↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第五章犠牲と運命
92/96

第91話安らぎという名の地獄

ハンは俺を引き上げ、立ち上がらせてくれた。


「カイ、そんな顔すんなよ」


ハンは俺の背中を叩いて、不器用ながらも彼なりの励ましをする。


「ゼルヴァインがわざわざやって来てくれたんだ。俺達が勝つか負けるか分からねえ、裁判に挑む必要はなくなった」


「さっさと終わらせようぜ、カイ」


あの日、俺が初めて監獄に入れられた日。

最初にこう話し掛けてくれたのは、ハンだった。


「だな」


俺はハンの前を立つ。


「他のみんなは?」


「俺が幻覚から気付いた時には、誰もいなかった」


俺は辺りを見渡した。

青い松明の火が揺れるたび、廊下の奥に続く影が生き物のように蠢いて見える。

床には薄く水が張っていて、足を動かすたびに小さな波紋が広がった。


「ハン、ゼルヴァインのスキルは幻覚を見せるものだ。注意しながら進むぞ」


「ああ」


俺は聴覚を変化させるが、何も聞こえない。

何かがおかしい……そう思った俺は壁を強く叩く。


「音がしない、幻帝が対策の為に何か仕掛けやがった」


「だったらどうするんだ」


「まだ方法はある」


俺は目を閉じ、嗅覚を変化させる。

湿った石の臭い。

燃え続ける油の臭い。

そして――微かに混ざる、鉄のような血の臭い。

 

「……こっちだ」

 

俺が歩き出そうとした瞬間、ハンが俺の肩を掴んだ。

 

「待て」

 

「なんだ」

 

ハンは前方を睨んでいた。

 

「カイ、お前……今、普通に前に進もうとしたよな?」

 

「何言って――」

 

言いかけて、俺は気付いた。

俺の足は、いつの間にか"壁"に向かっていた。

あと一歩踏み出していたら、そのまま壁に頭から突っ込んでいた。

背筋が冷たくなる。

 

「……幻覚か」

 

「いや、それだけじゃねぇ」

 

ハンの額から汗が流れる。

 

「この城、俺達の認識そのものを狂わせてやがる」

 

その瞬間――

青い松明が、一斉に消えた。

 

暗闇の中、どこからかゼルヴァインの声が響く。

 

「素晴らしいな」

 

「友情、信頼、絆……人はそういうものに価値を見出す」

 

「だからこそ――壊し甲斐がある」

 

次の瞬間、ハンの表情が凍り付いた。

 

「……母さん?」



----



「チクショウ……あんな趣味悪いもん見せやがって……」


ニコは返り血にまみれながら、足を掴んできた刺客の男を蹴って解いた。


カイもいねぇし……みんなの気配も感じない。


迷路のような廊下を進んでいると、目の前の角から一人の男が歩いてきた。


アイツ……!!


