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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第四章贄の儀式
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第82話未完の決着

ヴァルグはゼルヴァインの前に立つ。


「……アルベルト」


その名を、転がすように呟く。


「殺したのだろう、魔法帝を」


ゼルヴァインは答えず、沈黙が続いた。


「貴様が、あれを監獄へ落とした」


一歩近づき、ゼルヴァインはヴァルグを睨み付け、空気が変わった。


「だが——消えた」


「……面白い」


そして、視線が突き刺さる。


「何処だ」


「アルベルトは、何処にいる」


憎しみや正義感ではない。

その笑みは、心の底から楽しみたい表情をしていた。


「知らんな」


ゼルヴァインがそう言い、ヴァルグを言葉で突き放した。

魔力の流れを感じた瞬間、ヴァルグは冷や汗と吐き気、震えが現れるが、一瞬で消えた。


「ッ!!」


ゼルヴァインは表情を歪め、ヴァルグを見つめる。


「……いい圧だ」


ヴァルグは、口元を歪めた。


「だが——」


「それで折れるほど、柔ではない」


「私に貴様の力が効くとでも?」


「分を弁えろ。弱き者よ」


ゼルヴァインの表情は変わらない。

だが——

その視線だけが、わずかに細められた。


ヴァルグは、興味を失ったように背を向ける。

そのまま——消えるように姿を消した。

しばらくして城の外から、大きな音が鳴り響いた。


「な、なんだ今のは……!?」


「地面が、抉れた!?」


舞踏会にいる全員が慌てる中、ゼルヴァインは声を張る。


「静まれ!」


舞踏会は静まり返り、ゼルヴァインの冷静さを見て再び舞踏会が再開する。


ヴァルグ―――

ヤツに何をするつもりだ?


一向、ヴァルグは地面を蹴り上げた衝撃で空を滑空し、とある町へと降りかかっていた。



----



ある程度会話を済ませた後、俺はパンケーキを食べながらアルダの世間話を聞いていた。


「それでさ、服屋の売上が物凄く良くなって先月は黒字だったんだ」


「えらい成功してるじゃねぇか」


「それもこれも全部ハンのおかげ。コイツが作る服はすっごい丈夫で……なんていうんだろ?貴族並みの服だな」


「そりゃ凄い」


「今着てるこれだって………」


突如店のすべての窓が割れ、遅れて衝撃が走った。


「な、なんだ!?魔物!?」


「いるわけねぇだろ、もうすぐ吹雪が来るってのに」


アルダとハンが慌てる。

次第に、二人の目線は俺に向いた。


「どうやら俺の客みたいだ」


店内にいる人々が割れた窓から様子を眺めている中、俺は群衆を掻き分けて外へと出た。


「魔法帝殺しは何処だ!」


地面を大きくへこませ、現れたのは筋骨隆々の大柄の男だった。

男はそこらの種族では感じられない魔力を放っていて、明らかに別格の存在。


一歩、前に出ると、その男は俺の方へと顔を向ける。


「これはこれは……」


男は俺の目の前まで近づく。

その姿は正に歴戦の猛者。

幾戦の死線を乗り越えた強者。


「見つけたぞ」


次の瞬間、男は消えた。


「ッ!!!」


全身に襲い掛かる衝撃。

息が出来ず、力が入らない。


あの男は、俺の胴を掴み——

そのまま地面ごと抉り飛ばした。


視界が弾け飛ぶ。

次の瞬間、俺は瓦礫に埋もれていた。


「我は常に強き者を求めてきた」


「楽しませてみろ」


男は全身全霊で走り出した。


なんなんだアイツ……!


