ。彼女の腟内から精液の残りが白い筋をひいて出てきた。
男は用が済めば早々に帰っていき、後に残されたのは、飲みかけの安い酎ハイと、自分が誰にも求められていないという残酷な事実だけ。
美穂はソファにうずくまり、膝を抱えた。
さっき見た、あの幸せそうな私の顔が、脳裏から離れない。
「どうして……」
彼女の涙は、誰を慰めることもなく、ただ汚れた絨毯に吸い込まれていった。
彼女が捨てたはずの「雑用係」の輝きは、もう二度と彼女の手には戻らない。