軽装に見えるが、特殊な加工をされていて、刃物を通さない装備を着ている。

手の平から生成したコインで手遊びをしていて、ニコを見た瞬間、指で弾いてコインを飛ばした。


コインは壁同士を跳ね返り、ニコの足元に摩擦の煙を立てながらめり込んだ。


「よお、ニコ」


男は満面の笑みでそう言った。


「また会えたな」


「ベンジャミン……!」


ニコは思い出す。

何も見えない暗闇で突如襲われ、腹を切り裂かれた事を。

完治したはずなのに、ニコは痛みで腹を抑えていた。

恐怖で脚が震え、呼吸が荒くなる。


やがて、ベンジャミンはニコの目の前まで近づいていた。


「ニコ、俺はお前を殺すつもりはない」


「なん……だって?」


ベンジャミンは両手を上げて、ニコに背中を見せた。


「ここにいるのは、俺みたいな壊れた奴らばっかだ。そこにいるルゼとかいうヤツもそうだ」


ニコは札を操り、ベンジャミンを札で囲んだ。

そんなニコを感じてベンジャミンは、冷静に説明する。


「アルダ、静の事は安心しろ。まだ死んでない」


「幻帝――ゼルヴァインは、カイを殺す為、今向かっている最中だ」


ニコは少し警戒を解いて、ベンジャミンを囲んでいた札を、バックへとしまった。


淡々とベンジャミンは説明しながら、ニコの後ろへ、両手を上げながら移動し、札で斬られて気を失っているルゼの首に、背中に付けていた投げナイフで掻き切った。


「お、お前……何がしたいんだよ!見え見えな演技なんだよ!」


ベンジャミンの異常な行動に、ニコは恐怖を感じて札でベンジャミンの両手を拘束し、首に札を当て、ベンジャミンの首から小さく流血する。


「一つ、ゼルヴァインのスキルの弱点を教えてやろう。それは周囲に出す胞子による幻覚だ」


「俺はカイのスキルである貪食で、その胞子を常時食い潰している。おかげで、スキルは使えない」


「お前が言ってるその情報、それが事実だって証拠はないだろ」


ベンジャミンは笑いながら答える。


「確かにそうだな。でもな、俺は気付いた」


「お前とカイの関係性……俺はそれを手に入れる事が出来る。愛し、愛され、支え続けられる存在」


ニコはベンジャミンの言葉を遮って言った。


「カイからお前の事は聞いてる……。どうせ、自分が狙ってる獲物(カイ)をゼルヴァインに取られたくないんだろ」


「分かってくれるなら話が早い。カイをゼルヴァインから助けたいなら付いてこい」


「待てよ」


ニコはベンジャミンの肩を掴み、壁に叩きつけた。


「まず先に、アルダと静を助けろ」


「それは断る」


「条件だ!その二人を助けたら、カイを殺してもいい」


「恋人のお前のことだ。俺がカイと対峙したら止めるつもりなんだろ?」


「ふざけんな。カイを利用しようってのが気に食わねぇ」


「それに当たり前だろ。でも、確実にカイを殺せるチャンスをあげてやるんだ」


ベンジャミンはニコの必死の表情を見て、鼻で笑った。


「そうだな。俺は善人だ。人助けをしてやる」


ニコはベンジャミンから離れて、札で脅しながら黙って道を進むベンジャミンに着いて行く。


「嘘だったらすぐに殺してやるからな」


「フンッ、襲ってきた男を殺せもしなかったのにか?」


ニコはルゼの死体を飛び越える。


「お前とコイツじゃ、扱いが違う」


ベンジャミンは眉を上げて、軽々と答えた。


「今から助けに向かうのはアルダだ」


「早く進め!」


ニコは札を操り、ベンジャミンの首に当てる。

ベンジャミンに対して妙な気分を感じながらも、ニコは黙って着いて行っていた。



----



ハンは目の前にいる母に目を奪われていた。

村でもない、ただ離れた場所に建てられた家。

森に囲まれ、母と二人の暮らしだったが、何不自由もなかった。


母が笑い、勉学で間違った箇所を修正する。

学校には行かなかったが、それでもハンは楽しかった。


しかしある日、母と自分は帝の手下である警備隊に捕えられた。

それは、母が西の地では見ない東洋人だったからだ。

この当時差別が多く、母は遊ばれた際に殺され、まだ若い自分は奴隷として働ける為、配属が見つかるまで監獄に入れられていた。


そんな亡き母を見てしまったハンは、戦闘どころか戦意自体を無くしていた。


「ハン!目ぇ覚ませ!お前まで取られてんじゃねぇぞ!」


魂が抜けたように立っているハンの顔を殴り、ハンはゆっくり瞬きをして俺を見つめた。


「か、母さん……」


俺はハンを置いて、ゼルヴァインに接近する。

短剣を生成し、ゼルヴァインに向けて振り下ろす―――

振り下ろした刃の先にいたのは、ゼルヴァインじゃない。

放心したまま立つハンだった。

刃はハンの頭を通り過ぎ、壁に刺さっていた。


「!?」


「貪食……私の幻を、もう防ぎ掛けているとはな」


「しかし、意味はない。人はいつだって安らぎを求めるのだから」


俺はゼルヴァインを見つめ、そこにいると狙いを定める。

ゆっくりゆっくり、一歩を踏み出し、ゼルヴァインに近づく。


「ゼル……ヴァイン!!」


気が付けば、俺は浜辺の近くのとある懐かしい家の中にいた。

窓から入る潮風は、滑らかなカーテンを揺らし、俺の頬をくすぐる。


「ねっ、カイ、なにボーッと突っ立ってんの?」


心配そうだが、こっちをからかってくるその言葉遣い。

青い宝石のようなその瞳は、明らかに"彼女"であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。