俺は瓦礫を退かし、手に短剣を生成する。

そして走ってくる男に向かって跳び上がり、短剣を振り下ろす―――


が、男は宙にいる俺に向かって跳び上がって捕まえ、俺と男は上空へ――

空気が裂ける。

耳鳴りと共に、景色が一瞬で遠ざかる。

気付いた時には雲の上だった。


俺は男の背中に向けて生成した短剣を振りかざし、刃が肉にめり込むが、その瞬間短剣の刃は細枝のように折れた。


咄嗟に折れた短剣を捨て、肘で男の背中と後頭部を殴り、顔を掴んで狙いを定め、拳を振るった。


しかし、男はまるで効いてない。


空中にて俺を捕まえている男は、地面に急降下すると同時に俺の頭を掴み、まるで鞭を振り下ろすかのように俺を地面へ投げ飛ばした。


俺は腕に大きな盾を生成してそれで衝撃を吸収して着地する。


そこは町から離れた開けた雪原。

止んでいた雪が、少しずつ降り始める。


少しして男が遅れて地面に着地し、俺は雪と土埃が舞い上がる中へと入り、男に向けて拳を振るった。


男はよろめき、一歩後ろへ下がる。


「貪食というのは……スキルを多用すると聞いた」


「貴様は違うのか?」


猛吹雪が降り始める。

一瞬で視界が確保できなくなり、体に雪が積もり始める。


「他人を殺してその力を使うだなんて。冒涜にも程がある」


「フンッ、人殺しがよく言う」


俺は聴覚を変化させる。


雪が積もる微かな動き。

巣へと帰る野ウサギ。

ドアを閉め、魔道具を起動する町の住人。


そして、目の前にいる男の呼吸、心拍音がハッキリと聞こえた。


投げナイフを生成し、両手のすべての指の間に挟み、腕を振るって放った。

ナイフは男の肉体を通さないが、その時に生まれた隙で俺は一気に畳み掛ける。


背後から飛び掛かり、男は気配を感じて振り向き様に拳を振るった。

重厚な拳は俺の頭部を掠り、俺が突き出した拳は男の腰にめり込む。


そして男はすかさず左拳を振るう。


「ッ!!」


男の手の甲が頬を掠り、刃で斬られたかのように切り傷が走った。

俺は男の懐に潜り込み、力を溜めて男の横腹に拳を突き刺した。


「ヌウッ!」


男が怯んだ瞬間――

強烈な一撃が男の顎に直撃した。


男はあまりの衝撃に、足が一歩――更に一歩、後退した。


「ハッハッハッ……」


男の口から血が流れ、顔には猛獣の爪で切り裂かれたような切り傷があった。


「流石だ」


「流石は貪食者」


その瞬間、男の目付きは鋭く変わった。

それはまるでウサギを仕留める狼のように。


「お前は俺に何しに来た。ただ喧嘩を吹っ掛けに来ただけじゃないだろ」


男は不気味な笑みを浮かべる。

この猛吹雪の中でも、ハッキリとわかる狂喜に満ち溢れた表情だった。


「私は常に強者を求め続けていた」


「我が名はヴァルグ」


「ヴァルグ・ザイトライヒだ」


"ザイトライヒ"


その言葉を聞いた瞬間、あの日に覚えた底知れない怒りが溢れ出した。


「殺してやるよ!!」


俺は地面を蹴り上げ、一気に男との距離を詰めた。

懐に入り、拳を下げて、思いっきり振り上げる。


「ぐっ……!!!」


拳はヴァルグの顎を強打し、上空へと吹き飛ぶ。

俺は吹き飛んだヴァルグに着いていくように跳び上がり、ヴァルグの首を掴んで顔面に何度も拳を振るった。


「ああ……これこそが強者だ。私が求めていたものだ……」


ヴァルグは顔面に拳が当たる寸前、頭を動かし、額を使ってパンチの威力を弱めた。

その隙を狙って俺の右手を掴み――


グシャッと手を握り砕いた。


俺は咄嗟に口を大きく開き、歯を剥き出しにしてヴァルグの首筋を噛み砕こうと近づくが、ヴァルグは俺の顔を掴み、着地する際の下敷きとして地面へ抑えつけた。


「ハッァ………!!」


ヴァルグは力を込め、俺の頭を潰そうと体重を掛ける。


「私を楽しませてみろ!貪食者!」


激闘の中、猛吹雪が続く。

俺は砕かれた右手を見て、剥き出しになった自分の骨を見つめた。


「ガアァァア!!!!」


俺は右腕を突き出し、剥き出しになった骨でヴァルグの目玉を貫いた。


「私がこの程度で怯むとでも!?」


そう言うとヴァルグは力を弱め、深い笑みを浮かべ、目から血を流しながら俺から離れた。


「私は心底貴様を気に入った。ここで殺すのは勿体無い」


「次は殺す気で来い。でなければ——価値はない」


そうしてヴァルグは地面を蹴り上げ、空へと消え去って行った。


目に写るのは寒さで固まった血と、徐々に意識が薄れていく感覚。

次第に、暗闇が目の前を埋め尽くした。

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