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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第五章犠牲と運命
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第92話最も美しい記憶

「アタシの顔になんか付いてる?」


俺は彼女をしばらく見つめていた。

耳から聞こえる心臓の鼓動は、忘れるはずもない懐かしい響き。

匂いも太陽のような香りがして、ソッと手を掴むと、本当に生きているように温かかった。


「あ、あのー……」


彼女は頬を赤らめ、恥ずかしそうにチラチラと俺の目を見つめてくる。


俺は彼女を殺した。

呪いを解く為に、俺は自ら選択をして殺した女性。

俺の復讐という欲望で―――

自ら死を選んだ大切な人。


「リリス……なんだよな」


「うん?」


リリスは不思議そうな目で見てくる。

俺は家の周囲を見渡すが、あの時と何も変わってない。

リリスの横を通り過ぎ、そのまま家を出て砂浜へと歩き出す。

波は押して行き、引いていく。

波の海水に触れると、しっかりと濡れて靴までびしょ濡れになってしまった。


「ちょっとちょっと、何してるのさ」


兄であるザビエクがいるであろう、隣にある家には、誰の気配も感じなかった。


「カーイ。覚えてる?アタシが家を抜け出して、カイに捕まえられたところ」


後ろから着いて来ていたリリスは、俺の足元に指を差す。


「ああ、覚えてる」


「懐かしいねー」


リリスは俺の隣に立ち、昇ったばかりであろう太陽を見つめる。

明るいが眩しくなくて、肉眼で確認できるぐらい丸い。


リリスは俺から離れ、家へと戻って行く。

なぜだか分からないけど、二度と会えないと感じた俺は、急いで後ろを振り向いて走り出した。


「さっさと靴着替えて。早く行くよ」


そこには当然のようにリリスがいて、急に走り出した俺を変に見つめる。


「何処に」


「酷っ、アタシ買い物に行きたいって言ってたよね」


不貞腐れた顔は懐かしくて、無意識に笑ってしまった。


「……そうだな」


「なに笑ってんの?」


一度家に戻り、俺は靴と靴下を履き替える。

リビングへ戻るとリリスは私服に着替えていて、跳ねている髪を梳かす。

それから軽く化粧をしていて、俺はソファーに座って待っていた。


「よし。んじゃ、行こっか」


家を出てリリスに連れられた場所は、見慣れた都市部だった。

通り過ぎて行く人々は、本当に生きているかのように見える。


窓越しから見える店内で食事している、友達と一緒に食べている学生や、男女、みんながみんな、いきいきとしている。


「そういえばリリス。お前、指名手配されてんのに大丈夫なのか?」


「えー、なにそれ。何年前の話してんの?もう昔の事だから、超都会に行かない限り平気だって」


リリスは食材を買いに商店街を転々として行き、荷物持ちである俺の手は塞がっていく。


「あっ、そうだ。約束、忘れてないよね」


前にいたリリスは、振り返るとイタズラしてきそうな邪悪な笑みを浮かべながらそう言ってきた。


「忘れないさ」


俺達の横には、宝石店があった。

そこには青く輝くサファイアの指輪がある。


「この首飾りもお揃にしてみる?」


リリスはサファイアの首飾りを指で引っ掛けて見せてくる。


「それはお前だけの物にしとけ」


そう言うとリリスは笑顔を見せて、隣にやって来ると腕に抱きついて来た。


「はいはーい。一週間分買えたし、お家に戻ろっか」


俺達は自分の家へと戻って行き、都市部から離れて砂浜を歩いていた。

もう何時間経っただろう。

前にいるリリスの背中を見つめ、俺はふと立ち止まった。

それに気が付いたリリスは、心配そうな顔をして近づいてきた。


「どうしたの?」


俺は手に持っていた両手に荷物を離す。

折角買った食材や日用品が転がり、濡れて、傷んでしまう。


「リリス、俺は……お前を殺してしまった」


言ってはいけない。

言ってしまったら、この夢が覚めてしまうかもしれない。

でも、俺を待っている人がいる。


俺は恐怖で目を瞑ってしまった。

すると、温かい感触が頬に触れ、俺は恐る恐る目を開ける。

そこには、俺の頬に手を添え、優しい表情をしたリリスがいた。


「アタシは怒ってないよ」


「でも、俺は――」


罪悪感で涙が出てくる。

幻だと分かっているのに、目の前にある現実のような感覚に、飲み込まれる。

だが、そこに敵意は微塵も感じれなかった。


「アタシが死ぬ前にも言ったでしょ?大丈夫だって」


「それに、大切な人ができたんでしょ?いつまでもアタシを引きずってないで、今はその子を大切にしなきゃ」


自分が大きくなったのか、いつの間にか小さくなってしまったリリスに胸を優しく殴られた。


「アタシはずっと、ずーっと前から許してる」


「今度はカイ、自分を許して上げて」


静かに、でも確かに、ゆっくりと背景が白い霧に覆われていき、リリスは眩しい光に包まれていく。


「リリス―――!!」


そう叫んだ頃には、目の前は暗黒に閉ざされていた。

次第に、視界が開けていく。

懐かしい潮風の香りは、やがて血生臭い匂いへと変わる。


「ごはっ……」


口に溜まった血を吐き出し、跪いていた体を起こす。

全身剣で斬られたかのような傷が走っていて、目の前を見ると、同様血だらけのハンが戦闘態勢を取っていた。


右目が……


手で触れると、右目が切られて裂けている。

ハンの糸で斬られたのか……


ゆっくりと視線を左に向かせると、そこには立って退屈そうにしているゼルヴァインがいた。


「はあぁぁあ!!」


ハンは声を上げ、俺に向かって走ってきた。

フラフラと向かってくるハンを躱し、ハンは壁に衝突して地面に倒れた。


「ころ、してやる……」


ハンはゆっくりと、折れた左腕を垂れさせながら立ち上がろうとする。


今はゼルヴァインに背を向けている。

それに、ヤツは俺が幻から目を覚ました事に気付いちゃいない。


俺は治癒スキルを使い、右目を治す。

両目を取り戻した今、俺はハンに向けて拳を突き上げ、短剣を生成した。


短剣は、ハンの頭に向かって振り下ろされる。


「やっとか……」


ゼルヴァインが口角を上げ、笑みを浮かべて油断した瞬間―――振り下ろした短剣はハンの頭を横切り、背後にいるゼルヴァインへ振り返る。

上から下へ……勢いをつけて放たれた短剣は、ゼルヴァインの左目を突き刺した。


「貴様ッ……!!?」


ゼルヴァインは重厚なマントに隠していた剣を引き抜き、構えた。

ゼルヴァインは剣に魔力を込め、振るう。

刃からは青白い魔力の波動が放たれ、俺は体勢を傾けて躱す。

距離は十数メートル。

 

ゼルヴァインは距離を詰められないように、魔力の波動を飛ばし続け、俺は幾度も回避をし続ける。


が―――


幻が再び襲い掛かり、視界が歪む。


「グフッ!!」


魔力の波動が腹にめり込み、内蔵が潰されたような激痛が走った。

波動は勢いを知らず、真っ直ぐ飛び、それに巻き込まれ続けた俺は壁に激突した。


「やはり、貪食は侮れないな……!」


ゼルヴァインは左目に深く刺さった短剣を容赦なく引き抜き、治癒スキルで回復させた。

ゼルヴァインは大きく魔力を消耗させたのか、激しく息切れを起こしている。

地面に倒れた俺は立ち上がろうとするが、全身の傷口から血が吹き出し、呆気なく地面に倒れる。


「しかし、我の幻の前では貪食など赤子のようなモノよ」


ゼルヴァインは剣に強く魔力を込める。

特殊な紋様が刻まれている剣の溝は、青白く光り始め、あまりの強さに剣にヒビが入る。


「魔法帝よ、仇は取ったぞ」


ゼルヴァインは剣を上に掲げ、振り下ろす。

しかし、剣はゼルヴァインの手から落ち、剣はゼルヴァインの後ろへ飛んで行った。


「カイ……!」


十メートル先で剣を構えるゼルヴァインに向かって、正気を取り戻したハンは、右手でスキルである糸を出し、剣を巻き付けて引っ張り落としていた。


「ハン!避けろ!!」


ゼルヴァインは立ち上がろうとしているハンの折れた左腕を掴んで、無理矢理立ち上がらせた。


壁に血が走る――

ゼルヴァインは右腕を突き出し、ハンの鳩尾を貫いた。


「はがっ……!!」


ハンは苦しそうに悶え、引き抜こうと弱々しく右手を、ゼルヴァインの腕に添える。

ゼルヴァインは貫いたハンの体を持ち上げ、俺に向かって投げ捨てた。


「アルベルト、君も私が魔法帝を失った気持ちが少しは分かったか?」


ハンは床を転がり、俺の目の前で止まる。

胸の風穴からは血が止まらない。

立ち上がろうとしている、俺の右手にハンの流れてきた血がベットリと付く。


「は、ハン」


自分でも聞いた事もない声だった。

こんなに自分が無力だと知ったのは、何時だろうか。


俺が治癒スキルをかけようと手を伸ばすと、ハンは俺の手を叩き落とした。

床に強く当たったその手は、もう動かなかった。


「ゼルヴァイン……」


「ゼルヴァイン!!!」


俺は全魔力を使い、できる限りの傷をすべて癒す。

そして、怒りを力に変え、俺は走り出した。

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